【第80話】王の子息① 王様の頼み事
一人考え事を終えた僕は、その足でレイズ様の元へ向かい「そろそろゴルベルが動くかもしれない」と懸念を伝えた。
「ほう? なぜそう思う?」
レイズ様がこのような聞き方をする時は、本人も思うところがあることが多い。
「前にお話しした通り、僕はエレンの村とハクシャの戦いは、サクリという軍師の一連の謀だと思っています。どちらもルデクに橋頭堡を確保しようとする動きだった以上、ここで終わりとは思えません」
「なるほど、続けろ」
「2つの謀は前哨戦のようなもの、そう考えればどこかで本命の戦い、規模の大きな行軍があるのではないかと」
「それがそろそろ、と思った理由は?」
「もうすぐ雪が降ります。積もってしまえば行軍が難しくなる。何かあるなら本格的な積雪がある前かと。そして動くなら、恐らくはゼッタ平原」
「大軍を起こすならゼッタ平原しかないだろうな。だが、エレンもハクシャも失敗に終わったゴルベルが、それでも大軍を動かすか?」
「現在進行形で、別の策を巡らせている可能性もあるかと」
そこまで話したところで、レイズ様は「まぁ、そんなところか」と呟く。
「私もあのままで終わると言うのは座りが悪いと感じていた。自分が策を弄したのなら、もう一手二手は用意するからな。何かあるとすれば積雪の前という考えにも賛成だ。すでにあの付近には重点的に偵察を出している。僅かではあるが、ゼッタ平原にあるゴルベル側の砦の動きが活発になっているようだ」
「では、我々も動きますか?」僕らの会話を聞いていたグランツ様が一歩前に出る。
「、、、、いや、ここは後の先を狙おう。こちらの準備が調っていないと油断させて、攻勢に転じる。現在第四騎士団がいるのはキツァルの砦と、、、エレンの新砦か?」
「おそらくは」グランツ様が頷く。
「第二騎士団はユフェの砦だな?」
「僕が挨拶に行ったときは」僕が答える。
レイズ様は地図を持ち出すと、それぞれの砦の場所に駒を置く。キツァルの砦はゼッタ平原を睨む大きな砦だ。エレンの村の廃坑を改造した砦は、キツァルの砦から少し北。ユフェの砦もそれほど遠くない場所にある。
「では、第四騎士団と第二騎士団には注意を促す手紙を出そう。何かあった時は、すぐにキツァルの砦に集結できるようにする。それからキツァルの砦周辺の小さな砦に、密かに第10騎士団を分けて入れておく。期限は積雪があるまで。ゴルベルが動かなければそれで良し。積雪があった段階で作戦終了とする。それからロア隊は先にキツァルの砦に入れ。ロア隊くらいの人数ならゴルベルもそれほど警戒しないだろう。ゴルベルに動きがあったときは、機動力を活かして各砦への連絡役を担え」
「分かりました」
「よし。では、まずは王に伺いを立てる。許可が降り次第出発してもらうから、リュゼル、フレイン両隊にも伝えておけ」
「、、、、ルファはどうします?」
「ルファは本隊と動く、、、、いや、待て、やはりロアが連れてゆけ。先に砦についていれば、想定外のことが起きてもキツァルの砦で待機しておけるからな」
レイズ様の指示で当面の第10騎士団の行動が決まり、その日は解散。
その翌日、僕はレイズ様と一緒にゼウラシア王に呼び出された。
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「やあ、ロア、久しぶりだね。瓶詰めの打ち合わせの件ではすまなかった。どうしても断れぬ案件だったのだ」
「あ、いえ。。。」
「ネルフィアから聞いていると思うが、ロアの要望は確かに了解した。何かあれば言うが良い。可能な限りは叶えよう」
そういえば王様と謁見できる権利を貰ったんだった。
「はい。。。えーっと、、、、今日はなぜ僕も呼ばれたのでしょうか?」
「ああ、ロアは先日の新兵入隊式でレイズと戦って互角の戦いを見せていたろう?」
、、、あれ、外から見たら互角に見えたのかな? 実際は戦う前からすでに負けていたんだけど。
「いや、完敗でしたよ?」
「謙遜するな。レイズが担当する年は、相手を圧倒してつまらんと思っていたのだ。今回は見応えがあった。面白かった」
、、、、レイズ様、何してるんだ? あ、聞かなくてもなんとなく分かる。段々分かってきたけど、めちゃくちゃ負けず嫌いなんだよね。この人。
「そこで頼みがあるのだが、、、いや、レイズから聞いて、これからキツァルの砦に向かうことは聞いている。ゴルベルの動きは私の耳にも入っているのだ。レイズと君の見立ては間違っていないように思う。その上で私に少し時間をくれぬか?」
全く話が読めなくて、レイズ様に視線を向けるも、レイズ様は澄ましたまま。次いでこの場に同席しているネルフィアを見るも、こちらも目を合わせようとしない。本日は王の書記官としての役割らしい。
「、、、レイズ様が問題なければ、構いませんけど、、、」
僕の言葉を聞いて、ゼウラシア王は我が意を得たりとばかりに手を叩く。
「助かる。では紹介しよう。入ってくるがよい!」
助かる? 紹介? 僕が状況を把握できぬままに、謁見の間の扉が開く。
扉の先には子供が二人。
背の高い方の一人は生意気そうな視線をこちらに向けている。
小柄なもう一人は目を伏せてこちらを見ようともしない。
うーん。この場所に入ってこれる子供って、それってつまり、、、、
「紹介しよう。我が愚息、第一王子のゼランドと、その弟、ウラルだ」
あれ? なんかこれ、面倒ごとかな?