【第346話】真実③ 頼み。
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日話のキリの関係で、少し短めですみません。
「おい、一体何を言っている?」
「どうかよろしく頼む」
不機嫌そうに抗議するのはムナールであり、それを無視して僕に頭を下げるサクリ。
正直全く予想外の要望に、僕も些かきょとんとしてしまった。
ムナール、この人物は一体誰なのだろう? 少なくとも、正導会を始めとした主要な会派には、そんな名前はなかったように記憶している。
「、、、、ムナールが誰なのか、気になっておるようだな。この者は何者でもない。さらにいえば、教会に名を連ねてさえいないのだ」
「教会の人間ではない?」
「左様。貴殿らが教会についてどこまで知っているかわからんが、教会にサルシャの血の混じった者の居場所などない。いや、リフレアと言う国の中に、居場所がないのだ。この者は食って行くために仕方なく、此度の首謀者、ネロ=ブラディア個人に雇われただけの部外者よ」
部外者、、、、にしては、危険な雰囲気を纏った人物だけど、、、
「一つ宜しいか?」
ウィックハルトが発言を望み、サクリは小さく頷く。
「その者を野に放って、ルデクに、或いはロア=シュタイン様に危害を加えないという保証は?」
その言葉を受けて、サクリがムナールへ視線を移す。
「兄上の命でなければ、そのようなことをする必要はない。そうであろう? ムナールよ」
だが、ムナールは不機嫌そうに「だから俺の事を勝手に決めるなと言っているのだ。なぜ、貴様にそのような施しを受けねばならんのだ?」と、今にもサクリに掴みかからんばかりだ。
しかしサクリも引き下がらない。
「もう良いのだ、ムナールよ。お前を虐げてきた者達は、今日、潰える。お前には随分と汚れ仕事を押し付けてきた、、、、もう、十分であろう。ここからは好きに生きよ」
「お前っ、、、!!」
なおも何か言いかけたムナールを再び無視し、サクリは改めて僕の方へ頭をさげ「頼まれてくれるか」と願い出た。
サルシャの混血に居場所がない? それはつまり、この赤い瞳をした老人にも同じことが言えるのではないか? だとすれば、ムナールを逃がすのは、サクリの個人的な願いということなのだろうか。
僕は、サクリの条件を飲んでも良いかなと言う気持ちになっていた。しばらくは第八騎士団をつけ、ムナールの動向を監視すれば問題ない。
「、、、、分かった。サクリの要望を受ける」
僕の返答を聞いて顔を上げたサクリは「感謝する」と礼を述べ、「では、早速ムナールは預けておく。教皇は後から送り出す。約束の刻限を守るためにも、本山へ戻らさせてもらう」と言うと、早々に陣幕を出てゆく。
「おい! 俺の話はまだ、、、、!」
なおも食い下がろうとするムナールに「長い間、ご苦労だった」と言い残して。
サクリとはもう少し話してみたかった気もするけれど、本人にその気がないのなら仕方ない。僕は一人残されたムナールに視線を向けた。
「さて、ムナール殿、約束通り我が軍が保護させていただく。しばらくは別の陣幕で、監視のもと、、、」
「待て、俺からも話がある」
僕の言葉を遮って、ムナールが口を出した。少し怒っているようにも見える。
「なんだ? 悪いが、サクリの助命は受け付けられない」
先手を打って伝えると「違う。そんなことを願うつもりはない」とキッパリと否定するムナール。
「あの男が決着をつけるまで、お前達はこのまま包囲を続けるのだろう? なら時間があるはずだ。俺も対価を支払う。俺の話を、聞いてもらいたい」
「話を聞く?」
「ああ。聞くだけだ。他に何も、、、いや、それは話を聞き終えてからでいい。とにかく俺の話を聞け」
最後は命令口調である。
「おお、生意気だな」
「ロア、ちょっと小突くか?」
血の気の多いのが色めきたったけれど、止める。何を話すのか聞いてみたい。それに、サクリには聞けなかったことを聞き出せるかもしれない。
「許す。長い話か?」
「そうだな。それなりには」
「ならお茶を用意させる。それからムナールにも席を」
「いや、俺はこのままでかまわん。茶を用意するならここで待つ」
「そうか。では、悪いが、こちらは準備させてもらう」
そうして準備が調い、僕らは話を聞く体勢をとった。
そしてムナールの口から語られたのは、全ての、本当に全ての、始まりの物語であった。