【第31話】第六騎士団の処遇
リーゼの砦に第七騎士団がやってきた。僕ら第10騎士団との引き継ぎのためだ。
「第七騎士団の団長に挨拶しておけ」とレイズ様に呼び出されて執務室へ行ってみれば、レイズ様から開口一番、「第七騎士団を推挙した男、ロアだ」と紹介されキョトンとする。
全く心当たりがない。
「ほお、貴殿が」そのように目を細める第七騎士団の団長は、癖毛の赤い髪と少し赤みがかった目をした、異国情緒溢れる人だ。
第七騎士団トール=ディ=ソルルジア。確か、曽祖父が南の大陸からきた商人だったはずだ。まぁ、王宮内にも南の大陸の血の入った人は結構いるから、トール将軍が殊更珍しいわけではないけれど。
それはともかく「あのう、、、なんの話ですか?」僕が全く分からずに困惑していると、レイズ様がいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「王に進言していたではないか。”第七騎士団の団長は、あまり知られていないが、元第四騎士団の一兵卒から出世してきた叩き上げで、守備も上手い”と」
「ええっ!? あれは戯れだって言っていたじゃないですか!?」
「家臣の有用な進言を戯れで流すほど、我らが主人は狭量ではないぞ」と言う。もう、王の前で余計なことは言わないようにしよう。。。。。いや、それは無理か。
「レイズ様の見出した知恵者どのに、そのように評価されるのは、面はゆいが誇らしいことであると思う。しかし、よく私が第四騎士団にいたことを知っていたものだ」と少し感心したふうに、爽やかに言うトール将軍。
僕の勝手な他人評を本人を前にして話されるという羞恥プレイによって、今にも逃げ出したい気持ちの僕だけど、逃げると言う選択肢は存在しない。くっ、レイズ様め!
気を取り直して「確か、第三騎士団の隊長の熱烈な勧誘で、第三騎士団に移籍したんですよね?」と答える。
「どこでそんな話を? 驚いたな? 君は、、、何者だ?」少し表情を改めたトール将軍は、ほんの少し警戒心を滲ませる。しまった。調子に乗りすぎた。
「面白いだろう。各国の将軍を調べるのが趣味だそうだ」とレイズ様が助け舟を出してくれるけれど、それは微妙に語弊がある。
「あの、別に将軍を調べるのが趣味じゃなくて、戦争記録を調べるのが趣味なのですが、、、?」
そのように訂正すると、トール将軍は今度は少し困惑したように眉を寄せた。
「面白いだろう」と再び言うレイズ将軍に、トール将軍は曖昧な笑みを見せる。完全に変わり者認定された感じだな。
「、、、、ともかく、今後何かの世話になることもあるかもしれない。よろしく頼む」と握手を交わし、僕と第七騎士団の団長との出会いは、なんとも微妙な感じで終わった。
ともかく、リーゼの砦の生活は2ヶ月弱で終わり、僕らは王都に帰還することとなる。
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「やあ、みんな。留守の間お疲れ様!」
帰還した僕は、早速瓶詰め研究の仲間の元へ。ルファもネルフィアも、サザビーもディックも元気そうだ。
ディックはわざわざリーゼの砦まで瓶詰めを運んできたのに、到着翌日にはラピリア様のジャム以外を持って帰ることになった。
今回はあくまで輸送の試験運転であって、瓶詰めそのものはまだ極秘事項。なので、瓶詰めの入った木箱をリーゼの砦に置いておく訳にはいかなかったのだ。そのためディックと会うのもほぼ2ヶ月ぶりとなる。
「ところで、第六騎士団はどうなったか知ってる?」再会の挨拶もそこそこに、僕は気になっていたことを聞く。
第六騎士団が王都に戻ってからどうなったのか、全く情報が入ってこなかったのでずっと気になっていた。
「特に何も」答えてくれたのはネルフィアだ。
「何も?」
「ええ。ウィックハルト団長は謹慎中。第六騎士団は処分保留でそのまま王都に留め置かれています」
「どう言うこと?」
「多分ですけど、、、、レイズ様の帰還を待っていたんじゃないですか?」とはサザビー。
あー、なるほど。それなら理解できる。
レイズ様は軍部のみならず、内政や外交でも王が頼りにしている人だ。今回は現地の状況を知っている人物でもあるし、、、、ってことは、レイズ様が帰還した以上、処分が決まると言うことか。
それから数日後
「本日の午後、第六騎士団の処分を決める会議が行われるみたいですよ」との情報がネルフィアからもたらされる。
僕にできることは、レイズ様に穏便な処分を願うことくらいだ。今回の当事者であるリュゼルと連名で嘆願書をしたためて提出した。
どれほどの効果があるか分からないというか、多分ほとんど効果はないだろうけれど、それでもやれることはやっておきたかったのだ。
そして、その日の夜、第六騎士団の処分が僕らに知らされた。




