四度目の審判
今夜も書くのだ。おれはこの部屋に常駐して、脳内を雑に記すルポライター。おれが通りますよ、道を空けなよクソヘイター。やあ、こんばんは、皆さんご存じ阿部千代です。おや、おれのことをご存じでない? なるほど。きみがおれを知る術は、日々膨れ上がるこの文章群に散りばめてあるさ。ディグってくれ。そこまでの分量じゃないし、難解なことは書いちゃいないつもりだ。それになによりおもしろい。小説家になろうの中でも屈指のおもしろさをもつ文章群だろうね、夜尿症の少年は。
そんなのいちいち読んでられないよってレイジーなやつもいるだろうことも、おれはちゃんとお見通しだぜ。そうだね、一言で言うと、おれはその辺をほっつき歩いている、野良犬のような男だ。いや、最近は野良犬なんて滅多に見なくなっちまったな。日本人のための安全で安心で健全な社会。最近じゃなんでもかんでも不謹慎だなんて後ろ指さされてしまう。その上で言わせてもらう。ファックユー。おれはおまえらが嫌いだ。好きなものより嫌いなものを語った方が手っ取り早いし、なにより伝わりやすいだろう? あ、誤解はしてくれるなよ。おまえらっていうのは、日本人の大半のことを指しているのであって、この文章を読んでいるきみはそこに含めちゃいない。だってきみはおれの文章を読んでいるでしょう。数少ない正しいドアを開ける方法がわかっている人間ってわけ。
おれのこと、ビッグマウスの勘違い野郎だと思うかい? 数字がそれを証明しているって? わかってないなボーイ。いいかい、それだけちゃんと文章を読むことのできる人間は限られているってことなんだよ。おれだってそんなことは知らなかった。どうしてこんなクソつまらん文章に評価が集まっているんだろう? おれの書く文章の方が圧倒的なのに、なんでおれは誰にも相手にされないんだろう? そんな風に首を傾げていた時期がおれにもありました。でもわかったんだよ。完璧に理解しちまったんだ。ここだけの話な……ほとんどのやつが信じられないくらいの馬鹿なんだ。馬鹿の相手をするのはおれの流儀じゃないんだ。もちろんおれだって馬鹿野郎だ。けれどそんじょそこらの馬鹿野郎じゃない。素敵な馬鹿野郎ってことなんだ。そこらの馬鹿と、素敵な馬鹿の違いがきみにはわかるかな? わからないならおれの文章を読んでみるといい。なんたっておもしろいんだから。
きみたちが謙虚を好むのは知っている。じゃあ、駄文、拙文、失礼します。取るに足らない作者ではございますが……なんて書けば満足かい? 冗談じゃない。そんなものを謙虚とは呼ばない。自分の身を守るための卑怯な嘘って言うんだよ。おれは嘘を書きたくない。非現実なことは書くかもしれないけど、自分を誤魔化したりはしたくないよ。それが不躾だって言うのなら、おれはそれで構いやしないぜ。シカトされようと、嫌な顔されようと、おれは正直を貫くよ。それをする勇気のないやつ、できる実力がないやつ、そんなやつらは勝手にケツを舐め合っていればいい。持ち上げて持ち上げられて、空の向こうまで飛んで行ってしまえばいいんだ。どうせどこかで窒息しちまうだろうさ。おれは地べたをてめえの足で踏みしめてゆくだけだ。偽物の謙虚なんてクソ食らえっつって蹴っ飛ばして、閉塞的な社会通念に中指を立てて、アホらしい慣習と観衆には舌を出して、高笑いしてやるさ。だっはっは。なあ、いつまでドブ臭い夢を見ているつもりだ? 夢も希望もない夢のなかで迷子になっているつもりだ? おれたちはおれたちのまま、強くならないとな。そのためには、まず正直にならなければ。それが現時点でのおれの結論だ。
