【第51話】チーム瓶詰め、打ち上げをしよう!
「スールちゃん! こっちに蜂蜜酒とワイン、追加でよろしく!」
サザビーの注文を満面の笑みで請け負うスールちゃん。今日はイケメンが2人もいるからほくほくである。一人はもちろんサザビー。そしてもう一人は僕、、、ではなくウィックハルトだ。
ウィックハルトは街の食堂に来ることはあまりないらしく、興味深そうにキョロキョロしている。そういえばゲードランドの港の食堂でもおんなじ反応してたな。
「このように酒場も兼ねていると、先日の食堂とはまた違った雰囲気ですね」と楽しそうなので何より。
ウィックハルトもフレイン同様に良い家柄の出身である。幼少の頃より弓の訓練のために、専属の教師がいたと聞いた時は少し呆れてしまった。
今宵、トランザの宿に集まったのは僕、サザビー、ウィックハルト、ネルフィア、ディックとルファである。つまりチーム瓶詰めにウィックハルトを加えた面々。
本日はチーム瓶詰めの打ち上げなのだ。瓶詰めは国家事業に継承されることになったので、ひとまずお疲れ様ということで集まってもらった。
なお、今回の費用はネルフィアを通じて王に請求できるという、無尽蔵の予算で開催されている。
と言っても僕らがこのお店でお腹いっぱい食べて飲んでもたかが知れてはいるのだけれど。
ちなみに王様の支払いと知っているのは僕とネルフィアとサザビーだけだ。
元はと言えば、ネルフィアと共にドリューの部屋に行く途中で「お疲れ様会やろうか?」なんて話していたことが、ネルフィアの報告の際にたまたま王の耳に届いた結果、このようになった。
先ほどからメニューを上から順に注文して、ひたすらに平らげているディックに、今日は王様の奢りだと言ったらどんな反応をするかな? ちょっと愉快な気持ちになる。
「でね、聞いてくださいよウィックハルトさん! このロアさんて人はひどいんですよ! 俺だけ除け者にしようっていうんですから!」
すでにいい感じにお酒が回り始めたサザビーがウィックハルトに絡んでいる。
「いや、違うってば。てっきり僕はネルフィアから話が行くと思っていたんだって!」
そのように僕に言われたネルフィアは
「あら、大切なことは自分で聞くべきですよね? サザビー」と涼しげな顔でワインを口にする。
サザビーが言っているのは今後の所属についてのことだ。
ネルフィアは事前に話した通り、僕の部下の立場を兼務すると聞いている。王様と僕の部下を兼務って、言葉にするとちょっと意味が分からないな。
ウィックハルトは言わずもがな。ルファは瓶詰めがなくとも、通常の食糧庫や武器庫の管理は僕と行うのでそのまま。
ディックに関してはレイズ様と相談の上、正式に僕の配下ということになった。今後はルファと共に在庫管理の手伝いをしてもらいつつ、戦場にも同行してもらう。
残ったのはサザビーだけど、僕はてっきりネルフィアから話がいっているものとばかり思っていた。
だから、今日の今日までなにも言ってこなかったサザビーは、王の書記官という本来の仕事に戻るものとばかり思っていたし、サザビーはサザビーで、ネルフィアも一緒に元の仕事に戻るものと思っていたらしい。
今日になって、ネルフィアが引き続き僕の部下としても活動すると聞いたサザビーが「なんで俺は誘ってくれないんですか!」と臍を曲げたという経緯。
僕はネルフィアに伝えたように「忙しい中で僕の面倒まで見てもらうのは申し訳ない」との旨を伝えたのだけど、「なにしでかすか分からない、面白そうな職場をみすみす手放すなんてあり得ると思いますか?」と言って、自分も残ると言い張った。
、、、、サザビーもネルフィアも優秀だからありがたい話ではあるけれど、2人の僕の評価に関して若干釈然としないものがあるのはなんでだろう。
「もう、サザビーはお酒飲み過ぎ」ルファに注意されたサザビーは「そうは言ってもさぁ、ルファちゃ〜ん」と、今度はルファに絡もうとして割と本気で嫌がられている。
ルファもこの数ヶ月で随分とみんなに慣れたので、残ってくれると分かったのは本当は嬉しいのだろうけど。
「ところでロア様、今後はどんな予定なのですか?」と全く酔った様子のないネルフィアが聞いてくる。
「今後? とりあえず街道の話し合いには参加するつもりだけど、、、」
「他にも何か隠してません?」探りを入れるようなネルフィアの言葉。隠していることはいくつもあるけれど、今のところ話す予定はないなぁ。
予定と言えば、ここからルデクの滅亡までに第10騎士団は2つの大きな戦いに参加するはずだ。1つは今年中に。もう一つは年が明け、滅亡の少し前。
その他にも小さな小競り合いや任務はあるだろうけれど、少なくとも2つ目の戦いまでにはレイズ様の信頼を確固たるものにしておきたい。その上で協力を仰ぐのが現状考えられる、対ルシファル=ベラスの最善策。
「ロア様?」
僕の思考がまた未来へ飛びそうだったけれど、ネルフィアに引き戻される。
「あ、ごめんごめん。そういえば、レイズ様が新兵の模擬戦に参加しろって言っていたなぁ」
「ああ、そういえばもうすぐですね。今年は第10騎士団と第六騎士団が新兵訓練を行うとか」
毎年、雪が降る少し前のこの時期は、出会いと別れの季節だ。
年齢で従軍が厳しくなった、或いは怪我をしてこれ以上の働きは無理だ、それ以外だと戦場から物言わぬ帰還を果たした。。。。理由は様々あるけれど、騎士団の退団はこの季節にまとめて事務処理が行われる。
代わりに新兵が一斉に入団してくる。
入団してくる段階で一通りの訓練を受け、騎士団への入団が認められた人達の最初の戦闘が、この演習だ。
騎士団加入の洗礼というか、歓迎というか、模擬戦とはいえ初めての大規模な戦闘で最前線を任される恒例行事。
大抵の新兵は先輩兵士にコテンパンにされて、晴れて各騎士団へと旅立ってゆくのである。
例年、第10騎士団と、その時余裕のあるいずれかの騎士団の2つの騎士団が新兵を指揮するのだけど、今年は街道拡張に従事する第六騎士団が相手をする。
毎年観客も出るようなイベントで、この時期の王都の風物詩だ。僕も文官時代は楽しみにしていた。
まさか、見るのではなくて参加するようになるとはね、、、、
僕は少し複雑な気持ちになりながら、しつこくルファに絡もうとしてルファのぐーパンチを食らうサザビーを眺めるのだった。