【第282話】ゾディアック家の人々② 慌てる僕ら。
「ちょ、ちょっとネルフィア!? そりゃラピリアは素敵な女性だし、僕には断る理由なんてこれっぽっちもないけどさ! 今は僕、まだ色恋に気持ちを割く余裕がないんだよ!」
「わ、私もロアのことは全然嫌じゃないけれど! けど、今はルデクの平和を優先するってレイズ様にも誓った身だから、、、!」
婚約を提案された僕らが揃ってあわあわしている中、ネルフィアは冷静ににこりとすると「特に問題がないようで良かったです。それで日程ですが、、、」と淡々と話を進めようとする。
そんなネルフィアに待ったをかけたのはサザビー。
「ネルフィア、少しいいですか? 今日で何徹です?」と聞けば、「ほんの三徹目ですが、何か?」との返答。ネルフィア、激務すぎる。これは王に改善を提案するべき案件だな。
僕が余計なことを考えている間に、サザビーは続ける。
「普段のネルフィアでしたら余裕ですが、ここのところ忙しかったので、そろそろ限界ですよ? 疲れてくると出る悪い癖が、、、、」
「そうですか? そんなことは、、、、いえ、言われてみれば、少々結論を急いでいますね。では、寝ます。サザビー、あとはお願いします」
それだけ言うとさっと退出してゆくネルフィア。
僕らはポカンと見送るばかりだ。
ネルフィアがいなくなると「や、すみませんね」と言いながら、先ほどまでネルフィアが座っていた場所に腰を下ろすサザビー。
「実はネルフィア、疲労が限界を超えるとさっきのように結論を急ぎたがるんです。ああなると判断力も低下しているサインなので、指摘すると、寝ます。丸一日は起きないでしょう」
「、、そうなの。ネルフィアも忙しそうだね、、、」
「まあ、今が一番忙しいかもしれませんね。ただ、そうでなくても、、、、」
「そうでなくても?」
「ネルフィアは色恋沙汰には頓着がなくてですね、、少々不躾な物言いですみません」と言いおいて、はははと乾いた笑いを出し、遠い目をするサザビー。その姿を見て、何かを察する僕ら。
それから改めて僕らに向き直ると
「ともかく、こう言ったことはそれぞれの歩幅がありますから、まあ、今回は形式だけ、言い方は悪いですが偽装婚約ということで進めていただけると」
「、、、、そ、それはそうか。分かった」
「そ、そうよね。私もそれなら、、、、」
僕もラピリアも急な展開にあわてて余計な事を口走ったような気もするけれど、気のせいだ、うん。
僕がちら、とラピリアの方を見たら、同じタイミングでラピリアもこちらを見て、それからお互いささっと目をそらす。
そんな僕らの様子を見たサザビーは、また乾いた笑いを吐き出すのであった。
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「話は大体分かっています、今回は双子は残した方が良いでしょうね」
戻ってくるなりテキパキと段取りを進めるウィックハルト。。。。外まで聞こえてた?
僕とラピリアはなんとなくモジモジしながら、ウィックハルトを中心に予定を組んでゆく。
サザビーの説明では、バーミトン家の者達が8日後にゾディアック家にやってくるらしい。僕らはそれまでにゾディアック家に向かい、意見を統一する必要がある。
「ただし、ゾディアック家の皆様には、なるべくなら偽装というのは明かさないでください」
サザビー曰く、貴族社会は独特な情報網があるので、念の為の対策だという。
「状況が落ち着いたら、後日ゆっくり説明すれば良いでしょう」
そんな風に説明するサザビーに、僕らはこくこくと頷くばかりだ。
というわけで、出発は明後日と決まる。メンバーは僕、ラピリアはもちろん、サザビーとしっかり睡眠をとったネルフィア。それにウィックハルトとルファとディックと決まる。
ルファに関してはラピリアの要望。
「妹たちと比較的歳が近いから、相手をしてくれると助かるわ」とのこと。
まあ、家族から何かと突つかれる帰還だ。少しでも話題が分散した方が良い。ディックはルファの護衛としての指名。のんびりしているので子供に好かれやすい点からも推挙された。
それにしても、ラピリアに年の離れた妹と弟がいるのを初めて知った。元々ラピリアはあまり自分の家のことを話したがらない。だから僕らも深く踏み込まなかった部分だ。
別に実家を避けているわけではなく、あまり実家のことをペラペラと話して、悪意ある誰かから足を掬われないようにしていたのだという。
戦姫もそれなりに妬まれるのだ。
「特に妹も弟もまだ子供だから、余計にね。別にロアたちに話したくなかったわけじゃないわよ」と。
ラピリアの妹はレアリー、ルファより3つ年下。弟はビリアン、さらに2つ年下とのこと。
「あとは実家に、両親とお祖父様がいるわ」
ラピリアの祖父といえば、ルデクの大鷲の異名を持った大将軍、ビルドザル=ゾディアック様だ。もはや生ける伝説である。ビルドザル様に実際にお会いできるなんて、感激だな。
「ロア、お祖父様のこと考えていたでしょ?」
ようやくいつもの調子を取り戻してきたラピリアに突っ込まれる。いけないいけない。ついつい顔が緩んでしまう。実際に会った時は気をつけないとだ。
そうして瞬く間に2日が過ぎ、僕らはゾディアック家へと出発したのである。




