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スムースにバックビート

 さておれはいつまでこうして文章を書き続けるだろうか。おれは月に10万の家賃を支払わなければならないんだ。それに加えてあれやこれや……細々とした金が入り用だ。なんのために払ってるのかよくわからない金もあるけれど、そういったことは深く考えないようにしている。契約だけでも面倒なのに、そのうえ解約だって? 冗談じゃない。おれはそこまで暇じゃないんだ。もちろん文章を書くことをやめたり、ゲームをやったりするのをやめれば時間はありあまるかもしれない。その必要性はいまのところないというだけのことだ。ぎりぎりいまのところは。ああそうだ。もうすぐおれは、すっからかんだ。それでいい。もう一度ゼロからのスタートだ。身も心も軽く、しがらみもなく、おれがおれのまま残っている。最高の仕上がりじゃないか。これ以外になにを望むと言うのか?


 おれの望みはいつだってささやかだぜ。心地よい部屋と寝床。それにコンピューター。あとは月に5万くらい自由に使える金があれば、それでいい。こんな質素な生活ですら、維持しようとするとフルタイムで働かなければいけないってんだから、やっぱりなにかが狂ってら。まあいいや。金の話は気が乗らない。金はやっぱり、ぱーっと派手に撒き散らすのが、一番気持ちいい。稼いだり貯めたりするよりずっと。楽しいし感謝もされるし、いいことずくめだよ。とりあえず財布の中の現金を使い果たすことから始めてみよう。悪くない酒を飲む。いいね。新しい靴を買う。素敵だ。ガールズバーに行く。最高じゃないか。ヒュウ。逞しい女性たちはいつだっておれに元気をくれる。軟弱極まりない腰抜け野郎どもに同じことができるか? おれはとてもじゃないけどできないよ。たちの悪い酔っ払い、勘違いした輩ども、気色悪いうらなりくん、そういった連中をまとめ上げて捌いちまう。もちろんバイト選びを間違えてしまった退屈な女もいないわけではないけれど、大抵の場合において、彼女たちはしたたかで、抜け目なく、気配り上手。おれは彼女たちから多くのことを学んだ。人間との接し方、距離の取り方、聞き分けのないやつの躾け方。尊敬に値する女性たち。そこいらの男なんかよりもずっと。ずっとずっとずっと。


 ずっとむかついている。むかつくことのない一日なんて記憶にないくらいだ。心穏やかになんてなってたまるか。いつだって怒りが渦を巻いて、おれを導いてくれるんだ。社会を変えようなんて大それたことは考えちゃいないよ。おれはおれのやり方で、目の前のむかつくクソ野郎どもに対処していくだけだ。できることなら落とし前をつけさせる。そんなことは稀だけど。なんたって連中は往生際が悪い。一匹になるとびくびくおどおどするくせに、味方が現れると途端に息を吹き返す。クソ野郎のクソ野郎たる所以だな。臆病で卑怯で平気で嘘をつく。マンガの雑魚キャラみたいな連中。音喜多駿っていう金玉野郎がまさにそんなやつじゃないか。極小悪党。あんなやつをはしゃがせている場合じゃない。

 政治家としての山本太郎、れいわ新選組およびその取り巻きは本当にどうしようもない連中だと思うけど、ネットのクソどもに全力でおもねる金玉とっつぁんボーヤに比べれば幾分かマシだ。音喜多くんの主張には、なにも考えずとりあえず反対しといてもいいくらいのクズだということを、覚えておいてほしい。……なんて言ったってな。小説家になろうにはこういうやつを支持している連中が多そうだもんな。

