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曇天のカナタ  作者: 菊桜 百合
第1章 陽光なくとも花々は咲き誇る
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第十七話 ヒナ・リズウェル

 カナタと少女が邂逅する一日前。


「じゃあ、これで終わり」

 その言葉で一気に緊張の糸が切れ、その場に座り込んでしまう。

 今日も今日とて、剣の師匠であるマーリンに一太刀も浴びさせることができなかったことに下唇をかむことしかできない少女は、悔しさを強引に忘れるようにしつつ「ありがとうございました」と座りながらだがいつもの挨拶をした。

「それにしても、今日は随分早く切り上げるんですね。ししょ…マーリンさん」

 訓練である模擬試合をしていたはずで、何分も動き回っていたはずなのに汗一つ書かないマーリンを見ながら弟子であるヒナ・リズウェルは話しかける。

 答えてくれるとは思っていなかったが以外にもマーリンはヒナの方に体を向けながらわけを話してくれた。

「今日はね、旧友が来ることになっているの」

 マーリンに旧友がいることに驚いていると、その驚かせた本人はこれで会話は終わりだと言わんばかりに、使っていた木刀を持ちながら質問の返答を止めて家の方へと足を進める。

 息を整え切ったヒナも重い腰を上げ、マーリンの後ろについていく。初めて見た時は驚いて逃げたしたくなったマーリンの家にもさすがになれ、軽くさび付いている蝶番の音を聞きながら家に戻る。


 いつものように、食卓の椅子の上に置いておいた洋服を手に取り、着替えを始める。訓練用として用意した服は、少し露出が激しいのでさっさと着替えたい。お茶を入れてくれているであろうマーリンが見えない家の中には外の木々の音も最果てまで続く曇天も感じない。

 ふと、さっきの発言が気になって、着替えを中断する。マーリンに旧友がいることをヒナは知らない。

(そもそも、マーリンさんが私意外とまともに会話しているところすら見たこと無いなぁ)

「いい加減、着替えを再開したら?」

「ーーーえ?あぁ!」

 いつの間にか、マーリンは食卓に座って紅茶を飲んでいた。

 どれだけの間考え事をしていたのかは正直わからない。自分の悪い癖にやってしまったと思いつつ、言われた通り着替えを再開する。


 着替えを終え、いつもの生活に戻っていく。

 件の旧友がいつここに来るのかはマーリンにもわからないらしく、ひとまずいつもの生活を続けることにした。


 夜になった。

 今日の夕食の担当がヒナなため、マーリンの顔を直接見ることは出来ない。

 けれど、きっと悲しんでいる。と考えて少し夕食を豪華にしてみた。マーリンもこのことに気が付いたのか、「そんなに気にしなくていいよ」と軽く返していたけど少しはショックなはずだ。

 その旧友に会ったらどうしてやろうかと考えながら今日は寝た。


 朝早くから、訓練は始まる。

 毎朝、汗まみれになることは年頃の女の子にとってはきついモノかもしれないが、自分にとってはそうでもない。自分は少々ずれているのかな、と考えながら着替えを続けていると、建付けの悪いドアが思いきり開け放たれた。

 大きな音を立て開いたドアの向こうには、深い赤が際立つ長髪を風に揺らし、売ったらいくらになるのか見当がつかないほどの豪華絢爛なローブを着こんだ女性がいた。

 頭が真っ白になっているヒナに向けて、その彼女はあからさまに目をそらしながら

「あのぉ、マーリンいる?」

と言った。

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