【第68話】新しくて古い武器
ドリューの部屋にやってきた僕らは、足の踏み場もない中からどうにかスペースを生み出して椅子に座る。
しばらくガラクタの山を漁っていたドリュー。「あれ〜? どこにやったかな?」などといって、僕を少し不安にさせる。早々に壊れてなきゃいいけど。
ガラクタの山をひっくり返しているドリューを見ながら、ジュディアノがわちゃわちゃしながら淹れてくれたお茶に口をつける。
淹れ方がおかしいのか、全くお茶の味がしない。もう一人の部下、ホーネットに至っては手伝うつもりもないようだ。
しばらくガチャガチャやっていたドリューは「あ、そうだった」とピタリと止まると僕らの方へ。何かと思ったら、お茶の置いてあるテーブルの下に滑り込むと、「あった」と取り出してきた。
「大事なものだからしまっていたんだった」えへへと照れ笑いするドリューだったけれど、まず大事なものを机の下に置く意味が不明なので、照れている意味がわからない。
ともかく出来上がったものを手にとってみる。
僕の後ろからネルフィアとサザビーも覗き込んできた。
「、、、、なんですか? それ?」
僕は質問には答えずに張った弦にかかった引き手をグイッと手前に引く。うん、稼働は問題なさそうだ。少し力は必要だけれど、僕でも問題なく引けるなら、兵士ならなんの問題もないだろう。
「ドリューは試し撃ちした?」
「もちろん。さ、外に行きましょうか」
僕とドリューを追いかけながらサザビーが「教えてくださいよ、なんなんです? それ」と聞いてくる。
「見てればわかるよ」と返すと「見て分かるなら先に教えてくれたっていいんじゃないですか?」と食い下がってくる。
「あ、そうだ、これに関してはウィックハルトの意見も聞きたいんだ。サザビー、悪いけど急いでウィックハルトを呼んできてくれる?」というと、すごく渋い顔をした。
「俺が戻ってくるまで待っていてくださいよ! 先に始めたら一生恨みますからね!」と言い捨てて走って行くサザビー。
この程度で一生恨まれるのは困る。
ともあれ広場の端までやってきて、しばらく待っていると随分と大人数でサザビーが帰ってきた。
ウィックハルト以外にディックとルファがいるのは分かるけれど、、、レイズ様にグランツ様、ラピリア様、それにフレインとリュゼル。勢揃いである。
「はわわ、、、レ、レイズ様、、、」とジュディアノがオロオロし始め「カッケー」とホーネットがつぶやく。
僕らの元まできた面々を一度見渡してから
「えーっと、どういうことでしょうか?」と聞くと
「サザビーから、ロアが何やら面白いことをすると聞いてな、せっかくだからロア隊の部隊長にも声をかけたが何か不味かったか?」とレイズ様が代表して答える。
「不味くはないですが、まだ試作段階ですよ? とりあえずウィックハルトに意見を聞きたかったんですけど、、、」
「助言なら多い方がいいだろう?」
僕は小さくため息をつく、レイズ様の後ろでサザビーが楽しそうな顔をしているのが見えたので、後で何か仕返ししよう。
「ところで、私の意見をということは、それは弓、なのですか?」ウィックハルトが僕の手元を覗き込んで首を傾げた。
「そう。弩って言うんだけどね。海の向こうでは結構昔からある武器だよ」
「その溝に矢を置く、と?」
「そう。元々は槍も剣も使えない僕でもいざという時に使えそうな武器を、って思ってドリューに頼んだんだけどね。ま、とにかくどんなものか見てよ」
矢を溝に固定して的へ向ける。
僕が引き金を引くと、引き絞られた弦が解放されて矢を押し出す。矢はまっすぐに進んで、的に突き刺さった。
うん。悪くない。
「どうかな、ウィックハルト」
「、、、見せていただいても?」僕が弩を手渡すと、色々と触った後にウィックハルトは少し難しそうな顔をした。
「これは、連射は難しそうですね。それに、普通の弓よりも飛距離が出ないと思いますが」
さすが蒼弓。早々に弩の弱点をついてくる。
「そうなんだよ。だから弩が発明された国でも、それほど主流の武器じゃない。けど、、、」
僕が言葉を続けようとするとレイズ様が口を挟んだ。
「これを騎馬隊に使うことができれば、一射だけでも強力な先制攻撃になるのではないか?」
ご名答。最初は僕の身を守るための最終手段として考えていたのだけど、最初から矢をつがえた状態で持ち歩きができれば、弓の腕に関係なく、馬上からでも撃ちやすいのではないかと思い始めていた。
その旨伝えるとレイズ様はリュゼルに視線を向ける。
ウィックハルトから弩を受け取ったリュゼル。片手で狙うふりをしたり、重さを確認するとフレインに手渡した。
「、、、、レイズ様の仰る通り、面白いかもしれません。相手からすれば予期せぬ攻撃となるでしょう。比較的誰にでも使えそうなのも良い。持ち歩く際の方法も考えないとなりませんが」
「いや、リュゼル。携帯方法は問題ないんじゃないか? 瓶詰めを持っていく方法が流用できそうだ」とフレインに指摘されて「ああ、確かにあれをもう少し工夫すれば、馬もあまり気にしないかもしれない」と、2人で話し合いが始まった。
「ドリュー、これは量産できるか?」今度はレイズ様がドリューに問う。
「人手があれば。構造はそれほど難しくないですよ?」
「そうか、ならば取り急ぎロア隊に配備できる数を揃えよう。ロア隊で試して使えるようなら、他の部隊での運用も検討する。人手は確保するので、急ぎ進めてくれ」
「あいあいさ。でも、ジブンは忙しいので、ジュディアノとホーネットに任せます〜」
「ジュディアノ、ホーネット、できるか?」
「っす」
「ひゃ! ひゃい!」
、、、、レイズ様の質問に何とも頼もしい返事が返ってきた。大丈夫かな?
「それよりもロア! 作りたいものってなんですか!?」
と、僕に詰め寄るドリューを見て
「アンタ、またおかしな物を思いついたの?」そう言いながら、ラピリア様が呆れた顔して僕を見るのだった。