突然、いままで書いてきたことのまとめみたいな文章を書いてみた。なぜおれがこんなことを書いたのかを説明しよう。つまりはご新規さんへの配慮ってやつだ。夜尿症の少年は物語ではないけど、書き続けている以上、どうしても連続性を帯びてきちまうものだ。実際、おれだっていままで書いてきたことを念頭に置いて文章を書いている場合もあるから、昨日今日初めて読んだって人はわけがわからないことだってありえるだろう? そのあたりをフォローしておこうっていうこのおれの優しさは、もっと色々な人に知られたっていい。まあ今までの粗筋みたいなもんだよ。こう見えてもおれは読み手への感謝は忘れたことはないんだ。きみたちがいてくれるから、おれは文章を書けているんだから、やっぱりできる限りのことはしたいのよ。もちろん至れり尽くせりってわけにはいかんだろうけどね。
そんな感じだな。書くことがなくなっちまった。まあそれはいつものことなんだけど、いままでは一度手が止まったって、すぐに強引に書き進めてなんとかなってきたものが、段々と手が止まる時間が長くなってきたことが、おれの最近の不満。どんどん追い詰められている感があるね。日に日に限界が近づいてきているんじゃないかという、この不安に比べれば、おれの健康とか生活の不安なんて大したことではない。いや健康面の不安なんてないけどな。結構長く生きているけど、身体の不具合なんてどこにもないのよ。若干視力が落ちたかなって程度だね。煙草は1日に10~20本吸うけど、中長距離を走らせたら、大抵のやつはぶち抜いてゆくスタミナは維持しているし。なんてどうでもいいことを書いて字数を稼ぐ。それでもこういうどうでもいいことを書いている間に、どうにかおもしろく繋げることはできないかと考えてはいるのだけど、無理なものは無理だな。おれの文章は内容よりもスピード感重視なんでね。おれ自身がそのスピードに置いてきぼりを喰らうことだってよくあることだ。今日なんてまだよくかじりついている方だよ。こういう状況が文章では上手く伝わらないのが歯がゆいね。おれだって後から読み直したときは、おれがその文章を書いていた状況のことなんて考えたりしないもの。書いている最中と書いた後の文章の印象が全く違うのはそのあたりが原因なのかもしれない。まあそんなことは、読み手にはなにも関係のないことだ。でもおれには大問題なんだよ。それだけは知っていてもらいたいね。
さてさて、あと原稿用紙1枚とちょっとか。さあどんな風に歩いてゆこう。もうここまでくれば、刺激的なことはいらないね。ここまで走り抜いてきて、バカヤロウだのクソヤロウだのとわめく元気はもう残っていないし、それになにより今日のおれはそこまで機嫌が悪くはないんでね。他人のことをあまり悪く言いたくないよ。最初の方にファックユーなんて書いたけど、別にあれは誰に対してとかではないでしょう。概念としてのクソ野郎たちに送るファックユーなわけで。いままで色々なところで見たり聞いたりしてきたクソ野郎どもの総体へのファックユーなんだよ。べつにおれは普段の生活から喧嘩腰なわけではないからね。ディミトリが先生って呼び止めてきたすぐあとにお前呼ばわりしてきたって、微笑みを返してやるくらいにはマナーとか礼儀とかに寛容なやつだから。似たようなことを少し前に書いた気がするけど、放っておこう。いままで何万人の人間が指摘したのかはわからないけど、おれの中で代表的なのは吉田戦車が4コママンガで指摘していたことなのだけれど、ファイアーエムブレムの「ム」ってなんなんだろうなってやっぱり見るたんびに思うよ。エンブレムではいけない理由がいつまで経っても見つからない。ただのミスなのだろうか。でもそんな大きなミスをすると思う? タイトルだよ? きみはミス以外の理由ってなにか思いつく? それとも真相を知っているとか? だとしてもおれに教えてくれなくて結構。謎は謎のまま、その辺に漂わせておきたい。無粋な真実を知らされるよりも、そっちの方がよっぽど美しい場合が殆どでしょう?




