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みんなちがうのか? みんないいのか?

 さあて、本日はなにを書こうかな。なにを書こうかな! だから、なにを、書こうかな、って、言ってんだよ!


 無音。静寂。サイレント。メビウス。誰もなにも答えてくれない、この部屋で。今日もカタカタとキーボードを打つ。ひたすらに打つ。無心で打って、結果文章ができていればいいなと思うけど、そんな高等な真似はおれにはできない。打ちながら考える。次の言葉を。言葉を繋ぐ言葉を。繋がってりゃそれでいいんだ。最悪、繋がってなくてもいい。読んでる人が勝手に繋げてくれるから。

 そうだ。文章を書いたなら、読んでもらわなければいけない。せっかく書いた文章、おれだけが読むんじゃあ、そりゃあまりにも虚しいってもんだ。この文章は、読んでもらう必要がある。読み手を求めて彷徨っている。

 だったら積極的に喜んでもらえるような文章を書けばいいのに、そういうものは書かない。書かないの? 書けないの? 両方だよ。書かないし、書けないんだ。書こうとすれば書けるのかもしれないけど、書こうとしたことがないから、実際にはわからない。

 てゆーか、てゆーか、聞いて聞いて聞いて。ウザい女の真似。本当のことを言うと、どんなものを書くと他人が喜ぶのか、さっぱりわからないんだ。てゆーか、てゆーか、本心ではこういう文章が他人に喜ばれると思ってるんだ。でも誰も喜ばないの。最近ようやくわかってきた。おれの文章って求められていないんだなって。ようやく? うん、ようやく。おれの予定では、今ごろ小説家になろうの中でカルトヒーローになっているはずだったんだ。で、出版社からなんらかの打診がきて、おれはこう言ってやるはずだったんだ。

「で? なんぼ出すわけ?」

 あちらさんは、おれの尊大な態度に呆れるやらおかしいやらで、頭の横で人差し指をくるくる回すはずだったんだ。横のデスクの同僚に、頭おかしいわこいつ、って小声で言うんだけど、おれにはちゃんと電話越しに聞こえていて、「おかしいのはてめえの態度だよ!」そう思いっきり叫んで、出版社からの刺客の鼓膜をずたずたに引き裂いてやるはずだったんだ。

 そんなおれの人生計画もパーだよ。計画練り直しだよ。あんたらのせいで。どうしてくれるんだよ。まどうてください。まどうてください。すぐ宮沢賢治出すのやめようか。はい。どうせあんたらは今のがツェねずみの物真似だっていうのも気づかんのだろう。羨ましい。

 おれもあんたらみたいに爽やかに生きてみたいよ。他人の醜いところとか、自分の醜いところとかに目を向けず、青空とか見上げてさ、わあいい風、なんて呟いてみたいよ。北海道に行って、でっかいどー! とか恥じらいもせずに叫んでみたいよ。

 おれなんてさ、普段は超夜更かしのくせして、修学旅行になると部屋でひとり、さっさと就寝するようなやつだからね。別に友だちがいなかったわけじゃないよ。なんか嫌なんだよ。ザ・修学旅行みたいな風景の一部になるのがさ。そういうのがとてつもなく嫌なんだよ。浮かれたくないんだよ。周囲のムードに巻き込まれたくないの。わかりますか? わかってもらえませんか? 頼みますよ。わかってくださいよ。


 ま、わかってもらえないのはわかってるんだよ。なんとなくわかるぅ、なんて言われるのもしゃくだしな。そう簡単にわかられてたまるかってんだよ。はぐれても、迷っても、落ちこぼれても、どっこい生きてるタフなやつ。それがおれだよ。阿部千代だよ。

 だからなんだよ。みんな同じようなもんだろう。そりゃそうだ。違えねえ。みんなそれぞれ生きてるわけよ。みんなちがって、みんなクソなのよ。いや金子さんを貶めるつもりはないけどさ、あまりにも免罪符的な使い方をされすぎな気がしてさ。みんないい、ってやつ。おまえがそれを言うなって光景を何度か見たことがあるからさ。みんなはいいかも知れないけど、おまえはダメだろう、って言いたくなる感じね。

