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ずっとジョバンニだった

 まったく。久しぶりにTVをつけた。日本シリーズの最終戦以来のことだ。プロ野球のシーズンオフはこの部屋のTVはビデオゲーム専用になるのが常だったが、ゲームプレイヤーたるおれが最近は文章にかかりっきりなものだから、今季は活躍の場がめっきり少なくなることが予想されている。

 そんな中、夕食時になにか急に音が欲しくなったので、TVをつけたというわけだ。おれはお笑いやドラマが好きではないので、必然的にニュースショウを流すことになるわけだが、気づくとおれはぶつくさTVに向かって文句を言っていた。愛知のどこかの町長のパワハラのニュースでは、当の本人の町長がにたにたしながらインタビューに答えている映像をみて頭に血が昇り、つい声を張り上げてしまった。

「こいつをやっちまえ! 吊し上げるんだ!」

 家人が迷惑そうな顔をしていたので、早々に飯を切り上げ、ベランダに出てタバコを吸いながらおれは思った。

 なんてこった。TVとおしゃべりを始めるなんて。おれはジジイになっちまったのか? 

 そうかもな。若いってのが理由の失敗は認めたくねえ、とかアニメのキャラクターが言っていたが、もっと認めたくないものは、加齢だよ。難しいお年頃なのよ。数字上のデータでは、あえて言おう、ジジイであると。そうはっきり結果が出ちゃいるんだが、認めたくないものは認めたくないわけ。参っちゃうよ。そんなおれが阿部千代ですだ。なめんなよ、ヨロシク。


 これ、けっこうシャレになっていない話なのだ。このおれがちょっとガクッときちゃうくらいに悩ましい話なのだ。まさかおれが老いるとはねえ。そんなもの予定に入ってなかったぞ。急に言われても。どうしましょう。

 今日、すごいおしゃれでキュートな若い女性をみてね。水曜日のカンパネラっていうんだけど。いい名前だよね。まあ彼女自身が水曜日のカンパネラって人ではないらしくて、そういう音楽ユニットらしいのだが、問題の彼女のお年を見たら22歳ですとな。おれがいま41歳だから、おれの娘でもおかしくない年頃なわけじゃないですか。ちょっと若い父親ってくらいだろう。実際おれと同い年の従姉妹の子どもが20歳くらいだからね。

 彼女がこの世に生を受けた頃、おれは19、20くらい。まあまあ最近なわけですよ。感覚的には。それでもこんなに育っちゃうんだ……っていうタイムスリップ感。わかりますかね。わからないですかね。どっちでもいいですがね。話は進めさせてもらいますからね。

 おれには子どもがいないし、おそらくこれから先も作ることはないんだろうな、と思う。今のところはその予定でいる。だけど、ああいうおしゃれでカッコいい若い人を見ると、ちょっと羨ましくなるというか、もしおれに子どもがいたら、ラップとか始めちゃってるだろうなとかさ。水曜日の人みたいに自分の好きな格好してね、いやあんなに派手じゃなくたっていいわけ、ロリータファッションだっていいし、コスプレなんかにハマったっていいし。ガッチガチのオタク趣味でも構わんわけよ、興味と好奇心の赴くまま生きてくれれば、それでいい。パパはそう願っている……っていう白昼夢を見ている自分に気づいた時の、恐怖感たるや。わかりますかね。わかってもらえませんかね。


 もうそういう目線で若い人を見ているってことに年齢を感じざるを得ないわけだ。これは由々しき問題だとおれは思う。こんな風に思うのなんて、ここ最近のことだからな。これまでは若い連中にだって、クソガキどもが、どけよ、ぺっ。みたいな態度をとってたおれが。これからはきみたちの時代だぞ、なんてさ。そもそもおれの時代なんて来たことないだろ。ここからがおれの全盛期でしょう。……空虚だな。

 認めよう。おれは往生際が悪い。聞き分けも悪いし、態度も悪い。だからな。抗うぞ。抵抗してやる。最後まで抵抗してやるよ。年齢なんてくそっ喰らえだバカヤロウ。ああそうだ。おれは老いを認めることのできない、勘違いのくそダサ野郎かもしれない。それでいい。おう、おれは若さに未練たらたらの情けない男よ。それでいいぜ。勝手に言ってろ。阿部ちゃんほど若い41歳が他にいるなら連れてこいってんだよ。こんちくしょう。


 ダメだな。今回ばかりは旗色が悪すぎる。正直、勝ち目がないぞ。かといって自分で自分を、おっさんだよーん、なんてさ。この誇り高き男がそんな真似、できるわけがないじゃない。そもそもが年齢の話を自分からしている時点でもうすでに負けてるんだよな。だが死んでも負けは認めたくない。この葛藤よ。くだらないやつだと言わば言え。切実なものがあるんだよ。冗談じゃ済まされねえってんだよ。ふざけやがって。スナック行ってカラオケ歌ってる場合じゃねえんだよ。でもスナック楽しいんだよ。ガールズバーとは違う良さがあるんだよ。ちっくしょう。フィリピンパブとキャバクラは苦手なんだよ。なんか距離が近いから嫌なんだよ。おれは触りたくもないし触られたくもないんだよ。カウンターを挟むから、いいんじゃねえか。わかってねえんだよ、どいつもこいつも……。 

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