【第255話】王家の過去(上)
叔父→伯父に修正いたしました。直し忘れがあったらすみません。
翌日も王と打ち合わせ。昨日は僕らの到着時間の関係もあって、第二騎士団の処遇で終わっていた。
今日は各騎士団の配置についての話し合いが主題だ。
場には僕ら以外に、ザックハート様、トール将軍、ホックさんに加え、事前に王都へやってきていた第五騎士団のベクシュタット様も参加している。
ベクシュタット様はホッケハルンの結果を受け、今後の第五騎士団の持ち場について王に相談にやってきていた。そこにちょうど僕らが戻ってくる知らせも届いたため、到着を待っていてくれたのだ。
ここまで集まっているなら、フォガードさんも呼んだ方が良いかな? いや、でも今フォガードさんが来たら双子に追い回されるからなぁ、、、
「とりあえず後日フォガードも呼ぶが、まずは大筋を本日決めてしまおう」と王が言うので、そのようにする。
一番最初に決まったのは、第四騎士団。暫定的に治めている旧ゴルベル領も含め、現状のまま。ただし持ち場が増えて広大なため、各騎士団より兵を出して増員する。
これにより、第四騎士団は兵数だけなら第10騎士団に次ぐ規模になる見込み。
次に早々に問題が起きた。
「次こそはワシらが出る。だからワシがオークルの砦に入ろう。トール、お前が王都を守れ」
「いやいやザックハート様、今回オークルの砦の警護の一角を担っていたのは我々第七騎士団です。ここは慣れた者が宜しいかと。ザックハート様の第三騎士団は、王都の要として君臨して頂きたく」
「いや、もはや王都周辺に脅威はない。むしろ今回働いた第七騎士団が骨を休めるとよかろう」
互いに気遣っているように聞こえるが、要はお互いに前線に出たいのである。
まだきちんと決まっていないけれど、各将ともにリフレアとはもう一波乱あると考えている。その時前線にいるか否かは、リフレアとの戦いに参加できるかの命運を分ける。
「寒い地方に行くのは老体には堪えるでしょう」
「何、安心せよ。多少寒くても主より強い。そもそも寒い季節ではないではないか」
「ほほう、、、、今度こそ剣で決着をつける時が来たようですな」
「ふん。毎度毎度懲りぬことだ」
なんだか雲行きが怪しくなってきたので、僕が割って入って、ゼウラシア王に水を向けた。
「ゼウラシア王、王は、リフレアとの今後についてはどうお考えですか?」
「、、、、無論、このまま旧領回復で終わりという訳にはいかぬな。向こうから使者が来るかも知れぬ」
使者はおそらく、金銭的な決着を提案してくるだろう。相当な金額にはなる。
「使者が来たら、受け入れるつもりですか?」
「、、、ロア、お前はどう思う」
「滅ぼすべきかと」
思いの外強い口調の僕に、王が少し面食らった顔をする。
「理由を聞こう」
「今回の一件、リフレアはわが国と形ばかりの同盟をしながら、帝国とも内通し、さらにはゴルベルにも軍師を送り込んでいました」
サクリがゴルベルからリフレアに逃げたらしいというのは、ゴルベルの新王、シーベルトが王都にやってきた時に確認している。
確証はないが、、、という前提だったけれど、目撃証言からまず間違いないという。それまでの経緯を鑑みれば、単純に逃げたと言うよりは古巣に帰った。そう考えた方がしっくりくる。
「続けよ」
「さらに今回のやりようから、リフレアはルデクに対して非常に強い悪意を以て牙を研いでいたと考えざるを得ません。甘い顔を見せれば、彼らは時間をかけて、、、再びこちらに牙を剥くと思っています」
「しかし、滅ぼすとなれば大きな抵抗がある、リフレアの民からも禍根を残そう。それに周辺国との兼ね合いも考えねばならん。領土の半分くらいを削り取れば充分ではないか?」王ではなく、口を挟んだのはザックハート様。
通常の戦略であれば、ザックハート様の方が正しいし、無難だ。
けれど。
「なぜ、リフレアがここまでルデクを敵視するか、心当たりのある方はいらっしゃいますか?」
僕の問いに、誰も答えない。
「原因がわからない以上、中途半端なやり方は危険です。それに問題の一つである周辺国に関してですが、一番懸念される帝国とはすでに話がついています」
皇帝が別れ際に言っていた”譲歩”とは、このことだ。
僕が皇帝と約束したのは「ルデクとリフレアの戦いに関する”全て”に対する不戦」だ。要は、ルデクが今後反攻してリフレアに攻め込んでも、手は出すなという意味だ。皇帝は意味をちゃんと汲み取ってくれた。
ルデクがリフレアを喰らえば、大陸でも有数の大国になる。それを踏まえて、互いに譲歩という言葉にしたのだ。
「ニーズホック、リフレアが我が国を狙う理由、何か聞いていないのか?」王から問われたホックさんは「残念ながら」と答える。
僕は続けて別の懸念も口にした。「それと、リフレアを残すことは、ルデクの貴族に対してもよくないかも知れません」と。
「我が国の貴族? リフレアとなんの関係がある?」
騎士団の配置の話が終わったら報告しようと思っていた件、王の伯父であるヒューメット=トラドが生きているかも知れない可能性について僕が話すと、その場にいた事情を知らぬ全員が「まさか」と、首を振った。
けれど、帝国にもたらされた内乱の情報や、ルシファルとリフレアが接近した理由。それをヒューメットと繋げて考えた時の自然さを説明すると、みんなが唸る。
「王の伯父上の事ですので、不遜な話かも知れませんが、、、、」
僕の言葉に王は難しい顔をして、天を仰いだ。
「いや、構わぬ。そうか、、、、伯父上は未だに、、」
含みのある呟きをするゼウラシア王。
「聞いて良い事であれば、教えていただいても?」
僕の言葉に、「うむ」と短く言うと天井から僕らの方に視線を戻す。
「伯父上は、おそらく、未だに父上とお祖父様を恨んでおるのだ」と口にした。