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数字に対抗する魔法

 なんなんだいったい。PVがググッと増えたと思ったら、次の日またがくんと減りやがる。これは新手の拷問かなにかか。そんなにおれの心をかき乱したいのか。でも、おあいにく様。おれはそんな小さなことでは心を乱しやしないから。なんかもう、どうでもよくなったんだよな、そういうことが。

 もちろん数字が増えていくのは見ていて楽しいのだけれど、考えてみれば結局のところ、だからなんなんだ? というところに落ち着いていくわけですよ。ねえ。考えればさ、誰だって同じ結論になっていくと思うよ。そりゃあれですよ、ここで一旗揚げてやろうって野望を抱いているやつにしてみれば、死活問題かもしれないけど、まあそれもね。チャンスが今しかないわけでもないし、一旗揚げてみたはいいけど、結局さ……っていう感じになると思うんだよね。

 もう一度言うけど、なんらかの数字が増えるのはすごく楽しいし、嬉しいことだよ。それは認めます。おれもそこの反応すらいらないってほど、達観してはいない。というか、そこまで達観していたら、人前に文章を提出する行動が矛盾を抱えることになるものね。ただ文章を書く理由の一番にはなり得ないということですよ。

 こんなことは当たり前のことで、誰もが理解していることだとは思うけど、理解しているつもりで理解していなかったり、理解していたはずなのに、いつの間にかまたわからなくなっていたりしてしまうじゃないですか。だからこうやって自分に言い聞かせることが必要なんだよね。自分って自分が思ってる以上に馬鹿だから。

 数字って強力過ぎるのよ。説得力が半端じゃない。有無を言わせないようなパワーがある気にさせる。だから数字をそのまま受け止めてしまうと、簡単に人間は言いくるめられてしまう。自分がはじき出した数字がでかいと、まるで自分まで偉くなったような気持ちになってしまうし、逆に数字がしょぼいと、自分がとても卑小で価値のないやつに思えてくる。まるで魔法だよ。効果抜群。

 だから向こうが数字という魔法で仕掛けてくるなら、こっちは言葉という魔法で対抗するわけよ。あくまでも数字は数字だと。数字は数字でしかないんだと。数字に対するアンチエフェクトを張るんだよね。それが成功すれば、本当に数字は数字でしかなくなるから。なーんだ、ただの数字じゃん、って。おれべつに痛くも痒くもないじゃんってね。

 ただ、いまのおれが相対している数字って2桁だからね。魔法としては初級も初級なのよ。相手が見習い魔術師だから、おれもでーんと構えていられるけど、じゃあこれが3桁、4桁と上がっていったら? 理屈としては一緒なのよ。でも動揺はでかくなるよね。50が20に減るのと、1000が400に減るのとでは心理的な衝撃がおそらく変わってくるでしょう。これは間違いなく手強くなっているはずだ。だからこっちも、もっと強力な魔法を使わなければいけないわけ。魔法って意思の力じゃないですか。数字って魔法は意思はないんだけど、そのかわり後ろ盾があるからね。万人が認めるっていう。権威を持ってるわけだ。こっちは意思とか精神力なんていうあやふやなもので戦わなければいけないじゃん。不利だよね。でもここで負けると、自分がなにを書いているのかすらよくわからなくなってしまうから、負けるわけにはいかないんだよね。まあ心の準備をしておけば大丈夫だろう。どんな桁の数字がきたって驚かないぞ。1桁でも5桁でもかかってこいや、というね。いつでもカウンターを返せるように構えておくことが大切ですね。一番いいのは数字を見ないってことだけどね。でも見たいじゃない。そこはさ。

 気分だよね。結局のところ人を動かしているのは。だから、自分の気分の変動がどういう傾向にあるのかを把握しておくと、すごく生きるのが楽になる気がするんだよね。

 おれって子どもの頃はすごく気弱で、暴力的な態度とか言動ってすごく嫌いだし怖かったけど、やっぱり生きていればそういうことに遭遇するのって避けられないでしょう。特に中学生くらいの頃ってもう日常だからさ。教師、学年が上の連中、同級の連中、もう暴力に溢れていたからね。時代がそうだったのかもしれないけど。おれはそれを入学式で気づいたからね。気づかされたって言うのかな。記念写真を撮るっていうんで整列してるときに後ろのやつに、いきなり背中を蹴られたんだよね。もう怖いとか嫌いとか言ってられないな、ってその瞬間に悟ったよ。ここで落ちたら、二度と浮き上がれないって。

 それからはもう訓練だよね。暴力的なものにどう対処していくのかっていう。でもその訓練が実になったのって、20歳過ぎてからくらいだからね、結局。人間、すぐに変われるもんじゃないからね。

 いまだって暴力的なものが、すごく怖いし嫌だけど、対処の方法っていうか、出くわしてしまったときに、自分の気分をどこに持っていけばいいかわかってるから、気は楽だよ。飲み屋で柄が悪い連中と席が隣同士になっても、全然平気みたいな、ささやかなものだけどさ。でもおれの中ではそのささやかなもののあるなしで、まったく変わってくるからね、気分が。

 なんでこんなことを書いているのか、自分でもよくわからないけど、いまはこの、小説家になろうっていうものと、どういう気分で接していけばいいのか、色々と実験中であり訓練中なんだよね。

 で、数字への対処方法はもう理解はしたって感じかな。実践となるとまた別の話なんだけど、まあ数字は数字でしかないってことだよね、結局は。自分の書いているものと、関係性が深いように見えて、実はそこまででもないっていう。そういうところに気分をどう持っていけるかが大事だと思うんですよね。

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