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【第27話】喜べぬ勝利と、温かな手のひら。


 厳しい表情のまま、僕らの報告を聞くレイズ様。


 すでにフランクルトは撤退を開始しており、第10騎士団の数隊が対岸の状況見聞及び、追撃戦へと移行している。


 僕とリュゼル隊長は設営された本陣でレイズ様に状況を説明するため、追撃軍には参加していない。


 また、第六騎士団の方の言い分は後で聞くと言うことで、第六騎士団の使者は追い返されていた。


 、、、、怒っているよなぁ。


 無事帰って来た後の、第六騎士団の陣中も重苦しかったけれど。レイズ様の圧はその比ではなかった。凄く恐ろしい。


「それで、帰還できなかったのは何人だ?」

 

 リュゼル隊長が背筋を伸ばして答える。


「はっ! 我らの部隊は負傷者数名のみです。第六騎士団ですが、奇襲作戦に参加した者達から50名ほど、救出作戦に参加したものは10名が帰還しておりません」


 その中の一人がライマルさんで有ることが、僕の心を重くする。


「奇襲作戦に参加した兵は、ウィックハルトを含めて500だったな」


「はっ!」


「、、、、、そうか。2人とも、良くやった。」


「は! しかし、申し訳ございません。本来であれば奇襲作戦を止まらせるのが我らの役目、また、レイズ様の指示を仰ぐことなく勝手に兵を動かしました。出撃判断を下したのは私です。懲罰はいかようでも」


「あ、僕がお願いしたんです! リュゼル隊長は悪くありません!」


 僕らの言葉に少し片眉を上げるレイズ様。


「聞こえなかったのか? 私は良くやったと言ったのだ。正直第六騎士団を止めるのは難しいと考えていた。最悪は我らの着陣を待たずに、全軍で決戦に挑み、負けるところだった。それを考えれば最小の被害で切り抜けたと言って良い。もう一度言う。良くやった」


「、、、、ありがとうございます」リュゼル隊長が深々と頭を下げて、僕も慌ててそれに倣う。


 その様子を見て、会話が一段落したと判じたグランツ様が話題を変えた。


「しかし、フランクルト将軍の評価は改めねばなりませんな。正直以前は堅実な将軍と言う印象でしたが、ナイソル様に勝ったことで自信をつけたのか、随分と大胆な。引き際も早い」


「ああ。なかなかに厄介だ」


 2人の会話を聞いて、僕は気になったことを聞いてみる。


「あの、レイズ様。サクリと言う名前に聞き覚えはありませんか?」


「サクリ? 、、、、、いや、ないな? グランツ、ラピリアは?」


 2人も首を振るのを確認して「それは誰だ?」と聞いてきた。


 僕はこの戦いが先日のエレンの村の一件と絡んでいるんじゃないかという疑問をレイズ様に話してみた。レイズ様も気になっていたらしく、うんうんと頷いている。


「それで、そのサクリと言うのは誰だ?」


「実はゴルベルの貴族の個人の日誌のようなものの中に、そんな名前が出てくるんです。表に出てこない策士がいるって」


「ゴルベルの貴族の日誌? そんなものまで目を通しているのか?」レイズ将軍が呆れる。


「たまたまですよ? 古道具屋に流れて来ていたんですが、貴族目線の戦闘記録が面白くて読みました。尤も、古道具屋に流れてくるくらいですから、本物かはわかりませんが」


「その日記は持っているのか?」


「いえ。目を通したらまた売ってしまいました」


 古道具屋に売ったのは嘘ではないけれど。買ったのは今から20年後のゴルベルを放浪した時の話だ。


「表に出ない軍師ね、胡散臭いわね」ラピリア様が訝しげな視線を僕に向け、それから「軍師ならあのローデライトがいるでしょ? 英雄ローデライト、あいつが企んだんじゃないの?」と言ってくる。


