第十六話 邂逅
「やっと着いた。ここか」
お思いのほか時間がかかったのは珍しい木の実が成っていたからのを見つけてしまったからであって、道に迷い続けたからではないと一人で言い訳しておく。もいの踏破に2~3時間かかったのを見ると、この工房はやっぱりよくないな、とカナタは思った。
この森の質の悪さも然ることながら、マーリンの家も相当質が悪い。
何せ場所が異常なのだ。
直感的にありえないと感じる場所に存在し、異様な存在感を発している。そこにあることだけで視覚的に気持ちが悪く、感覚的に認めたくない。
もし一般人がここまでたどり着くことがあったとしても、この家の雰囲気を視ただけで逡巡し、此処から去っていくだろう。
一面の曇り空をものともしないような変な温かみを覚える配色は、返って気持ち悪く、何者にも言い表せない違和感がただひたすらに心を埋め尽くす。
魔女の家を、そのまま体現したかのような家は、太陽があればもっと良いモノになったはずだ。
だが、カナタにとってはそんなことどうでもよく、マーリンに悪態、もとい魔術を叩き込めるならこの家には注視すらしない。
ずかずかと、家の扉に続く小道を進んでいく。そのままためらいもなんもなく『マーリン・ガブローズ』の家のドアを開ける。思いきり開けられたドアは、建付けの悪さを無視し全開となる。
「ひゃあ!?」
開けた途端、見えたのは下着だった。それと合わせて、小さな悲鳴も聞こえる。
着替え途中だったのか、カナタよりも一回り背の低い半裸の少女がいた。
病気を疑ってしまいたくなるような白い肌は、カナタによって開けられた扉からのかすかな光を艶やかに反射する。膝を隠す気のないほど短い丈のスカートを太もものあたりでとどめながら見せる下着は、彼女の髪の色である淡い青色を引き立てるかのような美しいコントラストを作っていた。
『だれ?』
双方の者の頭の中はその言葉に覆われていた。しかし、カナタは少女よりいくばくか早く正常な意向を取り戻していた。
「あのぉ、マーリンいる?」
この子がマーリンではないことだけは見てわかった。なにせ、いくら見たところで彼女は人間だ。体内の魔力の流れ、彼女を取り巻く雰囲気、そのすべてが彼女が人間であることを示していた。
もはや数時間という時間がたったと勘違いしてしまうような静寂を乗り越え、発せられたカナタの声は、空中を漂い、少女の耳へと届いた。それでも少女は何か言葉を発することはなく、ただ茫然と立っている。
魔女の工房である森は面白いことになっている現状を、ケタケタ笑うかのように木々は枝や葉を揺らして音を奏でていた。




