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その1

ここは、よくある異世界っぽい世界のよくある学校__



「ねーねー、今日転校生来るんだってー!知ってたー?」


「マジで!?えー可愛い子がいいなぁw」


私立聖モスキュイ学園。

いわゆる「お金持ち校」の生徒たちは今日ものんきに騒いでいる。


「こっちの気も知らないで…」


俺はアルベルテュス。高等部2年。

恋愛ゲームのいわゆる「俺様キャラ」を担当してる。


…そう、ここはいわゆる恋愛ゲームの世界。

俺は、俺たち攻略対象には。その自覚がある。


そう、俺だって俺様キャラなんかじゃなかったら。


もっとみんなと騒ぎたいよ!!!!!!


あー、男子たちの猥談とか参加してぇー



「はい、着席してくださーい。朝礼始めますよー。」


先生が入ってくる。


「…もう皆知ってると思うけど、今日から新しい仲間が来ます!

 ほら、入ってきてー!」


先生が扉を開ける。


「えっ!?マジで女子じゃん!」


「結構可愛くね!?」


さあ、「主人公」のお出ましだ。

気だるそうに目を向ける。



...ん?



え?女子?誰もいないけど…

え、俺だけ見えて無い系ドッキリ?幽霊?


「さあ、自己紹介をお願いしまーす。」


え?いるの?


「えっ!?そうなんだ〜!」


「料理できんのアリじゃね?」


なに、何が見えてんの?何が聞こえてんの?

え、怖。


「それじゃあ…あ、アルベくんの隣が空いてるね。

 ゆめさん、あそこに座ってね。」


ゆめ?

え、ドッキリだよね?



瞬間、隣ですごい不快な音がする。


蚊だ。


血を吸うでもなく、俺の隣の机の上に留まってる。


「えっと…ゆ、ゆめ…サン?」


空いてる席に声をかける。こうなりゃイチかバチかだ。

蚊は嬉しそうにプーンと飛んだ。


え、マジで言ってる?


 ・ ←だってこれじゃん。こんなんじゃん。


どうやら今回の主人公は「蚊」らしい。

なんで?


何かを諦めた休み時間。

蚊が俺の隣に来る。なにか言ってる(たぶん)。

ただ、何もわからない。俺には何もわからないよ。


いや、いやでも。

これでも一応「主人公」で。俺は攻略対象で。


…え、俺攻略されちゃうの?

蚊に?・←コレに?


やだぁ。めっっっっちゃやだぁ。


…っていうか。

このゲームには俺以外の攻略対象もいる。

このクラスにもうひとりいる。


「ディ、ディックディック!」


彼の元まで行く。

長めの黒髪で片目を隠した陰キャっぽい見た目の彼は

そのまま「ヘタレビビリキャラ」だ。


「あ、えっと。あ、アルベルテュスくん…」


「お前さ、え、ゆめ…だっけ、あの…蚊?見えてる?」


俺はお前のこと信じてるぞ。


「え…あ、蚊だったんだ…

 いや、僕、みんなからドッキリ仕掛けられてるのかなって…」


「いや、俺もなのよ!

 ちょ、呼んでみる?ゆめー!ゆめちょっとこっち来い!」


蚊の周りの女子が騒ぐ。

わかってる、「え?え?なんで転校初日にあのアルベ様に呼ばれてるの!?」だろ?


何回も見たわそのパターン。

ただ今回は例外もいいとこなんだよ。


「うわっ!来た…!」


なんとなく人差し指を立てると、蚊がそこに留まる。

かわいい。


…ん?


「えっと…ゆ、ゆめ…さん、なの?」


ディックがこっちを向いて聞く。

俺は真面目な顔で頷いた。

そうだよこいつだよ。


「えっと…あの、僕はディーデリックです…

 よ、よろしく…お願いします…」


すげぇ。

蚊を前にちゃんと振る舞ってる。

こいつ…プロだ。


女子に呼ばれてゆめが行ってしまう。


「…え、ねえ…アレ、ほんと?」


「…マジっぽい…」


「え、みんな見えてないの?」


「…主人公の見た目がどんなでもシナリオは一緒だからさ。

 そういうことだよ。」


「ああ…なるほど…」


ゆめの見た目がわかるのはどうやら俺たち攻略対象だけらしい。


「えっと…ルードリッヒさんたちに伝えたほうがいいのかな…」


ルードリッヒ。それとラウレンス。

俺たち以外の攻略対象キャラだ。


高等部3年、生徒会長と副生徒会長を務める二人は

ここの校長の息子とそのお付き人。

絵に書いたような金持ちだ。


「いいんじゃね?ラウはともかく

 ルードリッヒはムカつくし。」


「ええ…いいのかなぁ…」


たしかシナリオだと主人公が3年の二人と会うのは

放課後だったはずだ。


「な、ディック。

 ゆめがルードリッヒに会うのって放課後だろ?

