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嫌われ者の俺がいじめを救い、学校のヒーローになるようです。  作者: 松竹梅竹松
第2章 体育祭

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第2章 第2話 嫌い

「そもそも体育祭というイベントはエゴの集大成だ! 体育なんていう一つの授業にしか過ぎないものに祭りなんてたいそうな名前を付けて、大学受験に関係のない科目で高校生の貴重な一日を潰し、ただ運動が得意な奴だけが得をするエゴのイベント。いや、運動が得意な奴は部活動で充分な成果を上げられているはず。あえて大々的なイベントで結果を残す意味なんて一つもない。つまり体育祭とは運動ができない奴を吊るし上げる、あるいは部活で活躍できない補欠が文化部に勝ってがんばってるね賞をもらう慰めでしかない! こんな一部の生徒のみが優遇されるイベントはもはや害悪と呼んで差し支えない。体育祭は即刻中止すべきである!」



 そう演説する俺が立っているのは、体育祭を中止したいと考えている派閥の前。彼らの代表として体育祭推進派へと向き合っている。きっと彼らも何でもできるカースト上位の奴らが楽しむだけのイベントなんてなくしたいと考えているはず。あぁ、いいことするって気持ちいいなー!



「やはり裏切りましたね……」

「裏切った? 馬鹿言うな依頼内容は内部分裂を止めること。優しい俺はその協力をしてやってるだけだ。体育祭を中止することでな!」



 体育祭推進派閥を庇うかのように千堂が前立つ。構図的に俺と正面対決したいようだ。力不足だと思うがな。



「体育祭とは運動ができる方だけが楽しめるイベントではありません。確かに種目単体では運動ができる方が優位でしょう。しかしチームが一つになる団結感、できないことを恥じずにできる人を応援しようとする心意気。そういったことを学ぶイベントこそが体育祭なのです」

「それははたして体育祭でなければいけないのだろうか。さっきも言った通り、体育はただの一つの授業でしかない。おまけにスポーツなんて将来やらない人の方が多いだろう。だったら教養を深める美術、集中を高め文字を書くという必ず行う行為を学ぶ書道、現代に必要不可欠な情報の授業。こういった科目を祭りと称し励むべきだ」


「……確かに言っていることは間違ってないかもしれないですけど、別に体育祭でもいいわけでしょう!」

「いいや駄目だね元から運動がしたい奴は運動部に入ってるんだよ。なのにやりたくない奴も巻き込んで運動させようだなんて間違ってる! そもそもクラスTシャツとかタオルとか作ろうっていう文化が嫌いなんだよ!」


「それってあなたの感想ですよね!」

「どうせ一回着て後は寝間着になるゴミなんていらないだろうが!」


「思い出はプライスレスです!」

「じゃあ買わせるな!」


「えとえと……そうっ、運動して爽やかな汗を流すのは気持ちいいです! いえこれは別に思ってないですけど! 私も運動嫌いなので!」

「ご丁寧にどうも!」


「あとはあとは……もうぅぅぅぅ……!」

「言い返せないなら俺の勝ちだお前の負けだばーかばーか!」



 頭を抱えうずくまる千堂を見下ろし高笑いを上げる。ここ最近こいつにはいいようにされてたからな……ははは! めちゃくちゃ気持ちいい!



「あの……いいですか?」



 せっかく勝利の余韻に浸っていたというのに、相良が気まずそうに割り込んでくる。



「認識が間違ってると思うんですけど……別に中止派は体育祭をやりたくないというわけではないんです。むしろその逆……やりたいからこそ中止にしようと声を上げてるんです」

「どういうことだよ」


「私は一年生なのでくわしくないんですが、去年は応援合戦がすごい盛り上がったんですよね。例年の体育祭よりも和気あいあいとして、とても賑やかだったって話です」

「賑やかっていうかうるさいだけだったけどな」


「そう、そのうるさいが問題なんです! 近隣の住民から迷惑だって苦情が来たみたいで、学校側が今年は応援を禁止にしろって言ってきたんです。それに反対しているのが今あなたの後ろにいる人たち。応援合戦ができないくらいなら体育祭を中止した方がいい……いえ。体育祭を中止にされたくなかったら応援合戦を認めろと学校側に殴りこむ予定の体育祭過激派です!」

