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曇天のカナタ  作者: 菊桜 百合
第1章 陽光なくとも花々は咲き誇る
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第四十三話 陽光なくとも花々は咲き誇る (後編)

後編です。

前編も同時刻に投稿されています。

「私も剣をふりたい!」

 父親の足にしがみつき駄々をこねるヒナは、子供ながらに全力で振りほどかれないようにしていた。

「ははは。そうはいってもな、今のヒナの身長では無理だ。そうだな…十五歳位になったら私の剣を譲ろう。それでいいかい?」

 力ずくで振りほどこうとはせずに諭される。自らの無力さを見せてくるようでやるせない気持ちになっていく。

 ここで「いーじゃん!」とより駄々をこねてもよりみじめになるだけだと幼いながらに感じた。


「…わかった」

「ふふ、どうやら納得はしていないらしいな」

 そう言いながら、優しく頭をなでてくれる。

 自分の頭を簡単につかめそうなぐらいの大きな手はその大きさに反して触り方は繊細だった。


 その手を使って、父は肩に乗せてくれる。

 ヒナはこれが好きだった。

 自分の背の何倍にもなる父の肩から見る景色は、曇天の空関係なく、世界の美しさを見ることができたから。


 家から庭を一望できる窓が開く。

「…あら、そろそろご飯だから呼びに来たけど、楽しそうね」

 母が窓から顔を出した。それはきっとヒナの顔を見て言っているのだろう。ヒナ自身も自分がとてもいい笑顔でいるとわかっていた。


 自分はとても幸せだ。


 そう疑わなかった。

 仮に、何か大きな災害があったとしても自分たちは大丈夫だという根拠のない自身があった。


 …そう信じていた。




「これは、私の父の剣です」


 ヒナはその剣を手に取り、抱きかかえる。まるで、赤子のように優しく、丁寧に胸に抱いている。その閉じられた目にはキラキラした小さな粒が見えた。

「…そっか。これ、ヒナの家の床下収納にあったよ」


「———そうなんですか。……この剣は、自分が十五歳になったら父から貰い受けるという約束をしていたんです。…でもなんでマーリンさんの魔力で守られてたんですか?」

 当然の疑問だ。

 マーリンと母のつながりは知っていたがヒナがここに来てからはそのつながりが継続していたことなんて知らされていない。

「ハルジオンがまだ残っていた時…」

 そう言うと、マーリンはヒナの疑問に答え始めた。





 マーリンについていくと決めたヒナは、自室に行き準備をしている。

「そうだ。マーリンさん。ハルジオンを出発する日付がわかったら教えてくれませんか」

「…なぜ」

 ヒナの母からのお願いに問いを投げる。

「一応、私も一児の母ですもの。自分の子供に何かを与えてやりたいという気持ちは持ち合わせているつもりですよ。

 ……昔、ヒナが欲しがっていた剣があるんです。それを旅立ちの贈り物にしたいのです」

「…わかった、分かり次第連絡する」

「お願いします」

 ヒナの母は深々と頭を下げた。





「念のため、防護魔術をかけておいた」

「…だから、ヒナにしか開けられなかったのか」

 コクリとマーリンは頷く。


 ヒナは、泣いていた。


 マーリンから聞く、自分のことを考えてずっと保管してきた剣が今ここにあるという状況に感謝しながら、その感謝すべき対象がいないことに涙を見せた。

「……もう一度、挨拶してきたら?」

 カナタは提案する。それで解決できるわけでは無いことは重々承知の上でそう言った。

 

 きっとそれが今のヒナにとって、少しの救いになると思ったのだ。

「…はい」


 静かに返事をして、駆け出す。

 さっきまでいたマーリンの家の後ろにあるお墓の下へと。


 何を言えばいいのか、初めは分からなかった。

 だって、言ってしまえば存在しない人に対して感謝をするのだ。それが実の両親だとしても、なんていえばいいのかなんて理解できる(分かる)はずもない。


「…お母さん、お父さん。………ありがとう」

 簡単なことしか言えなかった。

 けれど、穏やかに吹いていた風が突如、少し勢いを増した。

 

 言うなれば、頭をなでていた風は、背中を押しているような風に変わった。


 風に乗って花弁は宙を舞う。

 茎も左右に揺られ、まるで手を振っているようだった。


 涙は隠せなかった。

「本当に、ありがとう」

 頬を伝う水を拭うことはしない。

 それをしてしまうのは何か違う気がしたのだ。


 外聞も、気恥しさもその風の前ではどうでもよかった。

 ただ今は、この風を少しでも感じていたかった。


 風は、少ししたらまた穏やかなモノに戻っていた。

「…行ってきます」

 まるで、散歩にでも行くかのように、言葉を紡ぐ。

 返答なんて求めていない。


 もう、風には触れなくてもいい。


 涙は止まっていた。




 お墓を後にする。


 背に温かい何かを感じながら、前を向き、大きく一歩を踏み出す。

 今のが、見せかけでもいい。

 

 それでもうれしくて、爽やかに、進んでいけるという確信があった。



 ヒナの去った後のお墓では、太陽なんてないこの世界で、凛々しく、けれど儚く、花々は咲き誇っていた。


一応、2章はこれで終了です。

1章との配分おかしくね?と思った人、その通りです。元々ここまでが1章の予定でしたが、ヒナの修行に1年使うように変えた結果このような比率になってしまいました。


《これまでの謝辞》

 このような文才もない私の小説をお読みくださりありがとうございます。

 駄文の多いこの作品にも一定数の固定読者が出てきたのではと思われます(アクセス的に)。本当に感謝しかないです。人の評価を求めるためにやっているわけではありませんが、やはり評価されるというのはうれしいものです。

 これからもゆっくりマイペースに更新していくと思います。よろしければ応援のほどよろしくお願いいたします。

 

  菊桜 百合


《追記》

 1章と2章を合体し、1つの章に変更しました。

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