 素敵な一節だと思いますよ。みんなちがって、みんないい、ね。素敵だと思いますよ。もう素敵としか言えませんやね。本気で素敵だとは思いますけどね、だからと言って、これ真実ではないですからね。まったくのでたらめですからね。みんないい、はちょっと金子さん言い過ぎ。なんて言うのは野暮ですよ。もちろん野暮なんですけど、でもマジで信じてるヤツいるでしょう? いません? いるんだよ。

 あれはおそらく願いですからね。みんないい(といいのになあ)っていうことですから。たぶんね。だってみんなよくねえもん。ぜんぜんだよ。ほとんどのヤツよくねえよ。いやマジ野暮を承知で言わせてもらってますよ。でもそうなんだから。阿部ちゃん嘘言わないから。みんなちがって、の部分も実際には怪しいしな。

 繰り返しますけど、金子さんを貶めるつもりはないですよ。よく知らないし。おれが嫌いなのは金子信者ね。ええとほら、おれはブルーハーツ自体はなんとも思わないっつーか、いい歌だなあくらいは思ったりもするわけだけど、なんかブルーハーツにいいイメージが湧かないのは、ブルーハーツを好きなやつってろくでもないやつが多いからなんだよね。そういうことってあるじゃないですか。あるよね?


 じゃあいいですよ! 百万歩譲って「みんなちがって、みんないい」が真実だとしましょうや。だったらですよ。なんでおれはぶっちぎりで不人気なんだよ。ぶっちぎりだからな。あんた、9万文字くらい書いてて評価ゼロって見たことあるか? いやいるかもしれねえよ? 恐らくほかにもいらっしゃるでしょう。でもまさかおれがねえ……そうなるとはねえ……わからんもんだねえ。

 まったく。なーにが、みんなちがって、みんないい、だよ。よくねえんじゃん。少なくともおれはよくねえって烙印押されてんじゃん。おれのカルトヒーロー化計画をどうしてくれるんだよ。どう責任とってくれるんだよ。失意の阿部ちゃん見てあんたらは楽しいかもしれんがな、おれはつまんねえぞ。すこぶるつきでつまんねえよ。やってらんねえよ。

 なんて言いながら、まあまあテンション上げて文章を書いてしまうおれって、やっぱり愛おしい存在だなって思うよ。茶目っ気たっぷり。もう自分で言うからね。あんたらがおれをシカトするから。今日はあれだね。シカトされてることがプラスの方に働いたね。これですよ。これがおれの強さなんだよ。凡百の連中との違いだよね。まるっきり相手にされていないのに、このテンションで文章書けるやつがどれだけいるかって話ですよ。

 正直言うと最初はやる気なかったけどね。もうつまんねーって感じだったけど、カルトヒーローって言葉が出たときくらいから調子爆上がりしたね。なんか自分の分析し始めちゃってるけど。たまにはいいじゃない。よくいるじゃん。自分の書いた作品の解説します、みたいなやつ。いらねえよって感じだけど、あれって需要あるのかな。なんかおれと一緒で誰にも相手にされてなさそうだけど。

 どういう思考を辿るとああいうの書いちゃうんだろうね。やっぱり納得いってないのかな。自分の書いた小説の評価の少なさに。だから馬鹿な連中におれさまの小説の楽しみ方を教えてやるよって感じなのかな。それとも単純に広報活動のつもり? まあなんでもいいけどね。自分で解説とかってあんまり格好いいもんじゃないから止めた方がいいと思うよ。いつかの夜に頭抱えるハメになりかねん。凶暴化した恥ずかしい記憶の破壊力ってのは凄まじいからね。若いうちはやりたいことなんでもできるけど、なるべく自分の魂を汚すようなことはしない方がいいと思うね。後が辛いから。まあ憂鬱など吹き飛ばして、きみも元気出せよ。

 中年以上なら別にいいけどね。もう恥ずかしいことなんてなにもないからね。開き直る技術があるからね。以上、カルトヒーローからのアドバイスでした。

 さてさて、カルトヒーローはそろそろ宇宙に帰ろうかな。今日は地元の星で飲みがあるんだ。明日は二日酔いで文章かけないかもな。カルトヒーロー、いまのうちに謝っておく。それじゃいってきまぁす。

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