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【第308話】西部動乱(中) 損得勘定



 その日、ルブラル王であるサージェバンスにもたらされた情報に、王は嘆息で返す。


ーールデクより謎の部隊が乱入、アズバンの街を荒らして、ルデク領内へ退却。その後の行方は不明ーー


 さて、この報告をどう取らえるべきか。ざっと考えて、可能性は3つだな。


 1つ、ルデクが欲をかいた。これが一番単純な話であり、色々と動かねばならぬ原因となる。同時に一番可能性が低い。

  

 攻め込むにしてはやり方が中途半端だ。これが、どこかの砦を包囲しているのならば分かりやすいのだが。


 2つ、単純な集団野盗の可能性。実はこれも無くはない。国境の向こうはルデクがゴルベルから奪って間もない土地だ。


 表向きは落ち着いているが、ルデクの下で生きることを良しとしない者達も少なくないだろう。そういった輩どもが集団で金を奪いにきた。


 ルブラル側を荒らして行ったのは、ルデクへの嫌がらせ。要はルデクのせいにして、あやつらを困らせてやろうといったところだ。


 わざわざ国境門のある街道を外れて、こちらへ侵入してきたのだから、それなりに計画性を持って動いているはず。


 そして最後に、実はリフレアの兵士だった、という可能性。これも、無くはない。


 ガルドレンの引き渡し交渉にやってきたヒーノフという男、随分と思わせぶりな言葉を残して帰った。悪くはない煽り方だが、ヒーノフのやり方はあざと過ぎだ。役者として少々不足していた。


 リフレアがルブラルを参戦させたくて、こざかしい策を講じたというのが見え透いていたのだ。


 今回の一件も、リフレアの策の一環、、、、これも無くはない。


 しかし、この程度で私がルデクと戦端を開くと思ったら、それは大きな思い違いである。このサージェバンスを過小評価しているとしか思えん。


 まあ、実はサージェバンスにとっては、原因はどれでも良い。はっきりしているのは、この出来事は”使える”という事だ。


 ルデク側からやって来た軍勢なのは間違いない。どうあれ、ルデクは弁明せざるを得ない。


 万が一本当に戦う気で攻め込んでくるのなら、その時はリフレアと共同戦線を張れば良いが、この感じだと、恐らくそうはならぬ。


 であれば、ルブラルはルデクに対してちょっとした交渉カードを手に入れたことになる。


 もし、リフレアとルデクがやり合って、リフレア優位となれば、我々はこの一件を以て、「先に手を出したのはルデク」と大義名分を掲げて攻め込むことができる。


 ルデク優位にことが運んだ場合は、一つの貸しとしてルデクの交渉に利用できるだろう。どう転んでも、我々の損にはならんはずだ。


 さて、ルデクはどう動くか。サージェバンスは密かにほくそ笑みながら、国境付近に兵を集めて警戒させつつ抗議の使者を送り、ルデクの出方を見ることに決めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ルブラルの使者の突然の来訪、もたらされた内容は僕らにとっては全く心当たりのない物だった。


 ルブラルの使者の到着の直後には、ボルドラス様の放った兵士も駆け込んできた。ルブラルに侵入して、ルデク側で忽然と消えた部隊の話と、その部隊が第四騎士団とは関係ないことを知らせる内容だった。


 ルブラルの使者には、心当たりがないとしか説明のしようがない。だけど、当然ながら使者は引き下がりはしない。


 僕を含め主だった将官が集められた中で、使者は声高に糾弾する。


「目撃者からは、現れた兵数は3000近いとの証言があります、ただの賊徒ではあり得ぬ数です。貴国が何も知らないと言うのは不可解でしょう。自国の兵ではないと言い張るのであれば、その部隊を探し出して、こちらに引き渡してもらいたい。そうでなければ到底納得できませんな。もしもできぬとあれば、ルデクはルブラルと敵対する意思さえ、、、我々は疑わざるを得ません」


 使者の言葉は正当なものだ。僕が逆の立場なら同じように主張するだろう。


 しかしこれは、やられたな。裏で糸を引いたのはリフレア、、、、サクリだな。その謎の部隊がどんな方法で、現れたり消えたりしたかは分からないけれど、見つけるのは多分、無理だ。


 僕らが動かないのを見て、仕掛けてきたのかも知れない。


 流石に黙って待っていてはくれないか。


「とにかく、貴国の誠意を見せていただきたいものですぞ!」



 ルブラルの使者がそんな言葉を残して帰国すると、僕らは対策のために集められる。



「さて、どうするべきと思うか? 意見を述べよ」


 ゼウラシア王の言葉に、様々な意見が飛び交う。


 議論の中で主流を占めるのは、第四騎士団を使ってその謎の部隊を探すべきと言うものだ。必要に応じて、第六騎士団や第10騎士団の一部を割いてはどうかと言う意見も散見される。


 僕は意見に耳を傾けながら、サクリの狙いについて考えていた。


 僕らが一番困るのは何か。一番はルブラルの参戦、というか、リフレアに先んじてルブラルが攻め込んでくることだな。


 だけどあの使者の口振りでは、まだ交渉の余地がありそうだった。とすれば、ルブラルも迷っている? いや、あそこの王も強かな人物だ。機や利を探っていると見ておいた方がいい。


 かといって、今の状況ではルブラルに対してあまり下手にも出たくない。


 ルブラルが動かなかったとしても、当面国境付近は緊張感が漂うことになる。第四騎士団を縛り付けることが最低限の目的であったことも考えられるな。何せ、兵力を削ることができれば、リフレアとしては優位性が増す。


 他には何かあるかな、、、、、


 ルデク、ルブラル間を揺さぶることで、こちらの焦りを煽ると言うのもあり得るな。それに消える部隊というのは厄介だ。兵士たちへの動揺も生まれるかもしれない。


 うーん、色々考えられるなぁ。僕らの選択次第でリフレアから動く、なんてこともあり得るのかな? それなら一度、こちらも揺さぶってみようか? 差し当たって、”あの手”が使えるし。



「ロア、聞いていたのか?」


 ゼウラシア王に指名されて、僕は顔を上げる。途中から全く聞いていなかった。


「ロアの考えを聞いておこう、何かあるか?」


 そんな王の問いに僕は、


「ルブラルが国境を越えなければ、このまま放置で良いと思いますよ」と端的に答えるのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは!ランキングみて面白そうだなって思って読んでみたら面白かったです(語彙力) 次回の更新も楽しみにしております!
[良い点] めちゃくちゃシンプルなロア君の返事、ゼウラシア王も些か拍子抜け、でしょうか。 [一言] わざわざ乗り込んできた上に騒ぎ立てて交渉カードを手に優位に立ったと喜んでいるのに、ロア君の「さしあた…
[一言] 3日間でここ迄読ませて頂きました。チートは大好きですが、お約束の周りに侍る沢山の女性陣に些かうんざりしていた中にこの物語は、一度も読み進むのを辞めようかと言う気持ちに一度もなる事も無く、ここ…
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