【第87話】ゼッタの大戦② 双子の騎士
「え? ユイゼストさんとメイゼストさんって、、、女性だったんですか!?」
びっくりして思わず聞いてしまう僕にユイゼストとメイゼストは
「失礼な」
「男に見えるか?」
と2人して頬を膨らませる。
「あ、もしかして知りませんでしたか? ロア殿のことだからてっきり知っているものかと、、、先にお伝えしておけばよかった」と隣でウィックハルトが申し訳なさそうにする。
「いや、でも記録では男性として書かれていた気がするけど?」
僕が男性だと思っていたのは、王宮にある戦闘記録にそのようにあったからだ。
「ああ、彼女たちは戦場では重装備な上に鉄仮面を被っているから、記録係が間違えたのでしょうな。よくあるのです」とボルドラス様が合点がいったように答えてくれた。
「王の書記官としては恥ずかしい限りですね〜」などとのんびり言うのはサザビー。今回はネルフィアではなくサザビーが従軍してきたのだ。
「私たちはこんなに可愛らしいと言うのに」
「全くもって」
そんな風に言いながら、2人で手を握り合うと、踊るようにくるくると回るユイゼストとメイゼスト。
不意に回転を止めると、2人の視線はルファに向かう。
「可愛らしいわ」
「この娘は?」
ぽやんと2人を見ていたルファが「ルファ=ローデルです! 第10騎士団の戦巫女です! 宜しくお願いします!」と元気よく挨拶すると、ルファを挟むように両側に立つユイゼストとメイゼスト。
「お肌がスベスベだわ」
「髪は青いわ」
「かわいいわね」
「お人形さんみたい」
などと言いながらルファを触っている。ルファは状況がわからずされるがままだ。そんな中唯一別の反応を示したのはボルドラス様。
「ローデル? はて? それはザックハート様の、、?」
「あ、はい。先日ザックハート様の希望で、養子縁組をしたんです」
ユイゼストとメイゼストに遊ばれているルファに代わって僕が答えると、今度はボルドラス様が目を丸くする。
「ザックハート様の御息女? おい、ユイ、メイ、ほどほどにしておきなさい」と2人を慌てて止める。
「えー」
「いや」
敢然と拒否する2人。
「、、、、いや全く。悪気はないので、そのまましばらく付き合ってやってください」と恐縮しきりのボルドラス様。なんだか苦労人の雰囲気が透けて見える。
ともあれ、僕らはこの苦労人の第四騎士団長や、なかなかに癖のある双子騎士と、しばらく生活を共にするのである。
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一旦荷物を置いて旅の疲れを洗い流し、一息ついたその夜。
ボルドラス様から夕食に誘われた僕らは、再び中央棟に集まった。
「無粋ではありますが、食事をしながら状況のすり合わせをさせていただいてもよろしいですか?」と音頭を取るボルドラス様。
「無論文書では確認しておりますが、現在王都ではゴルベルの動きをどのように考えているのでしょうか?」
「はい。現状、本格的に雪が降るまでに大軍を起こす可能性があると言うこと。ゼッタ平原のゴルベル側の砦の動きが俄に騒がしいことなどは把握しています。そのためこちらとしてはいくつかの砦に兵を小分けにして、ゴルベルが動いた時にすぐに動けるように準備を進めています」と、僕はいくつかの砦の名前を挙げて説明する。
「なるほど。そういえば、なんでもエレンの村の廃鉱山の騒動も、この度の侵攻の布石であったとか?」
「ええ、それを見抜いたのがこちらのロア殿です」と自慢げなウィックハルト。
「なんと!? 失礼ながら名も知らなかった貴殿に、ウィックハルトが仕えているのも驚きなので、色々と頭の整理が追い付きませんな、、、」
ゴルベルの動きが活発なため、なかなか持ち場を離れることのできないボルドラス様には、中央の情報が入ってくるのが遅いという。
ルファのことといい、ウィックハルトの事といい、情報の処理が追いつかないと苦笑している。
ちなみにウィックハルトだけど、ロア隊の副官という立場で落ち着いた。この度の出陣の前にリュゼル、フレイン、ディックと話し合って決めたのだ。まぁ無難なところに落ち着いたように思う。
「そうは見えん」
「うん。見えん」
「こ! これ! 失礼な事を! すみません、ロア殿、、、」
「ああ、いえ、お気になさらず。良く言われますので、、」
双子はご飯を食べながら、ルファを愛でながら、こちらにも口を挟んできた、忙しいものだ。
「それで、実際のゴルベルの様子はいかがでしょうか?」逸れかけた話題をリュゼルが戻す。
「ええ。中央の予想通り、ゴルベルの動きは活発になっているように思います。向こうの最前線にある砦への荷物の出入りが多い。まだ兵士の増援はないようですが」
「侵攻してくるにせよ、まだ兵が集まっていないならもう少し時間に余裕がありそうですか?」
フレインの言葉に、ボルドラス様は首を振る。
「それが、ここにきてまた動きが変わってきているように思いますので、動くとすれば、それほど先のことではないかと、、、、こちらからも懸念を中央に伝える使者を出したのと入れ違いに、レイズ様から使者が届いたので、正直助かりました」
、、、、ゴルベルが動くかどうか、ここに来るまで確信が持てなかったけれど、やっぱりゼッタ平原の戦いは起こるみたいだ。
ただ、僕の知る未来よりは、かなりルデク側に有利な状況での戦いにはなりそうだ。とにかく僕は第10騎士団の被害を最小限に抑えることが目的となる。
迫り来る大戦に思いを馳せながら、僕らは夜遅くまで情報交換を続けるのだった。




