煉獄の夜はたしかに長いけれど
20年以上前に開けたピアスの穴が炎症をおこしている。手でいじると固まったリンパ液がポロリと落ちる。この穴にピアスを通したのは遙か遠い昔のことなのに。だからなんだってわけじゃないけど、おれが伝えることができるのはこれくらいのもんだってこと。生きている限りはこういったことを繰り返してゆくってこと。意味がわからないだろう。おれだってそうだ。なにも言いたくないけれど、なにかを言った気になりたいだけなんだ。
おれの手持ちはすでに読まれてしまっている。もはや誰かをあっと驚かす手なんて出せやしない。イカサマを使わない限りはね。切り札はいつの間にか捨て札置き場。牙は寄る年波に勝てずにポロリと落ちて、リンパ液みたいになにもかもが落ちてゆく。無駄なものをそぎ落とし、ゆく年、くる年。2023。ふざけた数字とはやっとおさらばだ。それなのにやつが来る。2024。またまたふざけた数字。いい加減にしやがれ。
時代は変わる。それは間違いない。でもいい夢なんて見ちゃいない。いつの時代も変わらずクソッタレだ。これは逆張りじゃない。欲張りどもがそいつを証明してくれるだろう。遠目でみる過去は美しいが、古き良き時代なんてものは存在しない。するわけがない。いつだって希望が持てるのは未来だけ、のはずなのに、クソッタレどもが根こそぎ刈り取ってゆく上前。くだらねえ。つまらねえ。暇がねえし、金がねえ。かねがね考えていた。なぜきみらはこれが平気なんだ。おれから見れば狂気なんだ。瘴気にあてられて病気なんだ。じゃあどうすりゃいいってんだ。これ以上どうしろってんだ。きみたちが、異常を正常だと考えるのを止めるか、それともおれが、正常を異常と考えることができるか。競争しよう。今日そうしよう。瞑想して迷走しよう。真相はこうでしょう。つまりはフリーメイソン。へぇ~、そう。あっちにイッてらっしゃい、お幸せにどうぞ。
いったいどうしたんだ、阿部ちゃん。いや、ブルーハーブ聴いてたらこうなった。すぐにその気になっちゃうからおれは。影響されやすいんだよね。でもそれでいいと思います。あらゆるものから影響を受けて、そいつをチャンポンして吐き出すのが創作活動だろう。オリジナリティなんて言ってるやつは二流もいいところなんだよ。オリジナリティなんてもんは存在しないんだから。どんなジャンルにせよ、綿々と続いている系譜があるわけ。それらの系譜が交じったり、戻ったり、無数に枝分かれしたり。そうして今があるわけ。おまえはその系譜から外れた存在なのか? おまえ如きがオリジナルなんてものを作り出せるのか? すこし考えればわかるはずなんだけどな。そういうことを言い出すやつって大抵なんにも知らないんだよな。井の中の蛙どころの話じゃない。驚くほどの馬鹿。おれに馬鹿って言われちゃおしまいなんだぜ? でも誰も言わないからね。ええ格好しいの卑怯者ばっかりよ。だからおれが言ってやるんだよ。バーカ。
ううん? なんでおれは荒れてるんだ。書いているおれはそうでもないのに、文章のおれは急に馬鹿とか言い出した。よくわからないね。よくわからないことだらけだよ。大人になったら大体のことは理解できると思っていたんだけど、そうでもなかったね。つーか雨降ってるの。なんか久しぶりの雨だね。室内で聞く雨音はいいね。心が安らぐ。外に出るとうざったいことこの上ないけどさ。いつにも増して中身がない文章。これはもうただの独り言だよな。文章じゃない。そういう日もあるんだよ。毎日が日本晴れってわけにもいかないだろう。毎試合ヒットを打つ打者だっていないんだ。文章だって毎日書いてりゃぐだぐだな時だってあるさ。気にしないことが重要です。こういう日は頑張ったってしょうがないんだって。大晦日だよ。だからなんだってのさ。そんなもんそっちの都合だろう。こっちにはこっちの都合がある。いまはただこの文章をどうにか書き進めるだけで精一杯なんだ。カレンダーを見るのはその後でいい。
