第二十話 とりあえず…
またまたブックマーク者が増加していました。
本当にありがたい限りです。
元々、マーリンの家には一人用の家具ばかりだった。
カナタの友人がマーリンぐらいだったようにマーリンにとっても友人はカナタぐらいだった。しかも、そのカナタは基本的に一つの場所に留まることをしない。
必然的に、一人分の家具で充分となるのだ。
そのため、一人用、ないし二人用のサイズの机に三人分のティーセットが置かれている。少々どころの騒ぎではなく、とても手狭だ。しかも、先ほどまでほぼほぼ殺し合いをしていた相手と一緒の机を使う。傍からなかなかにシュールな絵面になっている。
マーリンは紅茶を飲むのが好きだった。とはいっても、入れることには頓着が無いらしく、ある程度のおいしさが出せればそれでいいらしい。
そこそこのおいしさの紅茶を飲みながらヒナは、話題を投げかける機会を探る。
「そろそろ教えてくれないかな」
しびれを切らしたカナタはマーリンに詰問する。
ヒナも同じ気持ちだったのか、カナタと同じようにマーリンの方を見る。そのマーリンは呑気に紅茶のお代わりを注ごうと、机の対角場にあるティーポットに手を伸ばし風情も美しさもない入れ方をする。そのまま、自分のティーカップに適当に注がれた紅茶のにおいを楽しむのか、鼻元へと近づけていた。
ひとしきり匂いを楽しんだのか、ずっと閉じていた口を開く。
「いいわよ。でも、とりあえずお互い自己紹介して」
「…とりあえず、とりあえず。さっきからそればっかじゃないか」
「……わかりました。マーリンさんがそう言うなら」
カナタは文句を、ヒナは承諾を告げた。
ヒナはこれまでのマーリンの煙に巻く態度も気にせずに自己紹介を始めようとする。マーリンが許したからか、カナタへの警戒は少しだけ緩和してくれているらしい。
彼女は青い目をカナタに向け、淡い青色、水色に近い髪を舞わせながら軽やかに一礼する。それは妙に手馴れており、カナタは育ちはいいのかもしれないと思った。
「初めまして、ヒナ・リズウェルです。先ほどはいきなり剣を向けてしまい、申し訳ございませんでした。一応、森のふもとの町、ハルジオン出身の町娘ですが、マーリンさんに拾われて以来ここで暮らしています」
まっすぐ、前を見据えながら話すヒナに少し他人行儀感を覚えつつも、実際他人かと納得させる。
「よろしく、リズウェルさん」
「…それだけ?」
「とりあえず、返事をしただけだよ」
軽く文句を言っているマーリンに小言を返しながら少し考える振りをするために、手元に置かれたお菓子を摘まむ。
「じゃあ質問してもいいかな」
「はい、かまいません」
「…なんでわたしの魔術を躱せたの?」
周囲に微妙な空気が漂う。
ヒナは助けを求めるようにマーリンを見る。マーリンは大丈夫とでも言いたげに、静かに首を縦に振った。
意を決したかの容易ヒナは深呼吸をしてその青い目を深紅の目に換えた。
「私は、小さいころから魔力、魔素というモノを見ることができました」




