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曇天のカナタ  作者: 菊桜 百合
序章
5/61

第五話 彼方で流離う、ユウ情に(後編)

2024.07.01 追記

加筆修正しました。

 緑の光に目を眩ませていると、後方から声が聞こえた。

 聞き覚えのあるその声は、優しくも圧のある独特の声をしている。

 振り返った少女は、声の主を見る。


「……」


「あ、別に、気にしないでいいよ?こっちが勝手にやって来ただけだから」


「えぇ」


 空間の存在を認めていないように感じさせる『何か』はその身の周辺をも変容させる。

 相変わらずの《変化》だ。王たる少女はそう思った。

 仮にも、王の御前だというのにふてぶてしくティーカップを傾ける性別不明の何かは、口を開く。


「まぁ、いいでしょ。これくらい?」


 長い付き合いであるからこそ、ある程度の意思疎通は可能になっている。


「ええ」


 それでも言葉にする事が大事だというのは、誰かからの教えだ。


「どれくらい」


「ん?ああ、そうだねぇ、こっちに来たのは君に聞きたいことがあったからなんだよねぇ。…だから?居ても数十分じゃない?」


「そう」


「ハハハッ。相も変わらず感情の無い人だ。…まぁ、それも仕方がないよね」


 ニヤッと笑うと、白い歯が露呈する。


 執務室の椅子に座っていた少女は、()()の対面にあるソファへと移動する。柔らかくされた皮を用いて作られたソファは反発の少ない上質なモノだった。子供が座ったら喜んでソファの上でジャンプでもするのだろう、そんなソファに対面で座る二人。お互い無言で見つめ合いながら時間だけが過ぎていく。

 ノックの音が三回鳴る。


「どうぞ」


 そう言ったのは()()だ。《変化》で声帯をまねているのか、少女自身ですら少女の声だと誤認した。



「失礼いたします」


 もちろん、執事の男も同様だった。(あるじ)に入室の許可を得たものだと勘違いし、気まずい雰囲気の部屋へと足を踏み入れようとする。

 しかし、執事の足は、部屋の敷居をまたぐことはしなかった。踏みとどまったのだ。

 王がいるのは兎も角として、何者かが同室している。友人だろうか?しかし、雰囲気は最悪だ。どちらだ?

 と、自身の思考を最大限巡らせる。

 体外的にはこの焦りを隠しつつ、動揺を隠す。

 この状況でそれができるのはほんの一握りだろう。


「うっわ。すごい子もいたもんだ。この状況で顔色変えずに、焦りを中だけで完結させているよ。……面白い物も見られたし、もういいよ」


 ()()は指を軽く振るう。途端に、執事の眼は虚ろとなり、自意識は失われた。一連のやり取りに一切の関わりを見せようとしない少女は、目を細めつつ執事の持ってきた紅茶に手を付ける。



「……何もなし?」


「なぜ?」


 呆れたように()()は手を動かす。


「仮にも従者だろう?心配ぐらいしたらどうだい?」


「そうね」


「……相変わらずだね…」


「それで?」


「ん?…あぁ。『聞きたいこと』ね?」


 肯定を示すように、少女は無言で紅茶を飲む。

 リアクションも無しか…。と、思わず苦笑いをする()()を完全に無視しつつ少女は、話はまだかと眼を向ける。


 引きつっている頬をどうにか治めつつ「わかったよ」と()()は話し出した。


「どうするの?って話。とりあえず王になることは出来たわけで、平和な世の中にもできたわけじゃん?…これからはどうやって行く感じなの?」


「……世界の行く末を見る」


 ()()は意外な物を見るような目で少女を見つめる。


「…正直意外だ。君の口からそんなことが出てくるなんて。……これもあれかい?…君なりの解答ってわけかい?」


「……」


「ああ、いや、答えなくてもいいよ。言語化できるような事柄でもないしね。………さて、そろそろこっちはお暇するよ」


 そう言って()()は窓から空を見る。薄明の宙は一等星を映しつつ、月夜の訪れを告げる。少女も釣られて窓に目を向ける。

 パチン

 落ち着く空間の中でフィンガースナップの音が耳に届く。

 少女が視線を戻すと、()()は何処にもおらず、執事の自意識も回復していた。記憶の改ざんも行っていたのか、執事の動作に違和感を抱かない。思わず笑みが零れてしまう。


「いい天気ね」


 笑みをごまかすように、雑な話題を執事に振る。決して嘘を言っているわけでは無いので、許してほしいものだ。


「そうでございますね」


 何処か憂いの感情がこもっているかのような所作に、執事は感づいたとしても突っ込むことはしない。ただただ、主との会話を紡ぐだけだ。




 友情の中にあった憂情は彼方にも分からない。

 まして、自身の感情を正確に理解することなんて絶対に不可能だろう。では、なぜ今求めようとしているのか。その感情とは何なのか、探してしてしまうのか。

 そのような疑問には誰も理解し(応え)てくれることは無い。何処まで行っても少女は依存しているのだった。


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