【第53話】入団式模擬戦② 新兵の話
レイズ様と第10騎士団を相手にした模擬戦。短い時間ながら、僕なりにできるだけの対策は練ってきた。
僕の作戦を伝えると第六騎士団の人たちは目を白黒させ、リュゼルとフレインは呆れた顔をして、ネルフィアとサザビーは興味深そうに僕を見て、ディックはぐうとお腹を鳴らしたけれど。
ともかく作戦は周知され、いくつかの質問と細かな打ち合わせが終わると天幕を出た。まだ、開戦の時間ではなく少し余裕がある。
僕はこの時間を使って新兵を集める。彼らへ役割を命じるためだ。
新兵の前に立つ僕の横には、ディックとネルフィアとサザビーも同行してもらった。
ディックのような巨漢は新兵に対しては威圧感があるし、ネルフィアとサザビーのような美男美女が横にいてくれれば、なんとなく僕が偉いような雰囲気を醸し出せる、、、といいなと思って頼んだのだ。
本音をいえばリュゼルやフレインにいて欲しかったけれど、彼らと第六騎士団の部隊長は、僕の伝えた作戦を自分たちの部隊に周知する必要があるので、僕に付き合っている余裕はない。
集められた新兵は500人程。レイズ様の方にも同数がいるので、今年入団する新兵はおよそ1000人となる。
見渡せば、緊張に表情が固まっている青年もいれば、ふてぶてしい態度で僕を値踏みするように見ている年配の姿もある。
騎士団への入団に際して、特に年齢制限などはない。基本的には各地に駐屯する騎士団へ申し出れば、誰にでも資格はある。
ただし申し出を受けるかは騎士団の判断一つ。さらに、受けつけたら即採用ではなく、それぞれの騎士団で適性試験が行われ、最初のふるいにかけられる。
それぞれの騎士団で適性は問題なかろうとなったら、書類が王都に送られ、身辺調査。前科がないかや、他国と繋がっていないかなどを調べられ、問題なしとなれば再度現地騎士団による本格的な訓練。
書類審査後の訓練はかなり過酷で、ここでかなりの人数が諦める。その扱きに耐えた者たちがこの場所に立っているため、新兵といえどもそれなりに精兵なのだ。
と、先んじてリュゼルが説明してくれた。
ちなみに正規のルート以外にも騎士団入団の道筋がないわけではない。例えば僕のような、騎士団長の独断による加入。これはかなり珍しい。
比較的良くあるのは、貴族関係専用の窓口だ。
こちらは入団そのものは一般兵よりもかなり簡単。ただし、入団した後は大変だ。
貴族の子息とは言え、実力を示すことができなければ容赦なく実家へ突き返される。
あまりに実力不足だったり、立場を鼻にかけた場合は本人のみならず家名に泥を塗る羽目になる。王の不興を買えば、最悪の場合親の立場を危うくする可能性すらあるのだ。と言うか、過去にそのような事例があるらしい。
さらにいえば、突っ返された貴族の子息は他の仕事でも出世の道は厳しくなるので、騎士団への入団は諸刃の剣となっている。
特に第10騎士団は貴族入団に対して厳しい。というか、レイズ様は実力主義者なので身分に忖度しないと言うのが正しい。
かような経緯があって、第10騎士団には貴族の子息は少なく、さまざまな身分からの登用が目立っている。
「そんな中で若くして部隊長の立場にいるフレインは凄いんだ。それだけは尊敬に値する」
「それだけとはなんだ。リュゼル。その話はもういい!」とぶっきらぼうに話を打ち切ったフレインの顔は真っ赤だった。
少し話が逸れたけれど、ともかく狭き門をくぐり抜けてきた人たちなので、個の戦力であれば当然僕よりも上だ。
僕の姿を見て、多分全員が思ったのは「腕っぷしなら勝てそうだ」という印象なのではないだろうか。口には出さないけれど、視線で分かるものだなぁ。
ともかく、話は聞いてもらわないとならない。
僕の説明にそれぞれ訝しげな顔をしつつ、それでも説明に耳を傾ける。
一通り説明して散会した新兵の後ろ姿を眺めながら、僕は大きく息を吐いた。
「ロア様、お疲れ様でした」と声をかけてくれたのはネルフィア。彼女は新兵の背を見て目を細めて、続けて言葉を紡ぐ。
「今年はこの中にどれだけの密偵がいるんでしょうかねぇ」
びっくりしてネルフィアを見る僕に対して、ネルフィアはむしろ楽しそうだ。
「密偵って、、、そういうの調べてから入団させるんじゃ、、、、」
「もちろん調べますけど、そんなの本職の密偵ならなんとでもなりますから。むしろ、ここからが本番というか」
「本番?」
「ええ。ここだけの話ですが、王都に滞在中の新兵の動向は王の書記官が監視しています。せっかくの王都だから、と、色々調べようとする輩は多いのです」
「ええ〜」なにそれ怖い。
「多いのはゴルベルや帝国ですが、他の国から送られた密偵もいますからね。毎年大体十名単位で捕獲される兵がいますよ」とサザビーが補足してくれる。
「そういえば、ゴルベル出身とか、帝国出身っていう新兵もいたよね? そういう人たちが警戒されるの?」
「とは限りません。出身地を明かしている相手は、却ってしっかりと調べられますから。むしろ密偵は出自を隠すかと」
「それもそうか」
さまざまな理由で他国に居られなくなりルデクに流れつく人もいる。新兵の中にも。特にレイズ様は他国出身の兵を好んで加入させているため、第10騎士団はさまざまな出身地の人がいる。
レイズ様曰く、「その地に住んでいた者の情報というのは何より貴重だ」というのが大きな理由。実際に現地の情報を元に勝利を収めた話は僕も良く知っている。
、、、、、ルファも同じような理由で連れてきたのかな?
そんなことをぼんやりと考えていたら、フレインが「そろそろ始まるぞ!」と僕らを呼びにきてくれて、僕は慌てて頭を切り替えるのだった。




