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【第5話】僕しか知らない根拠


「おい、キョロキョロするな」


 僕は第10騎士団の一隊、フレイン隊に守られながらエレンの村に向かっている最中だった。


「ですが、これだけたくさんの兵士が歩いているのは壮観ですよ」


「何を言っている、お前がすぐに動員できる第10騎士団の総員を出せと言ったんだろうが」と呆れられるが、そうは言ってもこんな大軍になるとは思わなかった。


「フレイン隊だけで何人位いるんでしょうか?」


「俺の隊は500だ。ついでだから教えてやる。一つの部隊は普通、300から500、大きな戦いでは1000かそれ以上を率いる事もある。大隊長の実力もあるが、普段は300人程度が多いな。ま、第10騎士団の部隊長ともなれば、500が基本だが」と少し胸を張るフレイン様。


「へえ、さすがですね」僕が合いの手を入れると、少し満足そうだ。


「今回はレイズ様の本隊も含めて6500程参戦している」


「6500人、、、、」ものすごい人数だ。当初、ベテランの大隊長から反対が出たと言うほどの動員だけど、これでもまだ第10騎士団全軍ではない。


 本来、僕らの国の規模であれば、騎士団は10もないし、所有兵力ももっと少ない。それだけルデクは豊かであると言える。


 理由は2つ。鉱山と港。


 ルデクでは昔から良質な鉱山が多数見つかっている。エレンの村の廃坑もその一つだ。質の良い鉱石は海を渡った国々からも買い求められる。


 そんな海の向こうの商人たちが集まってくるのが、ゲードランドの港。穏やかな入江の中にあり、天候の影響を受けにくいこの港は、地理的条件とルデクの特産品によって、大陸でも有数の港として栄華を誇っている。


 比較的排他的とされるこの北の大陸において、ルデクに異国生まれの民や、異国の血を受け継いだものが多いのは、ゲードランドの港の影響が大きい。


 潤沢な資金によって、領土に比べてかなりの動員力を誇るルデクだが、この鉱山と港こそが、他国から狙われる理由でもある。


 敵対関係にあるゴルベルにせよ、帝国にせよ、海流や立地条件からゲードランド程の港を所有していない。


 一応帝国にもいくつも有力な港はあるけれど、その規模は比べ物にならない。結果的に南の大陸の商人は、船の損害の危険性が低く、距離的にも入港しやすいゲードランドに軸足を置きたがる。


 一旦ゲードランドで落ち着き、他の国へ商売へ。商売を終えるとまたゲードランドへ戻ってきて祖国へ戻るのだ。


 必然的に街は活気づき、人も、物も、情報も溢れている。


 それゆえに領土的にはルデクよりも大きな帝国やゴルベルとも、互角以上に戦えるのである。


 無論大陸屈指の大国である帝国と正面きっての戦いは厳しい。ただ幸いなことに、帝国との境は峻険な山が壁になり、帝国側からは攻めにくい地形だった。


 ルデクの東側にある帝国とは国境が限られ、また、ここのところ帝国は別の国との戦いに忙しい。


 さらにルデクが北で隣接するリフレア神聖国とは同盟中。そのため、ルデクはひとまずゴルベルの動きに注力することができている。


 ある程度ゴルベルに集中して兵を割けるとはいえだ、今回の出兵、相手は多く見積もってもたかだか100人程度。もしかするともっと少ないかも知れない。


 そんな盗賊相手に動員する兵力としては、はっきり言って異常だ。経験を積んだ部隊長さんが難色を示すのは当然だろう。


「しかし、お前、、、、あんな大見得きって大丈夫なのか? 俺は助けるつもりはないぞ」


 フレイン様が心配しているのは経費のことだ。


 兵士を大量動員するということは、多くの人間の食糧を用意しなければならないということ。たかが100人相手に6500人もの兵を動員するだけの価値はあるのか? との反対の声が多かった。


 それに対する僕の説明は「実際に新しい鉱脈があるのならばお釣りが来ます」だ。


 これには当然「そんな机上の空論で無駄に兵を動かすのか」と反論があったけれど「では、好きにゴルベルに掘らせますか?」と聞くと黙った。


 ゴルベルとは長い間、干戈を交えているのである。ゴルベルに得をさせるようなことは、自国が損してでも阻止したいと言う思いは、年配の将の方が色濃い。


 もう一つ言っておけば、僕はこの廃坑から、思いもよらない鉱脈が見つかっていることをすでに知っているのだ。一度その未来を見ているのだから、発言には自然と自信が伴ってくる。


 ゴルベルへの敵愾心と、僕の根拠はないが妙に自信に満ちた発言で、なんとなく押し切ることができた。


「しかし、なんで俺がお前のお守りなんだ、、、、」


 道中すでに5回以上聞いた愚痴だ。どちらかといえば僕の参戦に否定的なフレイン様が、僕の身の安全を守る役割にまわった理由は、単純に歳が近いからだった。


 フレイン様の年は僕とさして変わらないらしい。その年齢でレイズ様の率いる第10騎士団の部隊長の一人というのは、かなり優秀だろうというのは察しがつく。


 そんな将来有望な彼が、何処の馬の骨ともわからぬ一文官の護衛を任されるというのは不本意なのだろう。


 はっきり言って申し訳ない。だけど、任された以上はちゃんと守ってもらわないと困る。僕はこんなところで死んでいられないのである。


 僕の提案した布陣は通った。あとは本当に実行されるかを確認しなければならない。提案通りの布陣で勝つことができれば、歴史は変えられるということが証明されるのだから。


「フレイン様、レイズ様もフレイン様を信頼なさっての護衛でございます。きちんと期待に応えねばなりませぬ」


 そのようにフレイン様を注意したのは年嵩の将。名前をビックヒルトさんと言って、幼少の頃からフレイン様の教育係をしている。要するに”爺や”だ。


「ビックヒルト、そのようなことは注意されなくても分かっている。任されたことはこなす。デルタ家の誇りにかけてな」


 デルタ家、、、、耳にしたことはあるなぁ。確か、帝国との小競り合いで、指揮を任されていた将の一人がホラルド=デルタという人だったはずだ。


 関係者だろうか。多分、そうだろうな。父親かも知れない。


「おい、ぼんやりしている場合ではないぞ。そろそろ着く」


 フレイン様が指差す先で道が2手に分かれている。


 僕の指定した布陣先への道は、まるで運命の分かれ道のように見えた。



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― 新着の感想 ―
[一言] レイズはともかく、他の人態度悪いなぁ…下の者出世が難しいそう、やはり宮廷政治が腐ってる末期だから滅んだのかな、でも地形的には大陸一の立地な感じがするけどね、天災でも来ない限り例え腐った王朝で…
[良い点] 諸葛亮対司馬懿みたいで面白かったです! [気になる点] 何故、巻き戻しが起きたのでしょうか? 読んでるうちは話に夢中になって気にしてませんでしたが、読み終わるとそういえば…とちょっと気にな…
[良い点] 新しい切り口。面白い。 [気になる点] 読点の使い方がめちゃくちゃ気持ち悪い。
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