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もうなんでもいいわい

 ようこそ。悲しいことに今日もまた文章を書く。雪が降るって噂だけど、どうにも生温いぞ。きっと明日は雨だろう。雪の方がまだマシだ。冬の雨はどうにも気が重くなる。なにしろ傘ほど邪魔なものはない。道ばたの犬の糞が雨で溶け出して、おれのスニーカーのソールを汚染してると思うと、やりきれない。卵から孵った寄生虫がおれの足を伝って、尿道から体内に入り込んで内臓を食い荒らすんだ。祈っても無駄だ。全身が管の連中の貪欲さには誰も敵いやしない。食い尽くされるだけだ。きりのない食欲。塵ひとつ残さない。痛みを知覚した時点でもう手後れだ。つまりはもう手後れだ。善意への言葉にならない恐怖。誰が連中を導いている? 善人などいるはずがない。正義という言葉ほど胡散臭いものはない。本当か? 少なくとも。おれなんかよりもよっぽど善なる人間は存在しているし、おれは正義を信じている。性悪説を信じて、すべてに疑いの目を向けて、なにもかもを冷笑して、悪に加担しているヤツら。おまえたちの目にはなにが映っているんだ。おれの目に映っている風景とは違うものが見えているに違いない。おまえたちの目と、おれの目、ねじれているのはどっちだ? おれの目から見える風景はいつだってねじれている。それはおれの目がねじれているからか?

 恥知らずな連中のアクロバティックな論説には驚くばかりだ。けれどなにより驚かされるのは、でたらめな言い分に、いとも簡単に納得させられちまう連中が大量にいること。目を覚ませなんて言ってもしょうがない。連中に払うべき敬意なんてもうない。伝染する不安と恐怖。そいつをばらまき、高笑いを決め込む扇動者たち。沿道に集まる抗議者にはカメラを向けずに、伝道師ヅラしたイカサマのカリスマにマイクを差し出す。黒と白でなんでも仕分けちまう、いんちき野郎どもにはもう飽き飽きだ。いまじゃなにもかもが当たり前のように狂っている。少しずつ狂っていったのか、ある日突然狂い出したのか。そいつを確かめる道は日に日に狭まってゆく。常識がねじ曲がり、大衆の脳にインストールされる、新しい夜明け。やかましかったカラスたちはどこに行った? 食い物がなくなり山に帰って行った……。


 ずいぶんと沙都子ちゃんと仲良くなったけど、これが重苦しく胸クソ悪い話の前触れなのだと思うと、先に進める手も鈍くなる。ああ、ひぐらしの話だ。前原圭一。おれはおまえを信じているからな。最終的にはまたみんなで笑い合える日々が戻ってくるんだろうな。おまえが仲間を想う気持ちを、信じているからな。頼むよ、マジで。誰も死んで欲しくないのはもちろんだけど、もう誰の泣き顔だって見たくないんだよ、こっちは。想像以上におれは、くらっちまっているんだからな。クソ、こんなもんに手を出さなければよかった。後悔したってもう遅いんだ。おれはおまえらを好きになっちまった。ここで放り出すわけにはいかない。それじゃなにも救われやしない。おれにできるのは信じることだけ。信じて先へと進めることだけ。裏切ってくれるなよ。頼みましたよ。

 いやあ。テキスト主体のアドベンチャーゲームっつうのは、おもしろいんだけど精神的にキツいね。レイジングループもそうだった。ていうか、ひぐらしを遊んでみて初めてわかるのが、レイジングループがどれだけひぐらしの影響下にあるのかってことだね。おれはレイジングループ大好きだから、順番は逆だったけどひぐらしを遊ぶのは筋道として正解なんだけどさ、それにしたってキツいっすわ。レイジングループの方は主人公が完全なよそ者だし、外道のイカレ野郎だから、それで精神的に救われる部分がたくさんあったんだけど、前原圭一くんは、半分よそ者で半分地元民じゃん。しかも仲間思いの熱い男っていうね。そこが辛いんですよ。苦しいんですよ。まあ、なんのこっちゃって人もいるだろうから、この話はもうやめよう。


