616 売り子さんの採用面接をする
店頭に売り子募集の貼り紙をしたから講習会の翌日から希望者が殺到した。リンが店頭で受付をしてくれた。
色々な人がいるねえ。これはどこで面接しようか。目立つといけないから、門の外にテントを張るかな。大きなテントで待ってもらって小さいテントで面接。思いついた。面接の時に読み書き、簡単な計算の試験をしよう。面白いなあ。
充分目立つとアカが申しています。
試験官は、エリザベスさん、ジゼルさん、オリメさん、アヤメさんだな。楽しいなあ。
テントを張る場所をロワール商会の支店長に相談しよう。
「支店長さん。相談があります」
「はい。なんでしょう」
「オリメ商会の売り子さんを募集中ですが100名くらい応募がありそうで、城門の外にテントを張って面接をやろうかと思っているんですが」
「それでしたら代官屋敷の大広間をお使い下さい。小部屋もついています」
「いいんですか?」
「はい。代官はホルスト会長で代理は私が拝命しています。会長は表に出ないようにしていますが」
「じゃあ使わせていただきます。手続きは?」
「今承りましたのでどうぞお使い下さい。今日からでもいいですよ」
「当日で大丈夫です」
それでは面接官に連絡。エリザベスさんはOK。オリメさんとアヤメさんは忙しいだろうけど声をかけてみたらOK。自分の店だから万象繰り合わせて出席ということだね。ジゼルさんはオリメさんに一任。それでは現場意見が必要だからマノン支店長を入れよう。
マノンさんは固辞したが助手にリンを付けると押し切った。
さてお楽しみの売り子さん面接の日。まずはちょっと代官屋敷に仕掛けをする。代官屋敷は管理人と数人の役人がいるだけだ。住民とのインターフェイスの部分だけで大半の実務はロワール商会でやっているらしい。役人と管理人さんに話をして、仕掛けを仕込む。
オリメ商会支店の前に100人ほど人が集まった。
衛兵さんが遠くから見ている。近寄って来ないね。
「皆さんお集まりいただきましたね。今日の面接会場は代官屋敷です。では行きましょう」
僕とアカがブランコに乗って代官屋敷まで先導する。すぐ代官屋敷だ。
仕掛けが見える。門の両脇に大きくなった熱帯号と雪原号が目を爛々と輝かせて立っている。背中にはジェナとチルドレンが分乗している。
「一人づつお通り下さい」
マリアさんが迎えてくれる。
僕を先頭にゾロゾロと、入っては来ない。
僕が中で見ていると、最初の数人は無事に入れた。次の人は雪原号と熱帯号に低く唸られた。牙が朝日に輝いている。ジェナとチルドレンはショーコインメツと呟きながら棒を振り回している。受験者が冷や汗をかいている。くるっと向きを変え逃げた。ジェナとチルドレンはがっかりしている。
何か邪な目的があった人だろう。逃げて行く。遥か上空にはドラちゃんとドラニちゃん。あまりにひどい人なのでドーン。晴天の霹靂だ。灰になってサラサラと風に吹かれて流されてしまった。後には何も残らない。道も傷んでいない。衛兵さんが仰天している。
結局門を通過したのは20人だった。
マリアさんが大広間に案内した。残りの80人ほどは自主的に受験を取りやめて帰った。帰る途中10人ほどは晴天の霹靂にあってしまったらしい。衛兵さんが悩んでいる。
熱帯号、雪原号をよしよししてやる。
「良く悪人がわかったね。偉い偉い」
「ジェナの眷属、ジェナとチルドレンの乗り物だからね」
ジェナが嬉しそうだ。ジェナとチルドレンもいい子いい子してやる。
「ありがとうね。遊んでおいで」
「面白かった」
口々にジェナとチルドレンが言って熱帯号と雪原号に分乗して転移していった。
ドラちゃんとドラニちゃんが小さくなって空から降りてきて抱きついて来る。
「良くやったね」
「11人は悪党だよ。あとは小悪党」
「そうみたいだね。ありがとうね。ブランコと見回りに行ってきな」
三人仲良く転移して行く。
さて続きだ。
大広間は受験者20人だけ。余裕だ。
大広間の隣の小さい部屋で面接。面接官は、エリザベスさん、オリメさん、アヤメさん、マノンさんの4人だ。リンはマノンさんの補助というか受験生の出入、試験用紙の配布などの会場係だ。受ける方は4人づつ。
まずは名前を書かせる。それから簡単な足し算、引き算を言って答えを書かせる。
よもやま話をして最後に感想を書かせておしまい。
