【第72話】災難の日② 多分僕の知らない人
いつも読んでいただきありがとうございます。
話の切りの関係で、本日少し短めです。
ザックハート様とは前回と同じ部屋で会うこととなった。
ただ、前回とは様相が大きく異なる。第三騎士団の兵士はほとんどいないというか、一人しかいない。ザックハート様の側近、べイリューズさんのみだ。
「ザックハート様はそろそろ参りますので」ベイリューズさんの言葉に呼応するように、長く美しい髭を蓄えた巨漢がのっそりと登場する。
「ザックお爺さま!」
その姿を見たルファがザックハート様に駆け寄ると、そこには衝撃の光景が広がった。
「おお、ルファよ! 会いたかったぞ!」と言いながら満面の笑みでルファを抱え上げるザックハート様、、、ザックハート様? あれが??? 双子の弟さんとかではなくて!?
驚いたのは僕だけではなかった。ウィックハルトも、ラピリア様さえも口を開けたまま固まっている。その横では、僕らの様子を見ながら、ベイリューズさんは肩を震わせて笑いを堪えている。
ラピリア様が目線で僕に「どういうことなのか説明しなさいよ!」と訴えてくるけれど、むしろ僕が聞きたい。本当に一体何があったんだ?
そんな僕らの様子にようやく気づいたザックハート様は、ルファを肩に乗せたまま「オホン」と咳払いをひとつ。いや、咳払いで場の空気は変わりませんよ?
一旦しかめ面に切り替えてから「今日はワシは非番である。楽にせよ」というと、再びルファに向かって笑顔を見せて「さて、ルファよ。どこに行きたい? どこでも連れて行ってやろう」と言いながら、奥の部屋へと下がっていく。
2人の姿が完全に消えてからラピリア様が小声で「どういうこと?」と聞いてきて、「僕だってわからないですよ」と返してベイリューズさんを見ると「後で説明しますよ」とだけ言った。
僕らがゲードランドに到着したのはちょうど昼時だったので、まずは昼食をという話でまとまる。
ルファが、ルルリアと行った食堂に行きたいというので、まさかのザックハート様の肩に乗ったままで移動となった。
少し離れてついてゆく僕ら。こうして後ろから見ると、完全におじいちゃんと孫娘の構図だ。おじいちゃんが通常の3倍くらい大きいけれど。
道中でベイリューズさんが経緯を説明してくれる。
僕らがルルリアの送迎で街を出た後、ルファは第三騎士団預かりとなっていた。流石に要人でもないルファを送り届けるためだけに第三騎士団を使うわけにはいかないので、誰かが所用で王都に向かう際に一緒に連れて行ってもらうためだった。
この間、ルファはどうも第三騎士団の食糧庫の管理のお手伝いを名乗り出たらしい。「何もせずにお世話になるのは申し訳ないから」と。
これがザックハート様の目に留まり、休みなく献身的に働くルファに「まだ幼さすら残る少女が立派である」となり、普段から第10騎士団で働いていると聞くと甚く感心し、同時に「このような少女を働かせるとはレイズは不心得者である」と腹を立て、ルファから「行き場のない私を置いてくれているのだ」と説明を受けて、こんなしっかりした娘が不憫である! と憤って、たった3日間であるがザックハート様が親身になって面倒を見た結果がこれ、という訳だ。
さらに言えばルファ自身も幼い頃に祖父を亡くしているらしく、ザックハート様に実のお爺ちゃんのように懐いた結果、子供は好きだが強面で遠巻きに眺められがちのザックハート様に、この純粋なルファの対応は刺さった。
「あのザックハート様が、、、、信じられない」と今でも目を丸くしているのはウィックハルトとラピリア様。2人はザックハート様との付き合いが長いはず。それだけに今見ている光景が信じられないらしい。
しかしルファ。ラピリア様だったりザックハート様だったり、ちょっと気難しい人の懐に入るのがうまいなぁ。
こうして僕らは半日ゲードランドの観光を満喫する。
とにかく目立ちまくるザックハート様のおかげで、ラピリア様やウィックハルトもほとんど目立つことなく、2人も良い息抜きになったみたいだ。
ま、第三騎士団はこの街では一番有名な騎士団で、ザックハート様のことを知らない街の人間など存在しないと言っていい。そのザックハート様がニコニコ顔で少女を肩に乗せて闊歩しているのだから、少し後ろにいる美男美女に注目するどころではないといった感じ。
ゲードランドには2泊3日の予定。
ザックハート様は明日の午前中だけどうしても外せない用があるけれど、それ以外は全てスケジュールを空けたそうだ。どれだけ気に入られたんだ、ルファ。
半日ゆっくり観光して、その日は穏やかに終わった。
けれど、引き続き楽しい観光となるはずの翌日、事態は急変する。
ルファが攫われたのである。




