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【第70話】レイズ様の秘密の倉庫


「ロア、お前には見せたいものがあるから残れ。他の者は先に戻るといい」



 圧気発火具が危険な物だと言う説明を受けた後に、レイズ様からそのように言われた。


 何が危険かと言えば、普段は大変便利なものだけれど、今は戦時。付け火に利用される恐れがある。


 砦や街などで相手を混乱させるには、火は非常に有効だ。だけど付け火を行おうとすれば、火打ち石を使用するしかない。当然火打ち石は音が鳴り目立つので、未然に防ぎやすい。


 ところが圧気発火具は大きな音もしなければ、ポケットに忍ばせることができる程度の大きさだ。


 圧気発火具が広く認知されていない現在、密偵に持たせれば危険極まりない道具となる。


「それ一つだけなら、他の者には使い方も分からんだろうから問題はないが」と言うことで、試作品は僕が預かって良いことになったけれど、新たに作る場合は徹底的に管理するべき、そう考えているようだ。


 レイズ様の言葉に頷きつつ隣を見ると、最初からその用途を思いついていたであろうネルフィアとサザビーは、凄く欲しそうな顔をしていたけれど。


 ともかく、僕とドリューを残して他の人たちはそれぞれ先に戻ってゆく。。。なぜドリューが残っているんだろう?


 レイズ様にジロリと睨まれたドリュー、全く意に介することもなく「あの倉庫に行くんですよね? 私も久しぶりに見たいです」と言う。


 レイズ様は少し眉根を寄せてから「好きにしろ」となげやりに返した。


 僕らのやりとりが終わったと判じたグランツ様が「では、馬を連れてきます」と伝えると、「いや、私も行こう、連れてくるよりも早い」とレイズ様が踵を返す。


 結局レイズ様、グランツ様、ラピリア様、僕、ドリューの5人は連れ立って馬屋へと向かうことになった。歩きながら僕はふとわいた疑問を、ドリューにぶつけてみた。


「ドリューって馬に乗れるの?」


「ジブン乗れませんけど? ロアに一緒に乗せてもらいますが?」と当然のように返ってきた。まぁ、いいんだけど。そもそも馬に乗ってどこに行くのだろう?



 馬屋に着いて早々に、世話係の人がレイズ様を確認して慌てて駆け寄ってくる。あっという間にそれぞれの愛馬が用意され、グランツ様の先導で僕らはルデクトラドの街を出た。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 王都を出て北へしばし馬を走らせると、小高い丘の上に大きな屋敷が見えてきた。周辺をぐるりと壁が囲み、小さな砦のようにも見える。


「ここってもしかして、、、、」


「ここはレイズ様の領地、そしてあれがレイズ様のお屋敷よ!」なぜか自慢げに言ったのはラピリア様。


「忙しさにかまけて、あまり帰ることはないがな」と、レイズ様は苦笑しているが、こんな立派な家に帰らないのはもったいない気がする。


 そんなことを考えながら進んで行くと、僕らが近づいてきたのに気づいたのだろうか、門が開けられ、使用人が出てきた。


「やあ、キンドール。今日もご苦労」


「おかえりなさいませ、レイズ様。3日ぶりですな。ちゃんとお食事は取られておられますか? ちゃんとお休みになられておられますか?」


「心配するな。ちゃんとしている」


「グランツ様とラピリア様もいらっしゃいませ。そちらの方は、、、、確かドリュー様でいらっしゃいましたな? それから、、、、」


「この男はロア、我が家に来るのは初めてだ」


「さようでございますか。初めまして、執事のキンドールでございます。ようこそいらっしゃいました」


 流れるような所作で、僕に向かって頭を下げるキンドールさん。


「あ、はい。よろしくお願いします」僕もあわてて礼を返した。


「それで、本日はご会食ですか? すぐに用意いたしますので、お茶を飲みながらお待ちくだされば、、」


「いや、研究室にゆく」


「、、、、かしこまりました。では馬をお預かりいたします。後でお茶もお持ちいたしますので」


「ああ、頼む」


 キンドールさんの合図で数名の使用人がやってきて、僕らから馬を預かってくれる。


「こっちだ。ついてこい」


 誘われるままついてゆくと、大きなお屋敷の横には、お屋敷にも負けないくらいの大きさの倉庫が並んでいた。


「うわぁ!」


 倉庫の中にあったのは、さまざまな兵器や道具だ。僕はひとつの疑問が解消されてつい、「こんなところにあったのか、、、、」と呟いてしまう。


「気になる言い方だな」早速僕の言葉をレイズ様が聞き咎めた。こういうのを聞き逃さない人だ。


「第10騎士団の武器庫を見たときに不思議に思っていたんですよ。記録では、第10騎士団は様々な道具を使って有利な戦場を生み出したはずなのに、武器庫には一般的な武器しか置いてなかったので」


「そういえば、初めて見せた時に何か言っていたな」とグランツ様が記憶を弄る。


「ええ。例えばこれ、分解した投石機ですよね? 第三次帝国防衛戦に使われた。すごいなぁ。何処かに隠しているはずだと思っていたのですが、こんなところにあったんですね」


「別に隠していたわけではない。単に場所を取って置くところがないとか、まあ、他にも理由はいくつかあるのだ」とレイズ様。


 僕がキョロキョロと倉庫にある様々な道具を見渡していると、レイズ様は一枚の羊皮紙を持ってきた。


「ここにこの倉庫にある物の一覧が載っている。武器以外にもドリューが作った物の中で、使い道がありそうなものはこちらに移してある。もし、使えそうなものがあったら私に言え」と言う。つまり、使って良いということか。


「いいんですか?」


「ああ、だが、代わりと言ってはなんだが、思いついたことはまず私に相談せよ。今回の圧気発火具、だったか? あのようなものを安易に生み出されては敵わんからな」



 そのように言うと、他のみんなも笑う。


 僕も苦笑しながら、ドリューが一番爆笑しているのはなんとなく釈然としないなぁと思うのだった。


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