結果発表は面接が終わったら会議室に貼りだすと告げて、大広間を通らず会議室に行ってもらう。
5回、20人の面接が終わった。
みんなで判定会議。
名前が書けなかった人は残念だ。
足し算、引き算が全滅の方も残念だ。
感想が一言も書けなかった人も残念組だ。
残ったのは10人。
態度が悪かった人を除ける。残り5人。
僕が見るに3人はOK、あとはちょっと売り子には馴染めないだろう。良し悪しではないが。
判定会議の皆さんの結論も僕と同じ。良かった。女性3人に決めた。
では会議室に行こう。
リンが合格者の受験番号を張り出した。
不合格者は大抵出ていったが、中に納得できない人がいて、判定に食ってかかっている。
エリザベスさんが対応した。
「あなたは大変優秀と思います。優秀すぎて売り子には向いていません」
食ってかかっていた人は、虚を突かれたようだ。
優秀と言われて、自尊心をくすぐられて、「そうよね、売り子だものね」と言って帰って行った。
残った三人にオリメさんが説明する。
「合格おめでとうございます。私、オリメと隣のアヤメとエリザベスさんは本店の者です。支店はこちらのマノン支店長にお任せしています。皆さんは明日からマノン支店長の元で働いてください。忘れていました。シン様とアカ様は総責任者です。リンさんは秘書です。よろしく」
総責任者も忘れられる。神国はいい国だ。うん。
「さっきの優秀なというのはいい切り返しだったね」
「自分で優秀と思っているだけで使いものにはならない」
辛辣だ。でも本当だ。
マノン支店長が三人を連れて店に戻った。縫い子さんへの紹介と色々説明があるのだろう。
もうお昼だ。
代官屋敷の人にお礼を言って、ベントーを人数分進呈した。
僕たちはロワール支店に戻る。支店長に無事3人決まったと言っておいた。
「さっき挨拶に来ました。みんな良い娘です」
支店長にも合格をもらった。
マノンさんは縫い子さんと新採用の3人と宿舎のホールで歓迎の昼食会だ。
僕らはスパ棟。
ドラちゃん達、ジェナ達も帰って来た。みんなで昼食だ。
「ジゼルさんたちの服はどうしたの?」
「これから王都に行って服を試着してもらいます」
「それは良かった。みんなに喜んでもらえるだろう」
お昼が終わってブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃんがエリザベスさん、オリメさんとアヤメさんを王都まで送って行った。ジェナたちはお昼寝。
昼休みが終わってマノンさんがスパ棟にやって来た。新採用の三人は帰って行った。
「あのう、衛兵の皆さんがやって来ていますが」
「はい、わかりました。今行きます」
衛兵さんが来ていますね。この間と同じ、十数人でやって来た。暇なのだろうか。
「こんにちは。皆さんお揃いでどうなさいましたか?」
「午前中、代官屋敷の辺りで人が消えたのですが」
「そうですか。それは面妖なことで。私の国の隣国では面妖な事案は衛兵さんは扱いませんが。いつも宰相に押し付けに行っています」
「はあ」
「それで今回はどこからか被害届、行方不明の届などが出されたのでしょうか?」
「いや、どこからも出て来ていません」
「現場には何か痕跡があるのでしょうか?」
「何もありません」
「それではどうしょうもないですね。どこからも申し出がなく、現場に痕跡もないということですから、事件かどうかわからない」
「なるほど。ご教示ありがとうございました」
衛兵さんが帰って行く。
「隊長。報告書はどうしましょう」
「みんなで夢でも見たのだろう。報告書は夢の内容を書くわけにもいかないから書かなくて良い」
「わかりました。それにしてもリアルな夢でした」
「そうだな」
「隊長、思い出しました。夢の中に出てきた男には悪い噂がありました」
「そういえばみんな悪人面だった」
「夢の中で悪人が消えた。良いことだろう」
「そうですね」
隊長、副隊長、隊員は、きっと悪人だから衛兵に言っては来られないのだろうと気がついた。気が楽になった。
「消えた者の周りから衛兵隊に申し出はないだろう」
「はい」
一同同意見であった。
「ではあのお子さんには気をつけよう。なるべく関わりあわないように。触らぬ神に祟りなしだ」
知らず本質に近づいてしまった衛兵達である。