 ゴルベルの将の中でも、知将、勇者、英雄、様々な呼び名で呼ばれているのがローデライトという将軍だ。


 華々しい戦績と、派手な容姿で、広く知られた将ではある。


「いやぁ、、、、ローデライト将軍は、、、ほら、主張が強いというか、、、」


 僕の言葉に、名前を出したラピリア様を含めた、その場にいる全員が納得。


 ローデライトという将は、とにかく俺が目立ちたいという将なのだ。なんなら顔を出していない戦いですら勝った戦いには「俺も出撃した」などと嘯く始末。


 それゆえ後世では、ローデライトの戦績の大半は作り話ではないかと疑われてさえいる。


「確かに、ローデライトならこの場にやってきて大騒ぎしそうだ。サクリ、か。その人物が実在するかは分からんが、裏で糸を引いた者がいる可能性があるなら、調べておいた方が良いだろう。正体のわからぬ策士というのは厄介だ」


 これでこの話はひとまず終わり、それから今後の流れなどを聞いているうちに、渡河していた兵が報告に戻ってくる。


 ある程度覚悟はしていたけれど、報告の中にはライマルさんの戦死の報も含まれていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ともかく勝利だ! 今日は飲め! 歌え!!」


 レイズ将軍が第10騎士団と第六騎士団へ向け声を張り上げる。


 内容はともかく、僕らは敵を撃退した。


 勝利の後の酒宴は騎士団の大切な儀式でもある。死んだ仲間への手向として、どれだけ悲しくても、笑って、騒ぐ。


 今回の酒宴は第六騎士団の方が浴びるように酒を飲んで、殊更大騒ぎをしていた。


 僕も大変だ。第六騎士団救出の立役者の一人となったので、とにかく酒を勧められたり、なんだかわからないけど叩かれたり揉みくちゃにされたりと、どこで誰と会話したのかもよくわからないまま時間が過ぎた。


 それから皆んなが酔っ払ってめちゃくちゃに歌を歌い始めたりした頃、僕はそっと祝宴の輪を離れて河の方へ。


 調子外れな歌が遠くに聞こえるくらいまで離れると、手頃な場所に腰を下ろし、ぼんやりと対岸を見つめる。



「今回の主役が何してるのよ?」


 突然声をかけられて、びっくりして振り向けば、そこにはラピリア様が立っていた。


「なんでこんな場所に!?」


「こっちの台詞よ。酔っ払って川に落ちるんじゃないかと思って心配してついて来てみれば、何してるのかしら?」


「、、、、ちょっと、一人になりたくて、、、」


 そんなふうにいう僕の言葉を聞いて、黙って隣に座るラピリア様。僕の話、聞いてた?


「大方、自分の策で人が死んだ、そんなことを気に病んでるんでしょ?」


「そんなこと? そんな事って、、、、僕が無謀なことを言わなければ、ライマルさんは死なずに済んだんですよ? 僕が殺したようなものです」


「代わりに、400人以上の兵士が助かった」


「数字の話じゃないですよ、、、、」


 不意に、両頬に軽い衝撃が走る。ラピリア様が僕の両頬を挟むようにしてそっと叩いたのだ。


 そのまま僕に顔を近づける。暗がりの中、形の良い唇にどきりとする。


「いい? 聞きなさい」


 ラピリア様の声は真剣そのものだ。


「そのライマルという将は、あなたに助けを求めた。貴方は求めに応じ、ウィックハルト様を助けた。そんな戦いの中でしんがりを請け負って死んだの。私が同じ立場だったら、なんの文句もないわ。むしろ感謝したいくらいよ」


「ふぁけど、、、、」


「レイズ様も言った通り、貴方は良くやった。さ、胸を張ってみんなの元に戻りなさい」



 最後の言葉は、とても優しい響きだった。




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― 新着の感想 ―
うわぁ泣ける。
[気になる点] メインヒロインはやはりこの人か(笑)
[良い点] 出だしが衝撃的で緻密でテンポも良く主人公の良い所が良く出ているお話だと思いますが、ルシファルの事を14話で初めて言うのが構成力を感じます。 軍隊の編成、動かし方等本物の様に臨場感があり緻密…
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