 見に行かねぇ?」


「え…?いや、僕は…遠慮しとくよ。

 シナリオ通りだと僕たちすぐ帰るじゃない。

 シナリオ破るのはどうかなって…」


「つまんねぇなぁ。」


「ご、ごめん…」


やっぱ陰キャつまんね。

「俺様キャラ」なら腕ひっつかんででも連れてっていいのかもしれねぇけど別にこいつの前でキャラ作る必要ねえしな。

いいや。


____________________


「さようならー」


終礼が終わって、俺はゆめの後をつける。


…いや、言葉で言うとそれまでだけどさ。


どこだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


3メートルも離れたら見えねえのに!

完ッ全見失った!


いや、待てよ。落ち着け俺。

主人公と生徒会長が出会うのは生徒会室前。

その付近で待ち伏せすれば…!


「ギヤアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


お!このムカつく声は!

廊下の角から覗く。


いた!ルードリッヒとラウ…それと、うん。

たぶんゆめもいるんだろうな。見えねぇけど。


「ラッ、ラウ!

 今すぐ目の前の虫を僕の前から消せ!」


「は、はいっ!えっと…」


ちっせぇ虫に怯える生徒会長、ルードリッヒ。

自分の主のために必死こいて蚊を叩き潰そうと空振るラウことラウレンス。


あっはっはっはwwwwwwwwwwwwww

いい気味だぜ!


「よお、ルードリッヒw

 情けねえ声出してどうした?w」


先に断っとくけど、俺とこいつは別に仲良くなんかない。

先輩なのに敬語を使わないのはこいつがウザいからだ。


「き、貴様は…誰だ!?」


そっか、一応攻略対象同士ってことで知り合ってはいるけど、シナリオでは初対面のテイだもんな。


「2年のアルベルテュスですよ、生徒会長〜。」


…まあ、本来俺とルードリッヒの初対面はもっと後なんだけど。

俺がゆめについてきたばかりにシナリオがぐちゃった。

いや、言っても今更だろ。俺悪くない。


「アルベルテュス…?知らない名だな。

 覚えておく価値もなさそうだ。」


「ルードリッヒ様、その、そろそろ…」


ラウが辺を見渡す。

あ、もしかして主人公探してんのか?

なかなか来ないから。


「言い忘れてたけど、今回の主人公コイツだって。」


人差し指を立てる。

一番先に蚊が留まる。

まあ、なかなか悪くない。


「…え?」


ルードリッヒが素っ頓狂な声を出す。

だろうね。


「ゆめっていうんだ。な、ゆめ。」


優しく語りかけると蚊は頷くように

少し飛んで着地を繰り返す。


「ゆ、ゆめさん…ですね。

 先程は無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません。

 私はラウレンスといいます。」


握手をねだるように出された手にゆめが乗る。

ラウは手のひらの上の蚊をペットを見るみたいな目で眺めている。


「ラウ…お前、順応早いな。」


「虫は嫌いではないので。

 意思が通じるならむしろ可愛いですよ。」


かわいい…のは、まあ、分かんなくもないけど。

普通はこう…


「…ムリ。」


そう。こういうルードリッヒみたいな反応が正しい気がする。


「え、可愛くないですか?ほらほら。」


「かわいくない!バカ、早く逃がせそんなの!」


ラウがしぶしぶゆめに分かれを告げると、

ゆめはどこかに飛んでいってしまった。


「…ラウ。今すぐ虫除けスプレーを買ってこい。」


「嫌ですよ。私はゆめさんのこと気に入りました。」


「…アルベルテュス。

 今回ばかりはこのボクを差し置いてお前に主人公に攻略されることを許そう。ほら、喜べ。」


「押し付けんなよ。」

_________________________


二人に別れを告げて、やっとこさ、帰路につく。

なんか、疲れた。


「夢じゃ…ねえもんなぁ。」


人差し指を立てるとその指先に留まる蚊が未だはっきり見える。

だいぶ俺の記憶に焼き付いたらしい。


「誰が攻略されんのかなぁ。」


ゆめのことは(ペットとかそういう対象として)気に入ったけど、

どうか攻略されるのは俺じゃありませんように、と。


夕暮れにうっすら見える一番星に願った。

書きたいとこだけ書く予定。

オチは家出した。

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