15 無能で穢らわしい人間の分際で
「貴様の目的は何だ……?」
ルディガーが問う。次の攻撃に警戒を強めながらも、ルディガーは堂々と響く声でその場を支配した。
挑発にも取られかねない角度に眉をひそめ、ルディガーが言った。
「持っている力を使いたがる者は、たいてい幼稚な目的しか抱かない」
警備隊がなだれこむ。彼らは素早く状況を判断してエッケルトのそばに近寄り、負傷した彼の身体を保護する。
フランシーヌのまわりにも警備隊員が張りつき、その場からの離脱をはかった。
皇太子の盾になろうとする護衛たちにルディガーは前へ出るなと命じる。
敵との対峙の緊張がつづいていた。
『そう問われるなら、この場の目的は、フライアの聖女の死だな』
漆黒の謎めいた魔術師が片腕を振った。
同時に鳴りわたる銃声。
無数の氷の矢が降りそそぐ瞬間に、フランシーヌは首の連珠をむしりとった。
「く、くらえ、白煉の魔術師のパチモンめ、おとといきやがりなさいよ、雑魚がーッ!」
ルディガーの放った鉛弾は白炎の結界に阻まれ砕け散った。だがフランシーヌがとっさに投げつけた数十個の珠は白炎をすり抜け、結界の中で清浄な光の嵐を起こす――。
常人の瞳を灼く光輝が辺り一帯をつつみこんだ。
やがて光と闇がすべて消え去った気配に人々が顔を上げると、魔術師は消えていた。
しかし、瞼を開いたフランシーヌの視界は闇に閉ざされていた。
何か柔らかいものに頭からすっぽり身体全体を包まれ、抱きしめられているような感じで……それは幼い頃からよく知る気配で、慣れ親しんだ暗がりの心地よさを感じさせた。
「フランシーヌ。大丈夫ですか。怪我はありませんでしたか?」
そう、これはメルテレースだ。
フランシーヌは安堵して顔を上げた。
「どうやら大丈夫なのよ。メルテレースが攻撃から庇ってくれたの?」
「はい。フランシーヌに傷ひとつ付けさせたくありませんから」
「ありがとう、メルテレース。あっ、ルディガー皇太子は?!」
「あっちはどうでもいいです」
「おい、貴様……」
抱きしめる力をなかなか緩めないメルテレースの腕の中から振り仰ぐと、まだ敵と対峙する緊張状態の厳しい顔つきをしたルディガー皇太子が、銃を構えたまま言った。
「貴様は何だ?!」
フランシーヌは一瞬意味がよくわからなかった。
この状況の意味が。
「ちょっと待って。ちょ、ちょっと待って。メルテレース、さっきから私は誰と喋って……メルテレースよね。でもメルテレース……あなたさっきから普通に喋ってる?!」
「ああ、何か最近、喋れるようになりました。二週間前くらいから? 不思議なこともあるものですねえ」
「そ、それは良かったけど。でももう一つ待って。ルディガー皇太子殿下、あの……メルテレースが、視えてる……?」
完璧な顔を歪めたルディガーが軍靴を鳴らし近づいてきてメルテレースのこめかみに銃口を突きつけた。
「貴様、フランシーヌ・フライアから離れろ!」
「嫌ですね」
「は?!」
「君こそ僕のフランシーヌになれなれしく近づくのはやめてください。無能で穢らわしい人間の分際で」
フランシーヌにはけして見せたことのない冷たい表情を向けてメルテレースはルディガーに言い放った。
「フランシーヌは生まれたときから僕の所有物です。君には絶対にわたさない。わかったら早く離婚しろ」




