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【第56話】入団式模擬戦⑤ レイズの剣


 中央のそれぞれの部隊が動いたことにより、僕のいる西の本陣から、レイズ様のいる東の本陣まで真っ直ぐに道ができた。


 僕が満を持して本陣から出撃させたのは、500の第六騎士団だ。対して、レイズ様の元には300の第10騎士団。しかもグランツ様もラピリア様もいない。



 このまま激突すれば十分に勝機はある。



 が、当然、思い通りにはいかない。



 中央を駆け抜けるために縦に長くなった第六騎士団500の兵の横っ腹を切り裂いて、ラピリア様が中央へ躍り出る!


 信じられない動きだ。先ほどまでリュゼルとフレインの2部隊を相手にしていたはずなのに。


 ラピリア様の妨害を受けなかったのは、先頭を走っていた100程度の騎兵。一瞬後ろを振り向いたものの、そのままレイズ様の本陣へと進撃を続ける。


 ラピリア様は止め損なった100騎には目もくれず、そのままグランツ様と対峙していた一団へ背後から襲い掛かる。


 背後からの思わぬ攻撃に兵士に動揺が走る。それを見逃がすグランツ様ではない。ここぞとばかりに攻勢に転じ、中央の戦況は敵味方入り乱れる大混戦に引き摺り込まれた。


 そんな中でも際立っているのがラピリア様の動きだ。


 縦横無尽、どのような勘をしているのだろう、混沌とする中で的確に脆い場所を突いて強烈な一撃を見舞うと、瞬く間に次の狙いへ弧を描く。




 戦姫の舞




 言葉には何度も聞いたけれど、実際に目にするのは初めてだ。鳥肌が立つ。



 中央突破は潰され、抜け出せたのは100の騎兵のみ。対するレイズ様の手元には300の守備部隊。一気に形勢が逆転する。


 そして、レイズ様本陣にあった守備兵が、抜け出したこちらの騎兵を潰すために動き出した。


 僕はそれを祈るように見つめる。


 前進を始めたのは200、、、、いや、250はいる。最低限の守備兵を残して、確実に100騎を潰しに来たか、、、、


 僕は中央の混乱をそっちのけで、本陣から出撃した250の兵の動向に注視。


 もうすぐ、先行した100騎の第六騎士団と激突する。


 こちらの騎兵の速度は遅い。後続が来るのを待っているように減速。


 そして、本陣の守備兵と100騎の第六騎士団が激突する直前まできた時、



 僕は、「勝った!」と思わず叫んだ。



 次に僕が見たのは、中央の混乱でも、100騎の第六騎士団でもない、戦場の北だ。そこには、レイズ様の本陣に疾駆する部隊が確かに確認できた。


 リュゼルとフレイン隊だ。


 僕は最初からこの2部隊を切り札にするつもりだった。


 全てはリュゼルとフレインの部隊を自由にするため。2人の部隊をラピリア様の意識の外へと弾き出すための作戦。第六騎士団と新兵、その全てを囮にする作戦は成功した。


 あとは100騎の騎兵が本陣から来た守備隊を足止めしてくれれば、リュゼル、フレイン両隊の突撃で勝てる!


 リュゼル隊もフレイン隊も無傷ではない。あのラピリア様と戦っていたのだ、残っているのは150に満たないけれど、レイズ様の元には50ほどの守備兵。十分だ。



 だが、甘くはなかった。



 激突直前と思われた250の守備部隊は、囮の100騎の直前で方向を変える。まるで事前から分かっていたように、猛然とリュゼル・フレインの両隊へと襲い掛かったのだ!


 僕はまさか!? と驚く。レイズ様の本陣から何か指示が出た形跡はない。にもかかわらずこれほどスムーズに目的を変えることができるのか?


 呆気に取られているのは僕だけではない。


 目の前で突然敵が逸れていった100騎の騎兵の一瞬動きが止まった直後、グランツ様が派遣した兵士が後方から攻めかかってくる。


 リュゼル・フレインの両隊は完全に足止めされ、中央部はいまだに大混乱。



 そんな中、混乱の最中を縫って、ラピリア様が軽快な動きで僕の本陣へ迫ってくるのが見えた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「っくううう。負けだ! くそっ! それなりに良いところまで行ったのに!」


「ああ、俺も勝てると思った」と悔しがるフレインと同意するリュゼル。



 模擬戦は終わり。そのまま演習場で慰労の酒宴が始まっている。


 僕らは負けた。確かに惜しかったように見えた。


 けれど、終わってから冷静に振り返ってみると、どうにも何か根本的な部分で間違いを犯していたような気がして、僕はなんだか落ち着かない心持ちだ。


「我々が不甲斐ないせいで、、、、申し訳ありません」と頭を下げるのは第六騎士団の部隊長、フォガードさん。


「いえ、とんでもない! 第六騎士団を全員囮として使うなんて、不愉快だったはずなのに、完璧にこなしてくれました。むしろ僕のせいで、、、すみません」


「いえ、ロア様が謝ることでは、、、我々がもう少し多く抜け出せていれば、、、」


「いえ、こちらこそ、もう少しちゃんと策を練っていれば、、、」


 と、敗因を奪い合いながら互いに恐縮しきり。


「ロア様も、フォガード殿もそこまで卑下しなくて良いと思いますよ。十分に見応えのある戦いでした」というのは、ちゃっかり打ち上げにも参加しているネルフィア。


「その通りです。第六騎士団は再建中、その上ロア様は第六騎士団を率いての戦いは初めて。それでよくもまあ、ここまで良い勝負をしたと思いますよ」とサザビーも続く。


 そんな会話をしながらお酒を舐めていると、顔馴染みの伝令兵が僕を探してやってきた。


「レイズ様が呼んでおられる。こられるか?」



 僕は周辺に目配せをしてから立ち上がり、レイズ様の元へと向かうのだった。



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