アンバランス・サンデイ
結局は直感を信じるしかない。自分の持つ感性というやつが命じる判断に従うしかないのだ。おれの原初の感性を育ててくれたのは、ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンに登場する怪獣や宇宙人のデザイン。ゴヤの巨人。風の谷のナウシカ。アニメの背景を生業にしていた親父が土産に持って帰ってくる、見たこともないアニメのセル画や設定資料。始まりは視覚の記憶。そこに言葉は存在しなかった。
やがて言葉を覚え、自分の居場所に輪郭ができ、他人とのコミュニケーションが始まり、なにかが爆発する。一直線だったものが、無数に枝分かれして、精神世界を暴れまわった。興味の赴くまま、マンガ、小説、ビデオゲーム、音楽、映画。むさぼり、食らいつき、咀嚼し、ときには吐き出す。
そして風が吹いた。おれこそがおれだ。おれが阿部千代だ。なめんなよ、ヨロシク。
なぜか混んでいた日曜日のスーパーマーケット。レジに並ぶ人々。おれもそのひとりになろうとしたとき、婆さんとかち合った。おれは機嫌が悪くなかったので、どうぞ、とマスクの下に笑顔を作り、身振りで先に並んでもらうよう促した。婆さんは当然のことのような顔をして、おれを一瞥もせず列に滑り込んだ。おれは結構むかついた。
日々、こういったことにうんざりしている。もちろん時にはしつこいくらいに礼を言ってくるやつもいる。それはそれで、中々うざったいのだが、今日の婆さんよりはまだましだ。
こういう性根の腐った婆さんは普段なにを食っているのかなとカゴの中身を覗いてみる。味付け肉、特売のチョコレート菓子がふたつ、発泡酒、冷凍ギョウザ、じゃがいも、銀鮭の西京漬け。婆さん、もう少し野菜を食った方がいいんじゃないか。大きなお世話のおれだ。
それにしたって、今日のレジの混みようはなんだったんだ。おれは列に並ぶことがとても嫌いなんだ。わがままなんだぞ、おれは。順番を待つ時間。人生の中でこんなに無駄な時間って他にあるか? だからおれは総合病院は大嫌いなんだ。あんなところに行って半日潰してたら、それだけで病気になっちまう。おれはもう二度と順番待ちをしたくない。とつぜん寒くなった日曜日の16時30分頃はスーパーマーケットがとてつもなく混む。覚えておくとしよう。
ここからは陰口ではあるが、悪口ではないのでなんとも思わないで欲しいのだが、Amazonにあげたレビューを小説家になろうに転載してるやつがいるが、あいつは一体なにを考えて、ああいった行動に出ているんだ? 布教みたいなもんなのか? ちょっと読みに行ってみよう。……うん。やっぱりよくわからん。音楽ライターとかを目指してるのかな。ううむ。よくわからん。
レビュー病にかかっているやつっているよな。あ、これは小説家になろうにいるやつとは全く関係のない話だからな。Amazonのレビュー欄を見てると、神経質そうなやつが書いているねちっこい文章に出くわすことがある。そういうやつのレビューをたどっていくと、こいつ買ったもの全部にレビューしているんじゃないか? と思わせるほど、よくわからないもののレビューをしてたりするわけだ。
爪切りとかさ。懐中電灯とか。椅子とか。電池とかな。他のやつは知りたいのか? 電池を使った感想を。というよりも、電池の感想なんて出てくるもんなのか? しかもめちゃめちゃ文句言ってたりする。電池に不満も満足も、おれ感じたことないよ。
なんか謎の面白さがあるから読み進めてしまうのだが、商品の評価なんてどうでもよくって、次はなにをレビューしてくれるんだ? っていう期待感だよな、こうなると。もうなるべくレビューって概念と乖離しているものが欲しくなる。バケツとか、爪楊枝とか、輪ゴムとか。量が多くて中々使い切れないので、☆-1です。とか書いていて欲しいね。
こういうのもいわゆる承認欲求ってやつのなせる業なのだろうか。それともおれが知らないだけで、ここ小説家になろうみたいに、Amazonレビューを評価するシステムが確立されていて、ランキングとかがあったりするのだろうか。はたまた、これは一番つまらなくて一番ありえそうなやつだが、レビューを書くことによって、Amazonでのお買い物がちょっとお得になったりするのか。
なんにせよ、この星5つが満点の評価方法はなぜこんなにも人を惹きつけるのだろうか。おれとしては、ざっくりしすぎのお手軽すぎで、評価として参考にならないと思うのだが。その道に長けたやつの満点と、まったくのど素人がつけた1点が、同じ評価としての価値をもって並ぶって時点でさ。こんなもんどう考えても、評価システムとして破綻してるだろう。
食い物屋とかもこれで評価されてるものな。おれの文章なんかは生活かかっているわけじゃないから、星1つつけられようが別にいいけど、商売でやってる方としたら、たまったもんじゃないよ。たった何人かの悪意で店が傾いちゃうかもしれない。けれども、こういう評価サイトに登録しないと、客が寄りつかないのでしょう。恐ろしい話だよ。
今日のおれの文章は、おれが書いたにしちゃすごくつまらない文章だけど、それでもそのへんのやつが書いた原稿用紙2枚いかないくらいの、2、3分で読み終わって印象にも残らないような、薄味すぎるにも程がある文章よりはよっぽど面白いわけ。絶対にこれだけは譲れないのよ。だって明らかにそうだから。事実としてそうだから。勝負にもなってないのよ、本当は。
でも実際はね。数字だったらおれのぼろ負けだからね。なにかが間違ってるよなあ、としみじみ思う日曜日の阿部ちゃんだったのでした。