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11 フランシーヌはだんだん眠くなる……

「ルディ。気持ちはわかるが君はこの二週間いくらなんでもハードワークすぎるよ。ほとんど寝ていないだろ」


 フォルク公爵邸の貴賓室の居間で、エッケルトが窓辺に立つルディガーを心配そうに見遣りながら言った。


「必要なことを必要なだけやっているだけだ」


 こちらに背中を見せたままルディガーが答える。

 ロスデルム帝国の神聖なる中枢を爆破されるという未曾有の事態にあって、窓外にはぽかぽかとよく晴れた青空がひろがり、優雅な茶会の雰囲気にふさわしい小鳥の囀りが聴こえてくる。


 フランシーヌは目の前のティーテーブルに贅沢に用意されたお茶をのみ、お菓子をつまんで、気を抜くと襲ってくる眠気をひたすら我慢していた。


「ここに来たならお茶くらい飲めるだろ? 時間の有効な使い方というものだよ」

「座ると寝そうなので、座らんぞ。紅茶は飲む」


 ようやく振り返って歩いてきたルディガーはテーブルからカップを取って言葉通り立ったまま座談に加わった。


「大きな動きがあったぶん、情報は集まりやすくなったね。魔術または魔術師に関する話も、捜索をかけてみれば結構集まってしまった。これは本当に盲点だったよ。フランシーヌ妃殿下が半年前にいらしてくださっていれば、今回の爆発も防げたのかもしれない」

「今朝までに有力そうな情報は五件に絞られた。慎重かつ速やかに奴らのアジトの捜査と監視を進めて、確実に検挙してやる」


 うららかな午後にティーテーブルの周りではシリアスな話がつづいていたが、フランシーヌは半ば目を閉じ、うつらうつらと舟を漕ぎそうになる首を、ずっと口に突っ込んだままの焼き菓子を齧るふりで誤魔化している。


 眠い。


 別にフランシーヌはルディガーのように公務と捜査の多忙さで徹夜を繰り返しているわけではないのだが、ゆえあって年がら年じゅう眠いのである。

 無意識にフランシーヌの(焼き菓子を持っていないほうの)左手は、首元を飾る連珠のネックレスをいじった。

 つるつると冷たくて気持ちがいい。

 それは爆発現場の瓦礫から黒魔術を剥がして閉じこめたあの連珠だ。スモーキーな珍しい水晶のネックレスに見えるが、その珠はそもそも地上のものではない。

 メルテレースだけが別次元から取り出せる特殊な珠だ。

 おそらく魔界の物質だろう。

 フランシーヌはそれを、魔術封印の触媒として使っている。

 魔術を封印すると、透明な珠は魔術師の固有の力の色に曇る。黒い力は墨っぽい色に曇る。術式を描いたインクが黒くても、魔術師が赤い力を持っていればピンク色っぽく曇る。


 だがその色は、フランシーヌが珠を身につけて過ごしてしばらくすると、消える。

 聖女の血筋にそなわる聖性の力が、魔術を完全に浄化してしまうのである。

 浄化するのみでなく、魔術に宿っていた生命力とでもいうべきものだけを残し、純化して、清らかな力に変えてしまう。

 浄化後の珠は、なぜかメルテレースが欲しがって大切にコレクションしている。使い道なんてほとんどないと思うのだけど。

 せいぜい土に埋めておけば観葉植物が元気になるとか、ペットのトイレが臭わなくなるとか……。


 だけどとにかく、眠いのである。

 スモーキーな珠を身につけて浄化中のとき、フランシーヌはとても眠くなるのだ。


「捜査の気配を察して敵が無謀な賭けに出てくる可能性は充分ある。エッケルト。皇帝陛下の警備は、あれで万全だと思うか?」

「何もかも君がそうピリピリと気を張り巡らせなくたって、皇帝陛下には長年の経験が培った勘と指導力が孫の君よりもあるよ。こんなこと言えるのは僕だけだから言うけどね」

「それはそうだが」

「近衛隊の忠誠心も篤いから、その辺は大丈夫さ」

「というか、狙われているのは皇帝陛下じゃないのでは……」


 夢の中の会話に割りこむような感じで、夢と現の境からむにゃむにゃとフランシーヌは口を挟んだ。


 ルディガーとエッケルトが同時にフランシーヌのほうを向いた。


「皇帝陛下ではない?」

「そうそう……、だって、術式のマークは12個しかなかったのよ。それだと日程もだけど、範囲が……もっと沢山マークが見つかったなら別だけど、12個から14個レベルで爆破できる範囲はあれくらい。皇太子と皇太子妃の寝室は完全に中心に入っていたけど、皇帝陛下がお住まいの区画は半分だけ吹き飛んだだけだった」

「狙われたのは皇太子と皇太子妃、ということですか」

「多分そうなのよ……」


 カチャン、と音をたててルディガーがカップを受け皿に下ろした。


「帝国の混乱が目的か」

「そういうことになるね。皇帝陛下が失われれば充分に国難と言っていい事態ではあるけれど、ルディガー皇太子がいるかぎり、継承も権力移行もスムーズに行われる。より確実に帝国を混乱させたいなら、君を狙うのが効果的、と」

「フォルク公爵の継承順位は何番だった?」

「やめてくれよ。僕は五番目くらいだよ。もしもお鉢が回ってきても逃げるけど。フランツ皇太子のご兄弟が二人と、その息子たちの次だっけ?」

「叔父上たちについては父上の凶事の際にさんざん裏を洗ったからな。彼らが黒幕ということはないが、それなりに厄介な者たちではある」

「君がいま死んだら確実に彼らは血で血を洗う継承戦争を始めるだろうからね」

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