第三十一話 各々の目的
土日で何話か更新する予定です。
この話は3個目なのでご注意を…
「馴れ初めはこんな感じです。それから、3か月間この家の周辺で主に剣術の修行をしてきました」
カナタは何敗目になるかの紅茶をテーブルに置きなおし、改めてヒナの顔を見る。
「ヒナとマーリンの馴れ初めはわかったんだけど、じゃあなんでハルジオンではマーリンがあんなに恨まれてたん?」
「え?」
ヒナにも理解していないことだった。
この反応を見たカナタと、ヒナは二人そろってマーリンを見る。こちらの視線に気づいたのか、簡単な話だと言わんばかりに口を開いた。
「簡単よ、記憶改変しただけ。ヒナの両親を除いた町民にね」
「ーーはぁ」
カナタはため息をつく。だから人尺度を知らないやつは面倒だと思いながら、ヒナの顔色を窺う。
眼に、涙を薄く浮かべながら『そっか』と小声で言っているのが目に入る。
何を言えばいいのかわからないところを実感すると、やっぱり自分も人ではないのだと自覚する。
「それなら、良かったです」
予想外の回答をするヒナに、目を見開く。
なぜと問いたくもなるが、そんなことを聞いてもいいのかと葛藤に苛まれる。
「いいんです。だって、町民にとってはよくわからない人達の作戦を全面的に信頼してもらう方が大変ですから」
悩んでいるカナタを視て、ヒナの方から理由を説明してくれた。
「そういわれると、何も言うことは無いかな……」
「そうです!そんなことより、作戦の詳細を教えてください。かれこれ3か月も修行して、カナタさんも合流できました。すぐにでも実行するべきです!」
「出鼻をくじくようで申し訳ないけど、まだ、実行はできないんだ」
「そうなんですか?ちなみに理由は」
「実力不足」
なんて説明しようか考えていたカナタを無視して、マーリンはヒナにズバッと言った。
(あーあ。やってるわ)
言動にあきらめを覚えた。
「ほら、元気出して。自分のおかず上げるから」
「…なんか子供扱いされている気分です」
確かに、不機嫌になった子供にはおかずを上げればいいかとは思っていたが、そういわれると困る。
マーリンの不用意な発言の後、日は暮れ夕食の時間となっていた。マーリンは基本的になんでもできる。それもあってごはんには何も不自由することが無い。
「……実際問題、私はどれくらい強くなればいいんですか?」
結局、カナタのおかずであるハンバーグを貰ったヒナは、質問をする。
「そうだねぇ。……剣の腕ならわたしと遜色ない実力を持ってほしいかな。いつでもヒナのことを守ることは出来ないからね」
ヒナはがっかりしたようにうなだれながら口を開く。
「遠い道のりですね」
「おそらく、一年もあれば欲しい実力に到達するよ」
励ますつもりで言った発言がヒナをよりがっかりさせたのか、ショックを受けた顔をしている。
「こればかりはしょうがないよ。あきらめてくれ」
「そういえば、結局ヒナがマーリンについていこうと思った原因は何だったの?」
過去の話を聞いても明言していなかった内容に踏み込む。
「あれ、言ってませんでしたっけ。実に浅い理由ですよ。ーーー太陽が見たいんです。小さいころ読んだ物語に出てきた世界が好きで…」
「へー。そうなんだ。どんな内容なの?」
頭を掻きながら、少し恥ずかしそうに話し始めるヒナに詳細を求める。
「ほんとによくあるモノですよ。主人公が仲間を募ってドラゴンを討伐するっていう感じの話です。…確か題名はーーー」
「ーーー『快晴の大地より』」
ずっと黙っていたマーリンが珍しく口を開いた。何も話さずに食べていたからか、食器の中身が空っぽになっている。
「ッ!」
「そうです!よく知っていますね!」
「…有名だから」
「やっぱり、いいですよね『快晴の大地より』!個人的にはーーー」
「ーーーまぁ、私の場合はこんな感じです。というか、マーリンさんはどうなんですか?なぜ虚王の討伐を目指してるんです?」
ヒナの、快晴の大地よりの話も済み、話はなぜ虚王の討伐を望むのかに戻っていた。
「私は、カナタがそう望んだから」
「え、あの、もっと無いんですか?」
一言にまとめられたことで、肩透かしを食らったヒナは、食い下がる。
「別になんでもいいでしょ。みんな各々の目的のために虚王を撃つ。それで何も問題ない」
マーリンの存在を知っているからこそ、カナタはヒナを止める。
少し納得のいかないヒナだったが、これ以上は踏み込めないと感じたのか、おとなしく引き下がった。
(虚王を撃つ。そして、やっとスタートラインだ)
(虚王を撃ったら、太陽が見れるのかぁ)
(虚王…)
後々、この夜の決意表明が伝説の始まりだとして、この日を記念日にしようという話が出るのは、まだまだ先の話である。
1章完結です。
次章後半あたりでやっと冒険に出ると思うので気長にお待ちいただけると嬉しく思います。
追記
1章と2章を合体させました。




