ラショナル・アナーキスト・コデックス
なにを書くかのこだわりは捨てた。捨てたと言うより、最初から持っていなかった。いまはどう書くか。抱負なんて大それたものではないけど、そこにこだわっていきたい2024年。なんだかんだ暦に縛られているおれだけど、明けましておめでとう、なんて便りは誰からもこなかったし、誰にも送っていない。紙でも電子でも。それが長年かけて構築したおれの人間関係だ。無駄なご機嫌伺いには応じたくない。おれの勝手なわがままが浸透するのに、いったいどれだけの時間を要したろう。初詣は行かない。神社仏閣好きじゃない。厳密に言うと、そこに集まる連中が好きじゃない。好きじゃない連中にまわりを囲まれると、ひどい頭痛に悩まされることになる。融通は利かない。普通と呼ばれるもののほとんどが苦痛。真っ直ぐに捻くれた41歳が一週間も経たないうちに42歳になる。LV42。そろそろ強さを実感できる頃合いだ。コミュニケーションを恐れない人間嫌い、と見せかけて気分によっては人間大好き。ぜんぶ気分だ。気分で生きている。卑屈に生きるのはごめんだ。退屈は大嫌いだ。鬱屈した雰囲気には風穴を開けたい症候群罹患者だ。そしてクソ野郎どもに感謝だ。あなたたちがおれにいろいろな気力をくれる。夜尿症の少年は今日も元気だ。おねしょを一週間止めることができればミニカーを買ってもらえるんだ。そうは言ったって、自分でコントロールできるものでもないんだ。だから少年は考えた。眠らなければいいんじゃないか。それ以来、少年は一睡もしていない。幻の中でふわふわ生きている。世界はジェリーで出来ていた。新発見であった。
すべてが思っているよりもずっと、脆く儚いものだった。ほんの少しの刺激で、あまりにも簡単に崩れ去ってしまう。神話はすでにケツを拭く紙にもなりゃしない。ブルシットな実務家が幅を利かせてデカい顔をしながら電子上の空論をペラペラと熱弁している。イノベーションのスケールは年々小型化の一途を辿り、いまやシリコンチップの中に収まるくらいになった。直接的な生命活動になんら影響を及ぼさないイノベーション! 見てみろ。人類のほとんどがなにかに置いてけぼりをくらって不満げだ。ごく一部の人間が群体の渾敦となり、自分の尻尾を咥えてぐるぐると回っているのが羨ましくてしょうがないんだ。
メタファー大好きなやつはこういう文章を読むと、興奮するんだろう。こういうなんの意味もない文章をつらつらと書き綴ると小説になるのだろうか。思わせぶりで、着陸しそうで着陸しない文章。手慰みで書くものとしては悪くないけど、こんなことをずっと続ける体力はおれにはないな。衰えゆく体力との戦い。身体的な感覚をダウングレードにアップデートしなくては。たまのハッスルでアキレス腱が避けるチーズみたいになっちまう。そのぶん精神を研ぎ澄まし、意識を地球外に飛ばせるくらいにはなっておかないと、きたるべき新世界秩序に抵抗できやしないぜ。大人になってからのアナーキスト入門。いつだってゼロからのスタートだ。そしておれはいまからゼロの中に立て籠もるつもりだ。いつも心にポイントゼロを。偉くなんてなってたまるか。誰にもおれを尊敬なんてさせやしない。おまえらを見上げ続けてやる。真っ直ぐに、目を逸らさずにな。