これでようやく半分だってんだから恐ろしい話だよ。ネタがないとかそういう話ではないんだよね。おれはそもそもネタなんて必要としないし、あらかじめそういうものを用意して文章を書くのが好きじゃない。せっかく好きでやってるんだから好きにさせてくれよ。まあ別に誰もなにも言っていないけど。とにかく文章が走らないわけよ。ぶつっ、ぶつっ、と切れちゃうの。気分が悪いなんてもんじゃないよ。集中ができていないのかしら。いつもならこれくらい書いたら、少しくらいはスピードが出始めるはずなんだけど、おっかしいな。熱でもあるのかな。
ダメだ。仕切り直そう。これはちょっとどうしたことだ。阿部ちゃんパニック。こんな時ってどうしたらいいんだろうね。無理やり突っ切る? それしかないよね。ここで止めるって選択肢はないわけだから、強行突破を試みる。失敗。カーブを曲りきれず、マシン大破。ボゴーン。ピーポーピーポー。
今日の文章、今までで一番ヤバいかもね。文章がヤバいって言うよりおれがヤバいんだよね。まったく頭が働いていない。どうしたんだろう。阿部ちゃん、馬鹿になっちゃった? まあここまで酷いと逆に気持ちがラクになってくるってもんだ。中途半端が一番つまらないわけよ。ダメなときはとことんダメでいいわけ。いいね機能なんかいらないから、よくないね機能つけた方がいいよ。いいね、なんて言われなくたって、出来は書いた本人が一番わかってるんだから。おれはおれの文章を良くないって思っている人がどれくらいいるのかを知りたいよ。良いと思ってくれている人よりもさ。小説家になろうの数少ない不満点はそこだな。つまりさ、簡単に指先だけで、良いと表明するものは3つもあるわけじゃん。評価とブクマといいね。だけど良くないって伝えるのは敷居高いよね。もっとカジュアルにダメって伝えて欲しいじゃん。ああこれだけの人がおれの文章をダメだって思ってるんだなあって実感したいじゃん。そこなんだよな、手応えの無さを感じるのは。だからおれもやる気がなくなっちゃって、こんな文章を書くハメに陥ってるわけじゃん。言っていることめちゃくちゃだろう? そんなことわかってるよ。わかった上でだよ。あがいてるわけ。悪あがきをしているのさ。だってどう考えたってこんなのおかしいよ。なにが? わからないよ、もうめちゃくちゃなんだよ、ちょっと熱を測ってくるわ。
なんかね、いつもよりだいぶ体温が低いね。それってつまりどういうこと? わからん。非常に珍しいケースだ。少なくともおれの身体で確認されたのは初めてだ。人類初かもしれん。もしかしたら貴重なサンプルとして医学に貢献できるかもしれない。色々と搾り取られるんだよ。血液とか骨髄液とか。それでもいいの? いいさ、それで救われる人がいるのなら。おれなんかの液体でよければなんぼでも使ってくれ。ある程度の痛みなら我慢してみせる。けれど激痛はちょっと嫌だから、そういった場合は麻酔をお願いします。それと医療用大麻もちょっと横流ししてもらえると更に救われる人たちがいるんじゃないかなって思うんだけど。それは確かに一瞬の、それもまやかしの救いかもしれない。でもそれすらない人たちが大勢いるんです。おれはそういう人たちにせめてものよすがを配りたい。日本をキングストン、もしくはアムステルダムみたいにしたい。うるせえな。じゃあ日本はどうでもいいから、おれん家だけでもそうさせてくれよ。朝から晩までダブを大音量で流したいね。そんな希望を抱きつつ……さらば。




