第二十三話 自意識無き襲撃
三人は森を全力で走る。
いつもなら迷わせてくる工房も、主であるマーリンがいるからか、まっすぐな道しか作らない。
少しの時間走り抜けると、浅瀬の川が見えてきた。ハルジオンを隔離する川だ。
カナタはそのまま川に足を付けポケットからグローブを取り出していた。
「はぁ、はぁ、…あの、一体何事ですか?」
呼吸を整えながら、質問する。それを見たマーリンは軽く背中をさすってくれる。
「虚王のホムンクルスが来る。…多分、10体ぐらい」
「えっ」
ヒナはホムンクルスの強さを聞いていた。過去、ハルジオンの近くの村を襲ったことがあったらしい。たった3体のホムンクルスでその村は崩壊した。何でも、破棄しようとすると大爆発が起きるらしい。その村の跡地に実際に行ってみたことがあったが、そこには3つの大きなクレータが残っていた。
ハルジオンの岩壁は表向きには川の洪水対策だが、裏の目的としてホムンクルスへの対抗策らしい。
「大丈夫」
ヒナの考えていることが分かったのか、マーリンは優しくヒナの頭をなでる。
「カナタと戦ったなら分かるでしょう。カナタは強い。何なら私より」
それを聞くと、焦りはすっと少し引いた。
カナタの具体的な強さは知らないけれど、マーリンの強さなら毎朝実感している。
(それなら、きっとホムンクルスも大丈夫、だよね?)
パン!
グローブを付けた手で、合掌する。
右手と左手のそれぞれに描かれた半円の魔術陣を寸分違わず合わさる。奇麗な正円を手の中で作り魔術を流す。
発光とともに、手の中に質量を感じる。
合掌を解くとそこには杖があった。
マーリンの家に置かれていたはずの杖を呼び戻したカナタは、杖を構える。
後ろから吹く‟春呼びの風”がカナタの髪をなびかせる。遠くに見えるローリエ山脈は、雪解けを始めたのか、頂上部を残して勇猛な山肌が露出していた。
「焦ったけど、大丈夫そう、だね」
川の水をジャバジャバと触りながら一人ごとを口にする。ぴっぴっと濡れた手を払い水払い飛ばす。
視界の果てにホムンクルスの大群が見えてくる。ヒナにとって恐怖の対象であるホムンクルスはその足を止めることなく一定のスピードで進み続ける。
彼らにとって道は道ではない。
木々の合間を縫うこともせず、その頑丈さにモノを言わせただまっすぐに進む。自我の無い鋼鉄の体躯を持つその存在は自然を破壊し小動物を殺戮する。彼らにとって目的地までの道のりは障害物の無い平原に過ぎないのだ。
川の温度の把握が済んだのか、カナタすぐさま行動する。魔術で召喚した杖を地面に突き刺す。そのまま全身に保持している魔力を手のひらを通して杖に込める。カナタは、魔力消費特有の脱力感を久々に感じながら術式を編み始めた。
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