【第309話】西部動乱(下) 応酬
僕の考えるルブラルへの対策は「放置」一択だ。
まあ、正確には最低限の交渉を持ちつつ、時間を稼げばそれで良い。冬を迎える頃には、大凶作によってルブラルは戦争どころではなくなるのだから。
王は別として、凶作の話はまだルデク国内でも僕の周辺の人間しか知らない超極秘事項だ。今、この場でそう説明するわけにはいかない。
「ルブラルの立場に立って考えると、今、ルデクに攻め込むことは考えにくいと思います」
僕の返答にゼウラシア王は、「なぜそう思う?」とあえて問うた。
「三国同盟がある以上、ルデクと戦うことは、帝国やゴルベルも敵に回すことになります。なら、仕掛けるにしても今ではない。少なくとも、リフレアとルデクが本格的に激突してからにしたいと思うのは、自然なことかと」
「、、、うむ」
「僕がルブラルの王ならば、リフレアが優勢になってから参戦しますね。ちょうど今回の件はこちらへ攻め込む良い名分になります」
「では、ルブラルの自作自演であったという可能性もあるのか?」
「それは考えにくいでしょう。どちらかといえば、我々とルブラルの関係を悪化させたい国の方が怪しいかと、、、、」
「また、あの国か」
ゼウラシア王が顔を顰めた。
「ルブラルとしても、ここは我が国を牽制しつつ適度に時間を稼ぐのではないかと。時間を稼ぎたいのはルブラルも同じなのです。つまり、こちらから積極的に攻め入らなければ、こう着状態が続く、僕はそう考えたため”何もしないでいい”と」
「しかし、ロアの予測が外れて、攻め込んできたらどうするのだ?」参加していた一人が、いまいち信用していない顔で言葉を投げてくる。
「どの道第四騎士団が警戒していたのはルブラルです。もしもルブラルが動くなら、予定通り第四騎士団が守り、時間を稼ぐ間に、ゴルベルの援軍や第六騎士団を王都から派遣します」
これは元々決まっていた基本路線。ルブラルが動けば流石にリフレアも連動して動く、ならば、第10騎士団は急ぎ北へ向かわなくてはならない。
ルブラルには同じく王都に滞在している第六騎士団を援軍に、王都の守りは第五騎士団を呼び寄せるという手筈。
そのほか細かい質問が各方面から上がり、僕は都度答えてゆく。
ルブラルに対してはそれでいいけれど、ルブラルに押し入ったという謎の部隊に関しては、ちゃんと調べる必要がありそうだとも思いながら。
「、、、とまあ、こんなところですか? 一応、その所属不明の部隊を探す名目で、ヒース砦の方に第四騎士団の兵力を集めておきましょう。もちろんルブラルを刺激しないように、きちんと理由を伝えなければなりません。。。。あ、そうだ」
「何か思いついたのか?」
「いっそのこと、ルブラルに共同捜索を持ち掛けてはいかがですか? こちらの潔白を証明すると言って、1000ほど兵を借り受けるのはどうでしょう? 協力謝礼として金子を送れば、被害にあった街の復旧にも使え、サージェバンス王の面目も立ちます」
そしてこちらは、ルブラルの動きを気にせずに、謎の部隊の捜査に時間を割くことができる。
「なるほど、、、、」ゼウラシア王が手を顎髭にやった。前向きに考える時の無意識の癖だ。
それから少し王が思案している間に、僕は続ける。
「もうひとつ言えば、ルデクがルブラルの兵を自領に招き入れることは、向こうが攻め込む理由をぐらつかせます。こちらが協力を仰ぎ、潔白を証明しようとしているところに攻め込んでは、それこそルブラルの自作自演を各国に疑われかねないですから」
「、、、、よし、ロアの策でいく。手配せよ」
ゼウラシア王の決定を受けて、会議の場にいた者たちが動き出す。こうして降って湧いた西部の騒動は、問題を残しながら保留という決着を見た。
その後王と少々打ち合わせをした僕は、王からサザビーを借りて、ラピリアやウィックハルトを連れると、急ぎ東へ馬を走らせるのだった。
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「これはロア殿、突然どうされたのですか?」
驚きの顔で僕らを出迎えたのは、シビリアン家のシャッハ様。
「急な来訪ですみません。内密にお話したいことがあるのですが、ダーシャ公もいらっしゃいますか?」
「父も館にいます。すぐに呼んでまいりますので、応接室にてお待ちを」
僕らが応接室で席に座るよりも早く、ダーシャ公を連れたシャッハ様がやってきた。
ダーシャ公に急な来訪を詫びると、
「それは構わぬ。それよりも、ヒューメットに何か送りたいということか?」
話が早くて助かる。
「はい。ちょっとリフレアを揺さぶってみようかと思いまして」
こちらの動きがないのが不満なら、リフレアには少し、踊ってもらおうか。