【第261話】ゴルベル使節団① 暇なロア
ルデク、帝国、ゴルベルの三国同盟が公表されて数日後。
歴史に刻まれるこの一件は、瞬く間に大陸中を駆け巡った。おそらく、一番青くなったのはリフレアだ。それにルブラルも慌てただろう。
およそ、大陸の三分の一の地域を有する巨大勢力が誕生したのだ。大陸の勢力図は大きく変化した。
特にゴルベルを傘下に納めたルデクの存在は、今までとは比べ物にならないほどに危険視される。
各国からすれば、ルデクが急速に膨れ上がった帝国のなだめ役に収まるのか、それとも帝国と共謀して攻め寄せてくる狂国となるのか見極めなければならない。
現在のところ具体的に、他国が何らかの声明を出したと言う話は聞かない。こちらの動きを静観しているのは間違いない。
ちなみにルデクは同時に、リフレアへの宣戦布告も明らかにしている。
元はと言えばリフレアが先に手を出したことは既に周知の事実だ。この件はルデクが悪いとはいえない。
どちらかと言えば誕生した厄介な同盟に対して、リフレアが余計な口実を与えたと、捉える国の方が多そうだけど、果たして。
もう僕の知る歴史とは完全に違う。少なくとも、各国の動きで使える知識はあまり残されていない。
北の大陸内には静かに嵐が吹き荒れている一方で、南の大陸から来た商人の多くは三国同盟を歓迎する向きが強い。
特に帝国に造る新港に関しての関心は強く、既に鼻息荒く帝国へ向かった商人たちも少なくなかった。
そんな中、僕はといえば。
「、、、、暇だな」と、執務室でグデっとしていた。
やるべきことは、山のようにある。
一方で、今できることは、ほとんどない。
王都は騎士団の配置換えでおおわらわ。けれども僕の第10騎士団は現在オークルの砦にあり、ザックハート様やホックさんが行かねば帰ってこれない。出立準備にはしばらくかかるだろう。
新港に関しては、ノースヴェル様が思いの外乗り気なので、今のところ僕の出番はない。
僕はノースヴェル様にとって、帝国の新港は損の方が大きな話かと思ったので、協力には消極的かと思っていたけど、ふたを開けてみれば真逆の展開。
曰く、「いや、もちろん旨味のでかい航路だが、ルデクでやってる規模を考えれば東方諸島の交易は帝国に任せ、南の大陸に注力した方がむしろ効率がいいかもしれん。新港ができても、どの道ゲードランドを無視することはできないからな」と本人は既に損得勘定を終えていた。
さらに、「あの娘っ子に任せておくよりは、俺が理想の港を造ってやる!」と、ルルリアへの対抗意識が先に立ちやる気に満ちている。
もはや行き過ぎて喧嘩しないか心配だけど、まあ、あの2人は喧嘩するくらいでちょうど良いか。
待てよ、そういえば新港にはスキットさんも参加するんだった。。。あの3人の組み合わせ、どんな感じになるのかめちゃくちゃ見たい。
と言っても、さすがに遊び半分で帝国に行っているほどの余裕はないのだけど。
そんな風に思っていたのも束の間。
その日のうちに王に呼び出された僕は、「ゴルベルに向かってほしい」と命じられるのである。
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「ゼランド王子を代表に?」
「そうだ」
ゼウラシア王に言われ、緊張した面持ちのゼランド王子。
三国同盟の公表にあたり、帝国に関しては既に十弓対決という催しによってセレモニーが済んでいる。
ルデクにおいても、リヴォーテやエンダランド翁、ゴルベルのシャンダル王子が滞在し、公表後すぐに同盟の儀式を取り行ったので同様だ。
だが、今のところルデク、帝国どちらの主要な使者もいないゴルベルでは、ゴルベル国民に向けた儀式がまだ行われていなかった。
同盟の儀の開催に向け、ゴルベルへの使節団の人選も急がれていたものの、なかなか難航していた。
親善の使者は、それなりの人材でなくてはならない。けれど、こんな時わかりやすい広告塔として存在していたレイズ様も、そしてルシファルもいないのだ。
今回の場合はあくまで民に対するアピールなので、とにかくゴルベルの民が知っている、或いは納得しやすい人物が求められた。
その点においてゼランド王子なら適任だろう。ゴルベルが王子を預けている以上、こちらも信頼の証として、継承権第一位の王子を使者として差し向けるというのは悪くない。
ゼランド王子が行くなら、相応の護衛がいる。そこで、騎士団が戻ってくるまで暇そうな僕らが、適任とみなされた。僕は王子の教育係でもあるし。
「それに、お前の周りには目立つものが多いからな」
王が言うように、戦姫ラピリア、蒼弓ウィックハルトの両名は有名だ。加えて絶対同行するであろう双子も見た目は良い。
「おそらく、戻ってくる頃には第10騎士団も帰還しておろう。頼まれてくれるか?」
状況的に拒否権のない質問だけど、、、、まあ、良いか。
「分かりました。。。ところで、シャンダル王子はどうします?」
この場でにこにこ大人しくしているシャンダル王子。同行させるなら、それなりに警備も増やさなくてはならない。
ゴルベルには当然、ルデクに降ったことを良しとしない派閥も存在するはず。それらが狙うのはゼランド王子ではなく、自国の王子ということもあり得る。
「、、、既にシャンダル王子には伝えてあるが、今回は見合わせることにした。流石に預かってからの期間も短いのでな」と王。
「それもそうですね」
少し可哀想だけど、仕方がない。
「よし、では、早急に準備を進めてほしい。。。。ゼランドよ」
「はい!」
王に声をかけられたゼランド王子が返事をすると、王は少し柔らかな笑顔を見せて続ける。
「そんなに緊張することはない。お前は既に帝国領まで使者として行ったこともあるだろう」
「しかし、、、あれは、その場の勢いというか、、、何も分かっていなかったので、、、」
「使者としての責任や重大さが分かったのであれば、成長しているということぞ。同行するロアは、敵国であった皇帝相手にも一歩も引かずに交渉を成立させて来たのだ。迷うことがあれば、ロアに聞けば良い」
「はい! 分かりました!」
、、、、素敵な親子の会話だけど、そんなに頼りにされても困る。僕だって使者の経験などほとんどない。。。。ウィックハルトとラピリアが頼りだな。僕は密かに二人へ視線を向ける。
僕の視線に気づいた2人は、何を言いたいのか伝わったみたいで、苦笑して小さく頷いてくれた。本当に優秀だ。
こうして僕らは、一路ゴルベルへ向けて旅立つことになったのであった。