王太子の決意
エリーゼを見送ったミハエルは、ユリウスの執務室へ向かった。ユリウスは今だにくすくすと笑い続けていた。
「殿下、エリーゼ様はもう帰られましたよ?」
「うん……ふふふふ。」
「そんなに笑われては、失礼ですよ。」
「だってすごく面白いんだ。ミハエル、彼女にするよ。彼女を婚約者にする。ははは。」
「そんな半笑いで……」
ミハエルは笑いながら宣言するユリウスに呆れながらも、ようやく決心してくれたと胸を撫で下ろした。
「もう既に処理は済んでおります。もう婚約者様はエリーゼ様しかおりません。」
「え、本当?」
「はい。既に手続きを終えています。」
「仕事が早いなぁ。」
「お会いになられた日には、決まっていたようですからね。」
「陛下は大丈夫だったの?」
「ご心配をなさらずに。」
「そう……」
ミハエルは、執務机の上にグラスを置くと、ロマーネヴィヨンをグラスに注いだ。
「え、今仕事中だよ?」
「婚約者様が決まったお祝いです。これで、あの毎週開催される意味のない会話をする集会に行かなくて済みます。」
「あれは、仕事だから……」
「無駄な仕事がひとつ減ったのですから、嬉しいじゃありませんか。食事を無駄にすることもありません。」
「そうだね……」
ユリウスはグラスを手に取ると、ロマーネヴィヨンを一気に飲み干した。
「お1人で飲むのは今日が最後ですね。明日からエリーゼ様と一緒です。楽しみですね。」
「え?」
「違うのですか?」
「あ、そうか。考えてなかった。」
ユリウスは、エリーゼとの会話を思い出した。エリーゼが一緒に飲んでくれると言ってくれて一緒に飲もうと約束はしたが、実際にどうしたらいいかまでは考えていなかった。
「エリーゼ様のレッスンは明日からです。とりあえず、休憩時間に伺ってみてはいかがですか?」
「休憩時間?」
「はい。午前と午後のレッスンの間に休憩があるはずです。」
「わかった。そうする。」
「そのためには、この書類をなんとかしないといけませんね。」
「そうだね……」
ユリウスの執務机の上にはたくさんの書類の山があった。
「あ、もういいよ。」
ユリウスはロマーネヴィヨンをグラスに注ごうとしているミハエルの手を止めた。
「よろしいのですか?」
「うん……もうやるから。」
ユリウスがロマーネヴィヨンを飲んで、一杯で終わることなんて今まではなかった。ミハエルが不思議に思いながらグラスを片付けていると、書類を捌くユリウスに釘付けになった。
(どうなってんだよ……)
ユリウスは元々仕事が早く、山のような書類もすぐに片付けてしまうのだが、今のユリウスはそれ以上に書類を捌くスピードが早い。ミハエルはユリウスを見つめたまましばらく動けなかった。