第十九話 予想外
カナタにしてみれば、この状況は意味が分からなかった。
旧友の家に来たかと思えば、人間の少女がいて、いきなり襲ってくるときた。
しかもその彼女の剣技が妙にうまい。杖をもともと手元に出していたからよかったものの、杖だけではどうも彼女を止めることは出来そうにない。
仕方がなく、魔術を使うことにした。彼女の剣技を受け流しつつ、後ろ手に魔術陣を宙に描く。重複形式では威力が高すぎるし、操作が難しいので手動形式のみで行われる魔術は、少女の死角で描かれていた。
自分の首めがけて振られた剣を何とか流し、髪の毛の毛先を少し剣が掠る程度に抑えられた。それと同時に、魔術陣に魔力を込め、青白い光を創り出す。
先端が丸みに帯びた氷塊を創り出した魔術はカナタの合図を待つかのように空中に留まる。
次の剣が来る前に、体をひねりながら魔術を放つ。
魔術の起動は無音で、そのまま体のすぐ横を氷塊は通り過ぎる。
少女の目の前に到達した瞬間に魔素に戻せばいいと楽観視していたカナタは、この光景に身を固める。
躱したのだ。
完全に不意を突き、常人ならばいきなり氷塊が目の前に飛んできたと錯覚するような状況なのに彼女は魔術を認識するだけでなく、剣一本で勝負していたのにも関わらず剣なんていらないかのように手放し回避した。
カナタは一連の行動にあっけにとられ、魔術解除をすっかり忘れてしまった。
氷塊はそのままを緩めることなく直進していく。
ドスッ。
嫌な音が家に響き渡る。
何かが体を突き刺されたかのようなその音は戦いをやめるには充分だった。
渦中にいた二人はそろって音の発生がんの方に眼を向けると、そこには白髪の少女がいた。
彼女は体に氷塊が刺さっていることなど興味がないように、眉を一つも動かさずカナタに話しかける。
「痛いわ。カナタ」
先端が丸みを帯びていようと、ある程度の速度があったからか身体に突き刺さるのは当たり前と言えば当たり前だった。けれど、その氷塊は重力に逆らってまでその場に居残ることは出来なかった。
ゴトン。と音を立てながら床に落ちる。
一般人が見たら卒倒しそうな状況で、被害者であるマーリンはゆっくり二人の方へと足を進めた。
「これで良い?」
「……うん、いいよ。こっちこそ遅刻してすまん」
「…え」
カナタの前まで進んだマーリンは、問を投げかける。まるで、自分に魔術で攻撃したいことを知っているようだった。話から置いていかれたヒナは、疑問符を並べることしかできない。
「ええ。ならいいわ」
軽く謝罪をし合った後、マーリンは踵を返してキッチンの方へと歩いていく。
「とりあえず、お茶にしましょう。ヒナ、服を着て」
血だらけになったはずの傷は、きれいさっぱりなくなり元々着ていた服すらも完全に復活していた。