 うーん。とりあえず書き続けてみるか。なんか知らんがいまだに毎日読んでくれている人たちがいる。その人たちらに伝えたいが、いまの阿部ちゃんはダメダメっすよ。マジでなんにも出てこない。信じたくないことだけど、おれからユーモアが消え去ってしまった。2024年になり、なにかが変わったとそう言うのか? おれになにが起こっている? 糞詰まり的な気分で、かさかさに乾燥した言葉をどうにかこうにか捻りだしているだけ。こんなことになるなんてな。おれの泉は枯れることなどないと思っていたけど、そんなことはありませんでした。こういう時に腰抜けは、インプットが足りていないなどと抜かして逃げ出すのが常だけど、おれは肝の据わった男なのでそんなことはしない。自尊心がボロボロになるのを覚悟で、書き続けてやろうじゃないか。インプットだとかアウトプットだとかしゃらくせえっての。要はパクリ元を探すってことだろう。だからダメなんだおまえらは。おれもダメだけど。でもおれはそのダメさからは逃げないぜ。真正面から相対するぜ。てめえ自身を解体して、誰にも言っていない秘密をバラして、裏も表もさらけ出してやるんだ……なんて吠えてはみるけど、虚しく空振った空砲が、なにも切り裂きもせずに、ただただ空虚さだけが身に染みるね。

 ううん、ううん、どうしようかな。とりあえず自己紹介。どうもはじめまして、阿部千代と申します。花も恥じらう42歳、B型、乙女座、嘘です、山羊座。北海道生まれ千葉県南部出身、東京都23区内で人生の大半を過ごし、現在はさいたま市浦和区の閑静な住宅街にて籠城生活を営んでおります。性格は穏やかかつ嫋やか。座右の銘は、なめんなよ。

 ぼろぼろだね。もはや見る影もなく。往事の勢いどこへやら。明日になったらなんとかなるさ。なんとかなった試しはないが。それでもするのさなんとなく。のらない気分と身体を抱え。どこへゆくのか渡り鳥。鳥よ、鳥よ、鳥たちよ。私に翼があったなら、いますぐここから飛び去るのに。別れの挨拶代わりに糞尿爆弾、にくいあんちくしょうの顔めがけ。くらえ、くらえ、喰らいやがれ。くらえ、くらえ、糞食らえ。文字通りに糞食らえ。ああ、苛つくっちゃねえよ。いったいどうしちまったんだ、おれは。言葉のファンタジスタ、カルトヒーロー阿部ちゃんはどこに消えた? チーズはどこに消えた? 金持ち父さん貧乏父さん。ロバート・キヨサキはどこに消えた? キャッシュフローゲームっていうボードゲームも作ってたよな。くたばっちまえばいいのにな。唾棄すべきクソ野郎ども。ビジネス啓発書を読んでシコッている貴様らに告ぐ。いますぐにくたばれ。もはや一刻の猶予もないと知れ。


 一方そのころ、おれは今日も文章を書いていた。まさにあと284文字を書けば、今日のノルマは終わりというところまで書き進めていた。長かった。辛く長い戦いだった。だがおれは逃げなかった。でも毎日こんなんじゃあ、10年持つ身体も1年持たんよ。そう言って、寂しく笑った。覚悟はできていた。迷いはなかった。だが道を誤ったという自覚はあった。それでも進むしかないのだ。後戻りなどできやしないのだ。せめて後ろを振り返るくらいは……いや、それすら自分に許しはしなかった。そう言って、怒ったような顔をした。ご丁寧に両手の人差し指で鬼の角まで作った。その丁寧な人柄に我々は心を打たれた。ハートブレイクショット。阿部千代のフィニッシュブロウ。ひとたまりもなかった。水たまりのアメンボが、飛び立つ瞬間を我々は見た! 季節は初夏だった。そう言って、ゆっくりと瞬きをした。ともさかりえの物真似だよ、そう言って我々を煙に巻くのだった。

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