【第300話】トゥトゥ農場
300話!!
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「それじゃあ、シュタイン領は今、畑になっているの?」
「北側の一部だけですけどね。おいおい領地の半分くらいはトゥトゥ農場にしようと思っています」
畑に向かいながら、トゥトゥの畑の場所を説明すると、ホックさんは少し驚きの声をあげる。
「てっきり王の直轄領を使っているのかと思ったわ」
「まだ試験段階ですから。それに、ちょうど良い人手があったので」
僕の言う人手とはキンドールさんたち、シュタイン家の使用人の人々のことだ。現在は20人もの人々が館の維持管理に努めてくれている。
と言っても、館は僕がほとんど使用しないので、何か他に有効なお仕事はなかろうかと考えている最中だった。
畑仕事となれば今までの仕事内容と大きく異なる。嫌がられるかとダメもとで相談してみたところ、思ったよりも色好い返事を頂けたので、館の近くに畑を作ることにしたのだ。
ちなみに開墾に関しては、全力で職権濫用させていただいた。筋力強化と体力作りの名目を盾に、第10騎士団総出で耕したのである。
なんでもない平地がおそるべき速さで畑に変わってゆく様は、非常に見応えがあって面白かった。
シュタイン邸を横目に見ながらアロウを走らせると、すぐに畑は見えてきた。使用人の一人が気づいてこちらに手を振ってから、奥にいた人物に声をかける様子が見える。
声をかけられた者が、こちらに駆け寄ってきた。
「副団長! 今日は急にどうされたんですか!」
頬を泥で汚しながら満面の笑みで出迎えてくれたのは、第10騎士団の新兵、ダンブルだ。
かつてロズヴェルと共に僕らと力比べをして、コテンパンにされた5人組の一人。
あの時、剣技でフレインと唯一多少なりともまともに打ち合えたのが、このダンブルである。家は西部の小さな貴族で、一応の心得があった。
そんなダンブルがなぜここにいるかと言えば、開墾を手伝ってもらったところ、トゥトゥにとても関心を持ったから。
同じ新兵仲間のレニーが耳にして、僕の政務を手伝っていた際に世間話で口にしたのだ。どうもトゥトゥどうこうというよりも、畑仕事そのものに興味があるらしい。
小さいとはいえ実家が貴族であるダンブルには、興味はあっても農家になるという選択肢はなかった。だから第10騎士団で土を弄れるとは思わなかったと、楽しそうに話していたそう。
そこで僕がダンブルを呼び出し、畑の管理を手伝ってくれないか打診すると、快く引き受けてくれたのである。
僕としても現地に一人騎士団の人間がいると助かるし、万が一、周辺からよからぬ輩がちょっかいを出してきた場合、戦える人間が一人いるのは安心だ。
というわけでダンブルはレニー同様に僕の直属として、こうして畑仕事に勤しんでもらっているのであった。
「ダンブル、急に悪いね。どう、順調?」
「はい。本当にこのトゥトゥというのは生命力が強いですね。さして水をやらなくても、つるがどんどん伸びてきます。私たちは雑草を抜くくらいしかしていませんが、ご覧の通りですよ」
ダンブルが手を伸ばした先には、確かに青々と生い茂ったトゥトゥの葉が所狭しと広がっていた。うん。順調だな。
「夏が終わる頃には葉っぱが茶色になってくるから、そうしたら知らせてもらえるかな? 多分、収穫時期のはずなんだ。また第10騎士団を駆り出すよ」
「わかりました! あの、、、そちらの方は、、」
「あ、そうか。もしかして近くで見るのは初めて? 第二騎士団長のニーズホック将軍だよ」
その言葉を聞いて背筋を正して礼を取るダンブル。
「し、失礼しました! 第10騎士団所属、ダンブル=クペールです!」
「気にしないで、ニーズホックよ。宜しくね」
「ちょっと、ダンブル。少し緊張感がないわよ」と同行していたラピリアに注意されて、「たはは」と苦笑するダンブル。ここで苦笑できるあたり、なにげに肝が太い。
「まあ、とにかく、見学に来られたのならゆっくりしていってください!」
そう言いながら畑へと促すダンブルに付き従って、僕らは生い茂る緑の絨毯へと歩き始めた。
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「キンズリー=インブベイが死んだ、か」
指でこめかみを軽く叩きながら、サクリは一人呟く。病死となっているが、そんなわけがあるまい。
ロア=シュタイン、本人かその周辺を弱体化せよと命じたが、失敗したということだ。
少々惜しい駒ではあったが、仕方がない。ルデクでの貴族の力は削がれる一方だ。ここらが潮時だったのかもしれん。それにヒューメットの方のツテもある。ここは切り替えるか。
それにしても、ルデクの動きがほとんどないのが気に掛かる。
すぐには動けぬとは思ったが、もう良い加減、体制の立て直しも終わりそうなものだ。
「荷止めか、、、、」
数少ないルデクの動きが荷止めだ。こちらを焦らすのが狙いであろう。確かに、少しずつ不満が漏れ聞こえ始めている。帝国も歩調を合わせているので、尚更物の流入が少ない。
確かに荷止めは効果的だ。特に今年は年が良くない。天候を読む限り、今年は秋の農作物の出来が厳しそうだ。”ある程度の不作”は覚悟したほうが良いだろう。砦に篭っての戦いが難しくなるかもしれん。
兵糧の確保をしておいた方が良いが、、、、ルブラルから買い付けるか? しかし、我が国の大臣がどこまで私の話を聞いてくれるものか、、、、、「お前は戦争のことだけ考えておけ、内政に口を出すな」と一蹴されるのが関の山だな。
とはいえ放置はできん。なんらかの理由をつけて、少しでも買い入れさせよう。
それにしてもだ、この荷止め、不作も読んでのものか?
向こうの軍師も天候を読む術を知っているのか?
サクリの中でロアの評価をひとつ上げる。本当に天候を読む術を知っているかは別としても、相手を過小評価することはしない。
しかし、狙いはそれだけだろうか?
別の目的があったり、あるいは事情があったりしないか?
ロアを探らせてはいるが、今のところ王都やゲードランドなどをうろちょろしているだけで、大きな動きは見せていない。第10騎士団も同様だ。
だが、何も仕掛けてこないのはやはり違和感がある。
例えば、、、、、そうだな。オークルに視線を集めておいて、別ルートからの侵攻。ゼッタ平原を抜けて、大遠征の再現などはあり得るか?
うむ、、、、ちょうど良い。探ってみるか。そろそろあの辺りも動かしてみる頃合いぞ。
それともう少し、王都の内情を探ってみよう。ヒューメットに頼むか、、、、、
サクリはこめかみを叩く手をとめ、ゆっくりと立ち上がると、ゆらりと部屋を出ていった。




