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16 かくかくしかじか

 エッケルトの負傷はかなり重症だったが、かろうじて内臓の致命的な損傷を免れ、一命をとりとめた。

 彼が絶対安静で療養するフォルク公爵邸の主人の寝室に、ルディガーとフランシーヌはほとんど交替体制で詰めて回復を見守りつづけた。


 無事エッケルトが意識を回復して数日経った頃、改めてルディガーとフランシーヌの間にある複雑怪奇な問題についての話し合いがはじまった。


 病人の横たわる寝台を囲んでそれが行われたのは、帝室の秘中の秘とされるべきこの問題を論じるにおいて、フォルク公爵の私室が最も秘密の守られやすい場所だったからだ。


「……かくかくしかじかで、私に魔物が張りつくことになったのよ」


 フライア王と王妃の若き時代、魔術師との戦いに遡って、フランシーヌは我が身にメルテレースが寄り添うことになったいきさつを説明した。


「で、でも、魔物と言ってもメルテレースは無害なのよ。私に危害を加えたことは一度もないし、私の命令には忠実にしたがってくれるのよ」

「当たり前じゃないですか。愛しいフランシーヌを僕が傷つけるなんて、たとえ天地がひっくり返ってフランシーヌが陽キャに君臨するパリピの女王になったとしてもありえませんね。陰キャのフランシーヌも最高に愛らしいですが、そもそもフランシーヌはどこで何をしていたって死ぬほど可愛いです。僕は魔物なので死ねないのが拷問に感じるほどですよ。いっそフランシーヌの可愛らしさから抽出した毒で死ねたらいいのに! フランシーヌは正義。フランシーヌの言葉は僕の世界の真理です」

「魔物がこう言っているのだ。フランシーヌ・フライア、君がこいつに一言『魔界に帰れ』と言えば案外大人しく帰るんじゃないのか?」

「え……」

「残・念・な・が・ら、僕をフランシーヌの魂にくっつけた魔術師の呪いが解けないかぎり、僕はフランシーヌのそばから離れられません」

「ご都合主義かよ」

「というかフランシーヌは僕にそんなこと言わないです。ね、フランシーヌ」

「夫の俺が命じれば言う」

「本心じゃないからノーカウントですね。フランシーヌが心から僕にそんなこと言うはずがないので」

「フランシーヌ・フライア。今まで君がこいつを“剥がす”ことに失敗してきたのは、本心じゃないとか心からじゃないなどとゴネまくって認知の歪んだこいつの屁理屈のせいでは? だとするとこいつはただのストーカーだぞ」


 互いに挑発し合うルディガーとメルテレースを見ていてフランシーヌはちょっとぼうっとしていた。


「フランシーヌ?」

「フランシーヌ・フライア?」


 どちらも比類なく美しい顔貌をそなえる皇太子と魔物から揃って眉をひそめられ、フランシーヌは気をとりなおす。


「ご、ごめんなさい。実はちょっと感動していて……私、本当はメルテレースなんていう存在はどこにもいないんじゃないかって、昔から時々思うことがあって」

「は? フランシーヌ、それは馬鹿げています。聖女王妃にだって僕が視えていたではないですか」

「おかあさまは心がお優しくて私のことは何でも知っていてくださるから、話を合わせてくれているだけなんじゃないかって。目に見えない友だちを想像して仲良くなる子どもって、意外といるらしいし……」


 読者の皆さんはイマジナリーフレンドという言葉をご存知のことと思うが、この世界のこの時代にはまだそのような言葉はない。


「だから二人がそうやって会話しているのを見ていて、ちょっとした感動を覚えてしまい……」


 エッケルトのベッドに腰かけるフランシーヌを挟んであちらとこちらで睨み合っていたルディガーとメルテレースが、絶句した。

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