ヤケクソでこんな文章を書いているのには理由がある。おれの書いた文章、ほとんど書き上がっていた文章が夕飯を作っている間にすべてぶっ飛んじまったんだ! なんてこったい。おれは絶望一歩手前でなんとか踏みとどまれたけど、かなりのダメージをくらってしまった。わかっている。誰のせいって、そりゃもちろんおれ自身のせいだ。なにか余計なことをしてしまったか、なにかの手順をすっ飛ばしてしまったか。おそらくはこんなことだろうって推測はいくつか思い浮かぶけど、だからなんだってんだ。原因がわかったってなんにもならない。失われたものは戻ってこないんだ。おれの1時間半が無に帰した。無に飲み込まれてしまった。いや時間なんてどうだっていい。徒労感なんぞクソ食らえ。問題は文章の中身さ。なにかが書いてあった。夢じゃない。夢なんかじゃないんだ。ちくしょう! コンピューターは気を利かせてなんてくれやしないんだ。すべてはおれの不注意、迂闊な行動のせいだぜ。こんなときってどうしたらいい? 簡単だ。書くだけさ。それ以外になにがある? 文章をもう一度はじめから。ゼロからのスタートだ。いつだってゼロからのスタートだ。記憶なんてほとんどないぜ! むしろ記憶が邪魔くさいぜ! ほぼ真っさらな状態からもう一度だ。と、そう言うわけなんだ。
気分が悪いね。でも後悔したってしょうがない。わかっているけど、後悔するね。不満がたらたら湧いてくるな。不愉快な気持ちでいっぱいだ。クソ! クソ! クソ! そうだ、こんなときこそ、アンガーマネジメントだ。ちゃんと習ったじゃないか。クソ! ちくしょう!
たまに自分がどうしようもない馬鹿に思える。みじめで情けない気分。すべてにシカトされ、取り残されたような気分。おれが乗り込むはずだったバスが、おれを待たずに行ってしまったような。そんな気分だ。
単純なやつだ。そうだよ、おれは単純なやつだ。これしきのことで簡単に落ち込んじまう。そしてしばらくするとせり上がってくる怒り。頭がしびれるくらいの怒り。鼻息が荒くなり、頭皮がぷつぷつと泡立つ。おれはこの感覚が怒髪天を衝くの正体だと思っているんだけど、きみはどう思う? まあでも大丈夫。キレるってほどじゃない。ヒスは起こさない。物を投げたり、奇声を発したりはしないさ。ぜんぶ飲み下すぜ。炎を腹の中で渦巻かせるぜ。破壊衝動を飼い慣らすぜ。呼吸を整えて、鼻で吸って~、口で吐~く。もう一度、鼻で吸って~、口で吐~く。おれの中の駄々っ子に新鮮な酸素をプレゼントだ。
怒りが鎮まると、なぜか疲れがどっと襲ってくるのはなぜだろう。身体中が力んでいたんだろうか。そしてそのあと決まってすべてが虚しくなる。なにもかもがかなりどうでもよくなる。おれ自身のことさえも。まるでくだらないクソみたいな人間に思える。そいつはもしかしたら間違っちゃいないのかもしれないけど、おれにそれを思う資格はないんだ。本気でそう思うなら今すぐ死んじまいな。嫌に決まってるだろう。だったらそんなことを考えてはいけない。そんなことを考えることは許されていないんだ。自己嫌悪は罪だ。過剰な自己愛と同じくらい、自分に対する裏切りだ。冷静に考えろ。おまえはクソ野郎か? おまえは頭に蛆が湧いたゾンビ野郎か? 媚びてへつらう軟弱なゴマすり野郎か? 精液を撒き散らすことしか興味のない猥褻野郎か?
人生には無数の罠が仕掛けられていて、自分の不注意で、天の采配で、またはその両方のせいで、そいつにはまりこんじまうけど、罠に掛かったからって絶望するにはまだ早い。絶望する前に観察しろ。罠の形状、自分の状態、現在の状況。本当にこいつはおまえが抜け出せることのできない罠だろうか。大抵の場合は抜け道がある。そこに気づくかどうかが分かれ道だ。抜け目なくいこうぜ。笑い飛ばしてやろうぜ。悲しければ悲しいほど、おれは涙なんて流したくないね。真っ直ぐにねじ曲がった捻くれ者なんでな。悪く思わないでくれ。善意に群がるアーティスト。クソッタレ。クソ食らえ。どこまでいっても、おまえはおまえだ。そして、おれはおれだ。




