【第338話】フェマスの大戦24 予期せぬ者達
北方から大きな砂塵が巻き上がるのを見て、リフレア兵が口々に歓声を上げた。
「援軍だ!」
「援軍が来た!」
「ツァナデフォル軍だ!!」
待望の援軍である。これで勝てる! 兵士たちは士気を上げ、ルデク兵への攻勢を強めてゆく。
対するルデク側では、各所で指揮官が気炎を吐いていた。
「敵がいくら来ようが、全て斬り伏せれば良い! よそ見をしている暇があるならば、目の前の敵を突けやぁ!」リュゼルが猛然と言い放てば、
「敵がツァナデフォルなら、リフレア軍を破れば撤退するはずよ! 今のうちにリフレア兵を片付けなさい!」ニーズホックも第二騎士団を激励する。
そんな中、一番に大声を上げそうなザックハートは、そのザックハートと互角の戦いを繰り広げるシュルツと睨み合っていた。
「援軍が来た以上、もはやルデクは持たないでしょう、、、我々の勝ちのようです」
肩で息をしながらも、ショルツがザックハートに話しかける。
「ふん。やることは変わらん。貴様の首を獲り、そのあとツァナデフォルの指揮官の首も貰う」
「絵空事ですね」
息を整えて、再び槍を構える両者。
愛馬の腹を蹴らんとしたその時、二人は後方の異変に気づいた。
先ほどまで上がっていた歓声が、悲鳴に変わってきたのだ。同時に「敵だ!」「奇襲だ!」との叫びが続く。そしてその中には「ルデクの伏兵だ!!」との声も。
ザックハートは首を傾げる。
伏兵とはなんのことだ? ツァナデフォルがリフレアに味方したのではないのか?
その疑念はこちらに近づいてくる旗印を確認すると氷解し、同時に驚きの声を上げた。
「なぜ、グランツが!? 第四騎士団がここにおるのだ!?」と。
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「間に合った、、、、」
僕はただただ、息を吐いて天を仰いだ。僕の最後の策、それが発動した。
ヒューメット=トラドに流言を仕掛けた際、僕は西の守護者として君臨していたグランツ様に頼み事をしていた。
一つは遺跡側のリフレアの動きを確認すること。これは報告にあった通り、虚報に際してリフレアは大きな動きを見せなかった。
恐らくではあるが、ルデクの西の守備には、ルブラルをけしかける事を想定していたのだろう。
そして僕はグランツ様にもう一つの頼み事をしておいた。「密かに1000ほどの兵士をリフレア領内からフェマスの裏に回せませんか? 可能かどうか検討してほしい」と。
グランツ様が引き連れていった元第10騎士団の中には、リフレアの林道を案内してくれた兵士も含まれていた。
ゆえに、僕の知らない進軍ルートがあるのではないかと期待しての事だった。
兵士も1000程度であれば、目立たずに進軍することもできるし、旧ゴルベル領の守備にも大きな影響は出ない。
王都からの出陣より前に、グランツ様には決戦の日を知らせる伝令も走らせ、事前にリフレア領に潜入してもらう手筈を整えていた。
上手くすれば、たった1000でも、背後から脅かされたリフレア兵も浮き足立つのではないか。そんな見込みの一手だったのだけど、、、、
隣で唖然としているヴィオラ隊長に、僕がそのように説明している間も、第四騎士団は続々と敵兵を打ち果たしてゆく。
そしてヴィオラ隊長は首をかしげ、雪崩れ込んだ味方を指差す。
「、、、、、1000、、、、ですかな?」
「、、、、多いですね、、、」
第四騎士団の数が想像以上に多い。それによく知る旗印が混ざっている。
「まさか、グランツ様自身が!?」
予想外の人物に僕も驚いた。しかしそれどころではない。
「ロア殿、、、、あれ、、、、」
ヴィオラ隊長の指差す先に見え隠れする旗。さらに信じられないものが、そこにはためいていた。
「ええ!? 、、、ボルドラス様も来ている!?」
どうなっているんだ!?
自分で頼んでおきながら、目の前で起きている状況が理解できないうちに、第四騎士団の参戦は、ルデクの勝利を決定付ける事となったのである。
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「、、、決着、という意味では、我らの勝ちのようだな」
先ほどとは立場が逆転したザックハートとショルツ。
この後、仮にツァナデフォルの援軍があったとしても、リフレア軍がそれまで耐え切ることは不可能であろう。ショルツは即座に判断する。
同時にショルツは構えた槍を下げた。
「なんだ? 降参か?」
ザックハートがつまらなそうに鼻を鳴らすも、ショルツは小さく首を振った。
「すみませんが、勝負をいっとき”預かり”にしていただけませんか。少々やらねばならぬことができました。それが終われば、再び貴殿の前に立ち塞がりましょう」
滅茶苦茶な要求である。
だが、ショルツの表情をじっと見つめていたザックハートは、ショルツと同じように構えていた槍を下ろす。
「ゆけ」
ショルツはザックハートに一礼し、馬首を返す。
それからザックハートに背を向けたまま「、、、、最期の時は、せめて貴殿ほどの槍に倒されたいものです」と言い残して、単身西へと馬を走らせて行ったのだった。