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【第50話】天才、ドリュー

いつも読んでいただきありがとうございます。

皆様のおかげで50話到達です! 


 ネルフィアとの話し合いの後、僕らはそのまま連れ立ってドリューの元へ向かう。途中で僕の部屋からルルリアの手紙も持ってきた。


 ルルリアは丁寧にタールの効果や費用、どのぐらいの量でどのくらいの街道に使えるかなども、わかる範囲で書き記してくれていたのである。とても助かる。


 これを元にドリューにざっくり費用の試算をしてもらい、ネルフィアからゼウラシア王に報告してもらうつもり。


「そういえば、ネルフィアとはこれでひとまずお別れなのかな?」僕のそんな一言に、隣を歩いていたネルフィアが首を傾げ、それから、ああ、と納得する。


「確かに王から命じられた瓶詰めの手伝いはこれで終了ですが、、、あ、そうでした。ロア様があまりにもあっさりと了承されたので、伝えるのを忘れていましたが、当面の間、瓶詰め工房は私とサザビーが面倒を見ることになっています」


「そうなの?」


「はい。それで、私としてはこのままロア様の配下も兼務させていただきたいのですが、、、」


「え!? それはありがたいけれど、瓶詰め工房の面倒も見なくちゃいけないのに大変じゃない?」


 なんだかんだ言って、優秀な事務官であるネルフィアがいると色々助かる。王様にも直接話せる人だし。でも抱えすぎではないだろうか?


「いえ、すでに色々兼務してますし、瓶詰めに関しては工程は確立されていますから、流れを知っている私たちは助言をするだけで、責任者は別にいます。それに何かあった時、瓶詰めの知識のあるロア様とすぐに連絡が取れるのは私にとっても都合が良いので」


「そう? それなら僕は異存はないけれど」


「ありがとうございます。では今後ともよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 そんな話をしながら、ドリューの部署にたどり着く。この部署にはドリューしかいないので、実質ドリューの部屋のようなものだ。実際彼女はこの部屋で生活しているようなものなので、部屋の方が正しい気がする。


「ドリュー、いるかい?」


 ノックしても反応がないのは彼女の基本。ゆっくり声をかけながら扉を開く。


 がらくたが積み重なった奥の方から「、、、、はぃぃ」虫の声みたいなか細い返事が聞こえ、僕らが慌てて室内に入ると、ドリューが机に突っ伏したまま変な声を出していた。


「ドリュー!? 大丈夫!?」


「ぁぁ、ちょっと、、、、ご飯を、、、、食べていない、、、、、だけ、、、です、、ので、だい、、、」


 僕とネルフィアは目配せをしてすぐに動き出す。僕は食糧の確保に、ネルフィアにはドリューの介護を頼んだ。


 ドリューの部屋の近くの部署に駆け込むと、そこの文官は心得たように、消化に良いものを準備してくれるという。よくある事なの?


 ひとまず固形物は任せてミルクだけ持って戻ると、ドリューはネルフィアに介護されながら「ふひひひ」と笑い声を上げている。いよいよ以てダメかもしれない。


 とにかく無理やりミルクを流し込むと、ゲフーとゲップをしてから「見てくださいよ、これ」と指し示す場所には1つの瓶があった。


 ごく普通の瓶、、、、ではない。でも多分、この凄さは大陸中で僕しかわからない物だ。


 瓶のフチには螺旋の凹凸がある。


 そしてその横には、同じように凹凸をつけた蓋。


 これはコルクよりも、より確実に瓶の中を密封できる工夫だ。未来で瓶詰めが発明されてから、各国がこぞって人と金を使ってようやく生み出された未来の瓶の形。


 僕には作り方が分からなかったので、作ろうとも思わなかった技術。


 それをドリューは、たった一人で見つけ出したのか。


 天才、ドリュー。


 僕は、このボサボサ髪でミルクを嘗めている女性を心底凄いと思った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ドリューが食事をしている間、僕はこの瓶がどれだけ凄いかネルフィアに説明する。ネルフィアも最初はピンときていなかったけれど、コルクも、蝋も不要で蓋は使い回しができると分かると目を丸くしていた。


「これ、下手したら瓶詰めよりも凄い発明ですよ」と話す僕に「さすがロア、分かってるよね〜」と少し顔色の良くなってきたドリューが言う。


「この瓶があれば、瓶詰めの保存期間が大幅に伸びるのは間違いないです」


「なるほど、理解いたしました。ではこの瓶の増産も考えないといけませんね。タールの事といい、あなた方のような人たちは本当に目を離せません、、、」


 頬に手を当てて大きくため息をついたネルフィア。なんだか申し訳ないけれど、僕のは他人の技術を借りただけ。ドリューのような本物の天才ではない。


「それで、ドリュー。作るのはそれほど難しくないのですか?」


「うん。作り方は教える。問題ないと思うよ」


「そうですか。では、申し訳ないのですがこの瓶の作成方法を急ぎ紙にまとめてもらえますか、タールの件と合わせて王にご報告しますので」


「タール? タールってなに?」知らぬ言葉にドリューが反応したので、今度はドリューへタールの説明をする。


「へえ。面白いね。それでこの手紙の金額で購入できるのか、、、、うん。良いんじゃないの?」


「え? もう試算したの?」


「うん。この程度ならすぐに」


「、、、、それでは、私は王に謁見の打診をして参ります。すみませんがお先に失礼いたしますね」


 僕とドリューに会っただけで、瓶詰め工場に加えて、新しい瓶の量産、そして街道拡張に使うタール輸入に関する報告と仕事が増えたネルフィアは、少し小走りに退出していった。


 残ったのは僕と、スープに浸したパンをずるずると啜っているドリュー。


「そうだ、ドリュー。もし暇な時間があったら、試しに作ってもらいたいものがあるのだけど?」


 僕の言葉にドリューは


「作ってもらいたいもの!? なんですか!? なんですか!?」


 と、口の中のスープを飛ばしながら食いついた。




螺旋の瓶とは、いわゆるスクリューキャップの事です。まあまあオーバーテクノロジーかな?

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― 新着の感想 ―
原油から錬成してタール作れるんだけど、他に重油なども使ってるとなると、小国では収まらない気するんだが
[一言] スクリューキャップが初めて現れたのは1920年代でしたかね。気密性を持ったのはつい最近の話だから、なかなか時代のすっ飛ばし?蓋は何で出来ているのかなぁ。世界史では1800年初期に瓶詰め食品が…
[気になる点] この後、ドリューは「ネジ」も発明するのでしょうかね。
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