【第335話】フェマスの大戦21 伝達
「よっ、副団長。奇遇だな!!」
「こんなところで何してんだ?」
「君たちが何してんの!?」
この緊迫した状況の中で思わず突っ込まずにいられないほどに、本当に奇遇だよ!?
「私たちはちょっと火遊びしてたら」
「怒られそうだったから逃げてきた」
うん。何言っているのか全然理解できない。
そう思ったのは僕だけではない、ラピリアも、ザックハート様も、ホックさんも、必然的にサザビーへと視線が向かう。
「、、、分かってます。分かってます。今、説明しますから」
少し疲れた様子のサザビーの説明に、僕らは耳を傾ける。
、、、、なるほど、サザビーの説明は頭に入ってきたけれど、やっぱりちょっと何言っているか分からないな。
「、、、つまり、西の砦が手薄に見えたから、たった3人で制圧しに行って、そのまま残っていた燃える水をリフレア兵のいた北側に投げつけて全て燃やし尽くして、ヤバくなったから逃げ出したってこと?」
「そう言っているだろう?」
「人の話を聞かないと偉くなれないぞ」
本来なら双子にちょっと黙っていて、と言いたいところだけど、僕は3人に深く、深く頭を下げる。ラピリアの話と総合すると、君たちがいなかったらホックさんの援軍が間に合わなかったかもしれない。
「テヘヘ」
「テヘヘ」
急に褒められて照れる双子。
「しかし、何故、こちらに逃げてきたのだ? 我々がいることが分かっていたのか?」と首を傾げたのはザックハート様。
「いえ。ユイゼスト、メイゼスト殿は、背中を見せて逃げるよりは、敵陣を堂々と東に抜けた方が安全だ、と」
西へと流れてゆくリフレア兵の只中を、さも当然のように東へ向かってきたそうだ。確かに、敵軍の只中でそんな動きをする人間がいるとは思いもしないだろう。
それでも道中、不審に思った兵から2度ほど呼び止められたらしい。
けれど双子は「取り残された味方を助けに行くのだ! 貴様らは早々に持ち場に戻れ!」と、さも上官のように上から言い放ってここまでやってきたのだとか。
「、、、、俺、今までそれなりに場数を踏んできたと自負しているんですが、、、今回は流石に死んだと思いました」
サザビーの疲れ切った表情を理解する。
なんか本当に、お疲れ。
そんなサザビーであるがしょぼくれた顔から一転、表情を引き締めると「そういえば、ロア殿がこの場にいるということは、、、ネルフィアも?」不意に話題を切り替えた。
「ネルフィアは後方。ルファたちと一緒に、怪我人の救護に回ってもらっているよ」
僕が答えるとあからさまにホッとした顔を見せる。ネルフィアは医療の心得もあったので、今回は後方支援に徹してもらっているのである。王の秘書官はなんでもできるのだ。
「まあ、とにかく、ここで双子が戦力として加わるのはありがたいわね」
ホックさんが双子を見てニヤリとする。ホックさんのいう通り、双子はルデクでも指折りの騎士だ。この場にいるのは本当にありがたい。
僕らはこれから東に退いたリフレア兵との決戦に向かう。戦況を見る限り、ここでの戦いが決着に大きな影響を及ぼすと考えて間違いないだろう。
「ラピリアと、カプリアさん、サーグさん、ジュノさん達、先発隊で生き残った皆は下がって欲しい」
僕ははっきりと命じた。今回は個人の我儘ではない。それはラピリアもよく分かっている。
「私も一緒に、、、と、言いたいところだけど、これ以上は足手纏いになるわね。分かった」
話が早くて助かるよ。
「疲弊の大きなところで申し訳ないけれど、完全に休息という訳にはいかない。ルファたちがいる後方の陣に戻ったら、ヴィオラ隊と交代して欲しいんだ。そしてそのまま医療兵たちの警備を頼みたい」
「分かった。なら、私たちはすぐに下がるわね」
「うん。頼むよ」
ラピリアの了承をもらうと、今度は戦いに参加する将兵に向き直る。
「聞いた通り、ヴィオラ隊を補充します。ですが彼らを待っている時間はない。皆さんも満身創痍なのは分かっていますが、もう一働きお願いします」
「無論だ」
「もちろんよ」
ザックハート様とホックさんの快い返事を確認すると、僕は指示を出す。
「第二騎士団、第三騎士団、同時に攻め込んでもらいます。フレイン隊は暫定的に本隊として、ヴィオラ隊が到着次第、前線に投入するから準備して。ヴィオラ隊は状況に応じて動かすつもりです。基本的な戦略としてはこんな感じですが、どうですか?」
誰からも異論はない。
「では、すぐに進軍準備を!!」
僕の言葉で、大詰めの戦いに向けて、皆が慌ただしく動き始めた。
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「ラピリアお姉ちゃん!? 腕!? どうしたの!?」
後方へと帰還したラピリアを、ルファが驚きを以て出迎える。
「ちょっと油断したの」
「すぐに治療するから!」
「いえ、私よりも重症の人を優先して。もう血は止まっているから」
そんなラピリアの言葉にルファは少し迷ってから「分かった! でも無茶したらだめだよ!」と言い残して持ち場に戻ってゆく。
治療のために残された多数の陣幕の中は、どこも大騒ぎだ。
帝国との戦いでもここまでの被害が出たことはない。特に中央を請け負っていた第三騎士団の兵士に大きな傷を負った者たちが多い。
ここも戦場なのだな、そう思いながら、ラピリアは急ぎヴィオラと引き継ぎを終え、ヴィオラ隊を見送る。
その頃になると、だんだん痛みが強くなってきた。左肩に顔を顰めながらネルフィアを探す。
ネルフィアはルファとは別の陣幕で治療に当たっているところだった。
「ラピリア様、腕を、、、」
ネルフィアも左肩を心配してくれるが、それよりも先に伝えたいことがあった。
「サザビーは双子と一緒に第10騎士団に合流したわ。このまま引き続き戦いに参加するけれど、怪我もなく元気そうだった」
伝えられたネルフィアは、虚を突かれたように目を丸くして一瞬固まったのち、
「そう、、、ですか、、、、」と呟いた。
それから一瞬だけふふっと微笑んで、自身の異変に気づく。
「あれ、私、なんで涙が、、、、」
そんなネルフィアの様子を、ラピリアは黙って穏やかに見守るのだった。