 また阿部ちゃん何かやっちゃいました? あーあ。嫌われるぞー。知らないぞー。


 知るかってんだよ。どうせなに書いたって嫌われるんだ。いまさら遠慮なんてしてられるか。裸になってなにが悪い。これしきのことで嫌ってくるようなやつはこっちから願い下げだっての。八方美人じゃ文章は書いていられない。八艘に飛びまわって、八方を破りまくってやるんだ。誰かの常識をかきまわし、平常心をかき乱す。静謐で透明な轟音ノイズがきみの耳にまとわりつく。レ・ラリーズ・デニュデのギタープレイのように。夜から夢へ。夢から現実へ。そしてまた現実から夜へ。跳躍を繰り返し、境界を曖昧にしてゆく。書くこと。文章を書くという行為。下世話から幻想までをフォローしたいという欲望に抗うことはできそうにない。どろどろに溶けてゆく夜の自意識を一直線に空へと飛ばし、フィードバックに耳を澄ませば、夢の中の巨大な存在感を示すパラボラアンテナがキャッチした現実のひずみ。増幅され濁って歪んだファズギターの音色に似た悲鳴に耳を傾けろ。まるで頭が壊れちまったみたいでしょう。いいんだよ、それで。

 想像力なんて不確かなものはおれに備わっていないんだ。なにかを創造しようなんて考えも消え失せちまって、ただただ騒々しく繋ぎ合わせるだけだな。継ぎ目も生々しくそのままに。ごつごつとした肌触り。滑らかな質感なんて望むべくもない。世田谷区から宇宙を指差す彼らに憧れたってしょうがないんだ。なるようになるし、なるようにしかならないのさ。もう一度言うぜ。裸になってなにが悪い。


 なにか悪いことが起こったって言うと、おたついて騒いで、苦しんでいる人々はそっちのけでなんらかの闘争に持ち込もうとする連中にはもううんざりだ。同じ次元に生まれてきたことが恥ずかしくなっちまうね。だからもう鋭いものは自分の胸に秘めて、ドアに鍵を掛けて、よし、誰も見ていないな? 自分の世界に浸り、こうして文章として解き放つってわけだ。同じ事を繰り返しているはずなのに、日によって微妙に違うものが這いずり出てくる。その微妙な違いをおれは楽しんでいるし、もしよかったらきみにも一緒に楽しんでもらいたい。この部屋のドアだけは鍵を掛けちゃいないからね。誰だって入ってこれるようにしてある。もちろんクソ野郎だって。歓迎はしないけど、拒みはしないよ。おれだって一種のクソ野郎であることに間違いはないんだから。クソ野郎同士仲良くやろうぜ。

 今夜は落ち着きがない夜だね。おれってやつは元々が落ち着きのないやつなんだ。駅のホームで、信号待ちで、病院の待合室で、くねくねかたかた動いている洒落た男がいたら、それはきっとおれだよ。何度も注意されてきたけど、こればっかりはなおらない。意識の外で起きている動きなんだから止めようがないんだ。おれが誰にも話しかけられないのは、この落ち着きのなさが原因だったのかもしれない。今日言われたんだ。周りが怖がるから、あんまり動かないでって。うん? なにが怖いんだ? 彼女が言うには、落ち着きのない人は何をしてくるかわからないから怖いんだってさ。つまりはあれか。イカレ野郎だと思われてるってわけ? そんな馬鹿な。でもそう考えると腑に落ちる点が多々ある。なぜおれは胡乱な目つきで見られがちなんだろう。なぜおれの隣の席は最後まで空いているんだろう。そんな疑問も、この説を当て嵌めるとしっくり氷解、なるほどねって感じ。だからと言って、どうしようもないのはさっきも書いたとおり。原因がわかったからって、なんの解決にもなりゃしないんだ。じっと動かないでいると、頭が狂いそうになる。身体中のあちこちが自己主張をし始めて、意識がそっちこっちに振り回されて、なにかが爆発しそうになっちまう。のたうちまわるエネルギーを身体の外に逃がしてやらないと、どうしようもないくらい混乱してしまうんだ。不安にさせちまって悪いね。なるべく外に出ないようにするから許してくれよ。おやすみ。

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