「なるほどなるほど……じゃあ俺はその過激派の目の前で体育祭を盛大にディスったってわけか……」



 ……やらかしたな。どうやらこの空間には体育祭大好きクソ陽キャたちしかいないらしい。そんな面倒な奴らと関わるのはごめんだ。さっさと帰ろう。



「こうなったのも全部お前が悪いんだろ」



 逃げ帰ろうとした俺の足を止めたのは、過激派の中から聞こえた一つの声だった。



「陽火さんがいれば応援合戦が中止になることはなかった。お前がちゃんと庇ってればあの人が退学になることもなかったんだ!」



 声の主……確か同じクラスだったはずの男子がわざわざ俺の前に来てそんな喧嘩を売ってきた。さすがは先輩。知らん奴からもここまで慕われてたとはな。



「……責任転嫁するなよ。応援合戦が中止になるのは俺のせいでも先輩のせいでもない。お前らが無能だからだろ」

「あぁっ!?」



 適当に煽ってやるとクラスメイトが胸倉を掴んできた。ここまで馬鹿だとそりゃ学校に潰されるわな。



「俺たちだって必死にやってんだよ。学校に訴えたり、こうやって抵抗してみたり! 去年も体育祭実行委員だった……今年も去年みたいに盛り上げたいって本気でがんばってんだ! お前みたいな適当なニート野郎がクソみたいな理由で邪魔してんじゃねぇよ!」



 どなたか存じ上げない男子の威勢のいい啖呵。それにつられるように視聴覚室のあちこちから声が聞こえ始める。「その通りだ」、「よく言った」、「無能はお前だろ」、「さっさと消えろニート」。そんな声援と罵声が口々に部屋に満ちていく。それを聞いた俺が返す言葉はたった一つ。



「それだけの熱量があって現状を変えられてないから無能だって言ってんだろ」



 事実はいつだって耳にうるさいものだ。たいした声量も出していないのに俺の一言で教室が静まり返る。その隙を突いて胸倉を掴んでいた手を解き、視聴覚室を出ていく。するとすぐに千堂も小走りでついてきた。



「……先輩。相良さんには悪いですがこの依頼は断りましょう。さすがにあそこまで否定されてまでがんばる必要はな……」

「千堂。あいつらを助けるぞ」



 俺の決断に千堂までもが言葉を失った。そんなにおかしな話だろうか。



「ど……どうして……!」

「一つ、少なからず俺に関係があるから。二つ、お前には関係ないけど俺にメリットがあるから。三つ、うざったらしいがあいつらの本気が伝わってきたから」



 体育祭を中止にしてでも応援合戦をやりたい。応援合戦をなくしてでも体育祭をやりたい。そう本気で思っているからこそ、同じ組織で分裂してまで争っているのだろう。結果は出ていないのかもしれないが、まずはその本気さを尊重しなければ始まらない。だがその考えに納得していないのは千堂だ。



「で……でもあの方たちは先輩を嫌ってますよ? 正直協力して解決したところで見直してくれるとも思いません……。あの方たちは、きっと本気で先輩が悪いと思ってる。そんな方たちを助ける意味なんて……っ」

「お前は自分のことを好きな人しか助けないのか?」

「っ……!」



 さっきまでの騒々しさが嘘のように静かな廊下に、千堂の口内で収まった声が響く。ま、意地悪な返しだったからな。



「別に俺は誰に嫌われようが関係ない。ただ助けたいと思った奴に独善的に手を貸すだけだ。その人のためじゃない。俺は俺のために行動するんだ」



 千堂を助けたのだって同じ。かわいそうだから同情したわけでも、好かれたくてやったわけでもない。全ては俺自身のため。俺がやりたいからやっただけだ。



「まぁ今回に限っては千堂がやらないって言うなら俺もパスだ。助けたくても手段がない。どうする、千堂。お前自身が決めろ。嫌われてでも、人助けができるか?」



 俺は歩みを止めることはない。千堂が止まろうが下がろうが、ただ進むだけ。それでも俺の歩幅に合わせてついてきたいと言うのなら……。



「……先輩が嫌われるのは当然だと思います。口も態度も悪すぎる、最低な人ですから」



 そう答える声は離れる気配がない。俺の隣で、言葉を紡ぎ続ける。



「それでも先輩のことを何も知らない人に悪く言われるのは気に入りません。だからちゃんと先輩のすごさを知ってもらった上で、改めて嫌ってもらいます。そのためなら私もがんばってみようと思います」



 こうして始まった。俺と千堂、それぞれの体育祭が。

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