【第291話】騒がしい三人(上) ルルリアからのお誘い
ルルリアから手紙が来た。
「新港の打ち合わせのためにゲードランドに行くので会えないかしら?」と言う内容のものだ。
せっかくのお誘いである。日程を調整した僕らは一路、ゲードランドに向かう。僕に同行するのはルルリアと仲良しのルファ。それにフレインとリュゼル、サザビーとネルフィア、さらにシャリスとリヴォーテという組み合わせだ。
珍しくラピリアとウィックハルトはお留守番。二人とも帝国でルルリアと会っているため、今回はルルリアとの再会込みで、フレインやリュゼルに僕の護衛を譲った形。
もう一つ言えばフレインは下手したら僕よりも忙しく働いていたので、ここらで休みを取るべきであるという思惑もあった。
ネルフィアも同様。流石に王からも「そろそろ少し休め」と怒られて、僕らに同行して羽休め。サザビーはちゃんと休むかどうかのお目付役である。
リヴォーテは帝国の重要人物たるルルリアが来るので、近況報告を兼ねたお仕事。そしてシャリスであるが、こちらはフレインが同行を提案した。
「あいつ、少し気負いすぎているからな。少し気分転換させたほうがいいだろう」
確かにシャリスは第一騎士団を離脱して以降、ずっと張り詰めた空気を纏っている。リフレアとの戦いはこれからが本番なので、ここで無理しないほうがいいだろうと僕も賛成した。
「話には聞いていましたが、全くの別物ですね」
と、そのシャリスが感心しているのは舗装された街道だ。僕らは完全に慣れてしまっていたけれど、第九騎士団に出向していたシャリスが実際に使用するのは初めてだという。
「これが、東西にも延びるのですか、、、、」
先のゴルベル親善の際、ゼランド王子が口にしていた「ゴルベルまでの街道延伸」。王子は、王都帰還後すぐにゼウラシア王に提案して、無事に承認された。同時に帝国への街道計画も持ち上がる。
街道を完全に繋げるためには隣国との調整も必要になるけれど、先々を考え、街道を徐々に延伸しながらゆっくりと話を進める予定。断られたらルデク国内で止めておけば良いだけだし。
今日も天気が良いなぁ。歩きやすい街道を、雲を眺めながら悠々進む。
「ところでゲードランドは何が美味いのだ?」
ゲードランド自体初めてのリヴォーテ。わくわくが隠しきれずに、僕に聞いてくる。いや、君は仕事で行くんでしょ? それに、ルルリアがゲードランドに来たのなら、食べるものは決まっていると思うよ。
「そうだ、リュゼル、新兵の様子はどう?」
リヴォーテは適当にあしらって、僕は話題を変えた。
最近は別件で色々と動き回っていたので、第10騎士団の新兵の訓練はリュゼル達に任せきりだ。
リュゼルは程よく厳しくて新兵の扱いが上手いので、第10騎士団の中でもなんとなく新兵担当となっている。
「まあ、まだまだだが、この間の戦いで顔つきが変わったやつも多い。しかし、少し鮮やかに勝ちすぎたからな、実力を履き違えるような兵士も出てくる頃だ。そうだ、ロア、一度模擬戦で徹底的に負かせてやってくれないか。いい薬になるだろう」
「、、、そうだね。リフレアとの戦いの前にそれもいいかもしれない。分かった。調整するよ」
「お、模擬戦なら私も参加させろ」と横やりを入れてきたのはリヴォーテだ。遊びじゃ無いですが?
断ろうと思ったら、意外にもフレインが賛意を示す。
「噂に名高い鋭見のリヴォーテの戦い方か。模擬戦とはいえ、実際に見てみたいものだな」と。
そんな訳で急遽持ち上がった模擬戦の話で盛り上がりながら、ゲードランドへ到着。
アロウ達を厩に預けて、「ルルリアはどこかな」と言いかけたその時。
「なんだとぉ! 無理に決まってんだろ!」
「あら、そんなことないわよ。今資材運びに回している人員を調整して、もう少し増員すれば大丈夫!」
「おいおい! 俺の仕事をまだ増やす気か!」
非常に騒がしい声が向こうから聞こえる。うん。あそこだな。
声の方へと歩いてゆけば、案の定、ルデクの海軍司令と、帝国の姫様と、帝都の裏の顔役が道の真ん中でギャーギャーと言い合っているのだった。
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「あら、ロア、こんにちは来てくれて嬉しいわ! ルファも一緒ね!! 会いたかった! それにリュゼルさん、フレインさんもお久しぶりです」
僕らに気づいて駆け寄ってくるルルリア。
「おう、小僧。お前のおかげで俺はこんな所まで連れ回されてるぞ、この姫様、なんとかしろや」と早々に不満を漏らす山高帽のスキットさん。
「おいロア、この姫さん、到着したばかりでまた無茶なこと言い出したぞ、お前が対応しとけよ」と初っ端から丸投げしてくるノースヴェル様。
僕は、この三人が集まったところを一度見てみたいなんて思ったことを、早々に後悔し始める。
「とりあえず昼食にしましょう」と提案するルルリアの先導で、僕らはゲードランドの細道へ。ちょうどお昼に出掛けた道中で、意見の食い違いから議論になったらしい。
「おい、大丈夫か? こんな場所に何があるんだ? 我が国の姫に何かあったら許さんぞ」
僕にこそこそと話しかけてくるリヴォーテだけど、そもそも先頭を担っているのはルルリアで、僕らが連れ回してしている訳ではない。それに、どこに行くのか分かっているから大丈夫。
「着いたわ。ほんと、もう一度このお店の味を堪能したかったのよ! 夢にまでみたくらい!」
そんな風に言いながら、立ち止まったのは裏通りの一角にある古臭い食堂。
厨房を切り盛りするのは老夫婦だ。
僕の子供の頃から変わらない風景。
「あら、いつぞやの、、、、」奥さんのほうがルルリアの顔に気づいてニコリと笑顔を見せる。
「お久しぶりです! 大人数ですみませんが、みんなにポージュを作ってくださる?」
それから僕らの方をくるりと振り向いて、
「ここのポージュは最高なのよ!」と楽しげに宣言したのだった。