表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/44

12 夫婦の務めを開始せよ

「それについては、さっき皇帝陛下から釘を刺されてきたところだ。あまり前のめりに現場の捜査に首をつっこむなと言われた。罠かもしれないからと」

「どうせ従う気はないんだろう? 僕がお目付け役をクビになる日も近そうだなあ」

「唯々諾々と従う孫じゃないことは皇帝陛下おじいさまにも見抜かれていた。だから合理的な言い訳が必要になった。おじいさまを納得させ、安心いただけるだけの行動が」

「うん?」


 ルディガーがテーブルにカップを置いた。

 そして咳払いをした。


「敵の狙いが俺だというなら、なおのこと正しく合理的な行動だと言える。方針転換になるが、よくよく考えてのことだ。俺に万が一のことがあったとき、すでに次代の男子が存在すれば何も問題はない。そういうわけでフランシーヌ・フライア」


 ルディガーはずっとうつむき加減に焼き菓子を齧るフランシーヌのほうに顔を向けた。


「俺は君に時間を割いて、夫としての務めを毎日きちんと果たすことにする。今夜からだ」


 エッケルトが軽く紅茶を噴いた。しかし身についた優雅さから、粗相を粗相と感じさせない仕草で口元を拭き、端然と穏やかな微笑みをとりもどす。

 それと同時に、嵐でもないのにとつぜん窓がガタガタ震えだし、パンッと音をたてて開いた。

 吹きこんだ突風に深紅のカーテンは舞い上がり、バタバタと暴れてよじれてカーテンレールが壊れるのではないかというほどギイギイと鳴る。

 ふたたびパンッと音を立てて窓が閉まった。


「な、なになに、また爆発なの?!」


 フランシーヌは慌てて目を開く。叫んだ拍子に焼き菓子が紅茶のカップの中にぼとんと落ちた。


「いえ、違います妃殿下。何だろう。つむじ風でも吹いたのかな?」

「な、何だ……よかった」

「話を戻すが、だからエッケルト、今夜から俺もフォルク公爵邸から公務に出掛けることにする。フォルク公爵家には世話をかけるが」

「この二週間だって君が警備隊本部に張りついて帰ってこなかっただけで、このフロアは皇太子夫妻の臨時の宮殿状態だけどね。そんなことより、そういうことは君が勝手に決めないで、フランシーヌ妃殿下の了承を得たほうがいい」

「すでに正式な夫婦のはずだが?」

「大披露宴の夜に自分が取っていた行動も忘れたのかい? 人間は書類で動かすものじゃないんだよ、ルディ。儀礼とか約束とかを軽んじてはいけない」

「ならばフランシーヌ・フライアに問う。この決定を了承してくれるか?」

「え……と、何の話なの?」

「聞いていなかったのか。今夜から俺は君と夫婦の務めを始めたいが、君の準備はどうかと問うている」

「ふうふのつとめ……?」


 フランシーヌはボケボケの頭で呟いた。

 聞き慣れない言葉だ。でも一応、耳にしたことはあるような。

 輿入れ前にフライアの兄王子弟王子たちが主催してお別れの舞踏会を身内だけで開いてくれたときに、聞いたような……。


『フランもそんな歳かああああ。妹が帝国に嫁入りとは、お兄ちゃんは嬉しいような悲しいような。とにかく寂しくなるよなあああ(泣)』と泣き上戸の長兄が言い、


『ロスデルムの高慢な皇太子に何か酷いことでもされたらいつでも帰ってくるんだぞ。いくら相手が大帝国だからって、兄弟が六人もいて妹の仇を討てないなんてことはないからな!』と脳筋の次兄が言い、


『まあフランくらい賢ければ、床の中でマムシの毒の毒針を刺すくらいは簡単でしょう』と年子の兄の眼鏡メガネが言い、


『床の中でって、夫婦のお勤め中にってこと? 僕まだよく知らないんだけど、結婚するとベッドの中で特殊なダンスを踊らなきゃいけないって本当? 学友のピエールが言ってたんだけど』と女官たちのアイドルな弟が言い、


『あ〜僕も知ってる! ピエールが言ってた! 激しく踊れば踊るほど満願成就、子孫繁栄するって言い伝えがあるんだって!』と口の軽い末っ子王子が言っていた。


 ピエールが誰だか知らないが、やたら結婚の作法に詳しい男の子がいたらしい。

 だったら自分もピエールにいろいろ聞いておきたかったわ、とフランシーヌは今ごろ思うのだった。


「あっ、はい。確か、ベッドで激しく踊るのですよね……?」


 一瞬、部屋の空気が固まった気がした。


「あっはははっはは。ルディが冗談でやりこめられるところを初めて見たよ! 赤くなってるし!」

「……冗談というか、本質を突いているが」

「ルディ。皮肉を返されたんだよ。君の態度とやり方があまりにも横暴かつ露骨だからだ。フランシーヌ妃殿下はとても頭の良い淑女だね」


 何だかよくわからないけれど、エッケルトから身に余る賞賛を受けていることだけはわかった。

 そのとき扉がノックされて、ルディガー皇太子の元に伝令が急の知らせを届けに入ってくる。


「魔術師との関係が有力な地下組織のアジトで動きがあったそうです。組織の構成員が続々と集結していると報告が」


 届けられた報告書を一瞥してルディガーが表情を厳しく変えた。その瞳に獲物を狙う狩人の殺気が輝きはじめる。


「ただちに捕縛体制を敷け。俺が直接指揮して踏みこむ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