表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/77

先になにもなくなってしまうまで

 さすがにちょっと飽きてきたな。飽きてきたし、疑問も湧いてきた。こんなことを続けてなにになる? ならないよ。なんにもならない。最初からわかっていたことだろう。いまになってそんなことを言い出すのは感心しないね。こいつは仕事だ。おれがおれに発注した仕事だ。胡乱な契約にサインしたのはおれ自身だぜ。泣き言を抜かすなよ。契約を全うしやがれ。のたうちまわりながら、文章を吐き出しやがれ。それ以外になにができる? 地獄の鬼どもをおちょくり倒して、金棒のフルスイングをまともに顔面で受け止めてやれ。ひらめく頓知で停滞を吹き飛ばしてやれ。ちくしょう、やるしかないんだよ。参ったね。ほとほと参っちまった。くそ、動けポンコツめ! 止めるな、止まるんじゃない! 突っ走れ!


 もしかしたら今日はいつもにも増して文章の体をなさないかもしれない。だって今日のおれは絶不調。こんな日は脳を動かしてはいけない。脳の野郎は裏切りものだからだ! 裏切りものには眠ってもらおう。それが掟だ。起きて、パパ、起きてよ。やめなさい、パパだって疲れているのだから。休みの日くらいゆっくり眠らせてあげましょう。だけどこいつ、ずっと休んでいるよ。それってどうなの。不公平じゃないか。ヘイボーイ、もういっちょボーイ、世の中は不公平なものなんだよ。眠る時間も削らなければいけないほど働かされている連中もいれば、ろくに働かずにパーティー三昧な連中だっているさ。けれど絶望はだれにでも平等に訪れるよ。おれたちがおれたちである限りは。だからって矛盾が解消されたわけじゃない。いつだって選択肢を間違えているのではないかって不安がつきまとう。鏡で自分の姿をみてみなよ。なにかがおまえの背中におぶさっているぜ。恐怖で立ち尽くしてしまうか、そんなもんだと諦め気味に納得してまた歩き出すかはきみの自由だ。見て見ぬふりだけはやめておきな。クソ野郎になりさがっちまうよ。

 もう文章を書くことを精神が拒否している。でも書き続けるんだ。意味のなさない文章だって、偶然だれかの気分にフックするかもしれない。だって大いなる偶然で地球に生命は生まれてきたんだろう? 最初からなにもかも意味がないんだから、おれの文章ごときの意味で悩んだってしかたないでしょう。それとも、あなた、もしかして……作家になりたい、とでも? よしてくれ、おれの文章は売り物じゃない。書き散らして、撒き散らす。ただそれだけのために書いているものだ。金が欲しけりゃ、ごくふつうの労働者として生きてゆくさ。ならばなにを苦しむことがある。適当に書いているんだろう? 適当に書き飛ばしているんだろう? そうだ、その通りだ。だからって苦しんじゃいけないって法はないぜ。出たとこ勝負で適当に書き飛ばすのだって大変なもんなんだよ。気分がすべてだから、気分が優れないときは最悪だ。まさにいまがそれだよ。なんとかかんとか書いちゃいるけど、まったく手応えが伝わってこない。こんなもんを読んでくれるやつがいるのか? いるな。それはいるよ。なぜだかわからないが、それは言い切れる。おれの文章を求めている連中は存在する。書くことに関しては、なんの救いにもならないけど。


 ちやほやされようが、シカト決め込まれようが、文章を書くかどうか決めるのはおれだし、どんな文章が書き上がるのかはおれ次第だ。最近はずっとだましだましでね。納得のいくものがまったく書けちゃいない。どんな文章が納得いくのかって? 愚問だね。はっきり言うけど、書き上がった文章の出来なんてどうでもいいんだ。そんなことよりも書いているときのおれの気分が重要でね。書きながらおれの気分が上がって上がって夢見心地のいい塩梅になれたなら、それが納得のいく文章ってやつでね。書いているおれを楽しませてくれる文章が好きさ。でもそれって文章関係あるのかな? っていうのがおれの最近の疑問。結局のところ書く前からすでに勝負は決まっているんじゃないか。知らねえよ。結局のところ、って言ったってなんの核心にも迫ってないんだよ。邪魔をするな。脳は黙って電気信号でも発してろ。ものを言うな。アミガサダケの分際で偉そうに。おれにはおれの、精錬されていない言葉を吐くっていう、たいへん意義深い仕事があるんだから放っておいてくれよ。

 ベイビー、突き抜けていかないぜ! 同じところをぐるぐる回っている気がしてならないんだ。こんな風景はもう見飽きたぜ。開け、森! 動け、山! 割れろ、海! ……シーン。いまどきシーンなんて口に出して言うやつがいないのはご存じのとおり。それでもおれは時代の割れ目に飲み込まれて、そのまま消え去ろうとしている言葉たちを救い出さなければいけないんだ。そのかわりに、イケメンとかドヤ顔とか、そういうクソおもしろくない言葉を割れ目に投げ込んでいきたいね。ワレメちゃん。この言葉が卑猥だった時代がかつてあった。いまやボードアンカーの商品名になっているという事実。おれたちは確かに進化していることが実感できる一例だ。いまじゃポン中って言うより、シャブ中の方が通りがいいだろう? ヒロポンも過去になりにけり。そんなもんおれが生まれた頃から過去だったけど、それでもポン中って言葉はどっこい生き残っていた。シャブ中がポン中を抜いたのはいつ頃からだ? ゆくゆくはそういうことを研究していきたいね。滅ぶスラング生まれるスラング。流行るミーム廃れるミーム。くすりとも笑えやしないものから、よく考え出したもんだと感心するものまで。おれが好きなのは、激おこぷんぷん丸。なぜ廃れた? 最高じゃないか。はねっかえりガールの信仰するカワイイ神が生み出した最高傑作。彼女たちの言語センスは時に異常。おれの言語感覚が揺すぶられるぜ。


 強引な力業でここまできたな。こんなのも悪くないって思えてきたよ。たまに運動すると気持ちいいだろう。そんな感じ。そんな感じって言うと、おれの頭の中にはいつもKダブシャインが浮かぶんだけど、これっておれだけじゃないよねきっと。トランプ信者から陰謀論者へ。人間コク宝のインタビューの頃からちょっと怪しげなこと言ってたけど、いまじゃ完全にあっち行っちゃったねビッグコッタ。まあそれくらい思い込みが強い方が表現者ってのはいいのかもしれない。適当なこと言ってるけど、まあそんなもんってこった。優れた作品を作る人間と人間性やイデオロギーは一致しない。そのへんの問題はいまだに問題としてそのままごろりと転がっている。おれはこの問題に答えを出せそうもない。ケースバイケースとか言って茶を濁したい。ただ自分の等身大は見越しておきたい。現実から目を逸らし仮初めの幻の中で踊らされるのは勘弁だ。同意を求められても断固拒否。お手製穴だらけのフィロソフィー。理論武装はせず徒手空拳。わからないことはわからないとはっきり言うぜ。その上で自分が思っていることを言うぜ。馬鹿にされたって構わない。マウントポジションの取り合いには付き合っていられない。おれがその気ならグラウンドに持ち込まず打撃で終わらす。七色の罵詈雑言で脳を揺らす。理屈でもそこまで負ける気はないが、理屈を超えたところではもっと負ける気がしない。人の嫌がることをするのには天性の閃きを見せる。おれはその能力を悪党退治に使う。あれ、またこんな話? もういいよこういうの。まあそう言うなって。ちょっとくらいいいじゃん。そんな感じ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