【第249話】ホッケハルンの決戦11 剣
退却の銅鑼に気を取られた僅かな時間、銅鑼の音に示し合わせたように、第一騎士団に襲いかかった部隊があった。
「どこを見ている裏切り者ども!」
「生き様に恥じてそのまま死ね!」
騒がしい一団が突入すると、不意を突かれた第一騎士団の兵達は、その姿を確認するより前に人生を終える。或いは状況がわからぬままに、気がつけば吹き飛ばされていた。
「今度は何だ!」
苛立つルシファルは騒ぎの方向に視線を向けて、再び目を疑う。
「なぜ、あの旗印がここにあるのだ!?」
それは第四騎士団の二頭の山猫。暴虐の双子、ユイゼストとメイゼストのものだ。なぜ、第四騎士団が? まさか、第四騎士団も参加しているのか!? ロアは第四騎士団の参戦を隠すために、兵を分けたと!?
ルシファルは自分でも気づいていないほど動揺している。
なぜだ、なぜ、これほどまで私の思う通りに進まぬのだ!?
どこで間違えた!? どこで主導権が私の手からこぼれ落ちた!?
叫び出したい気持ちを抑えるルシファルだったが、彼は一つ勘違いしている。
この戦い、主導権は最初からルシファルの手の中には無かった。だが本人は気づいてはいない。知る由もない。最初から全てにおいて、ルシファルの思惑を潰すためだけに動いていた人物がいたことを。
双子の強襲により一時混乱した第一騎士団であるが、流石に精強を誇る兵たちである。すぐに立て直すと混戦となる。
金属の擦れあう音と立ち上る砂煙の中、決着の時はすぐそこまで迫っていた。
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双子の突撃を少し離れた場所で見守っていた僕ら。本当は僕らもすぐに突撃したいけれど、「本隊を動かすなら、勝利を確認した時になされよ」とヴィオラさんから窘められる。
言われてみればその通りだ。僕は今、第10騎士団の指揮官なのである。本隊が早々に突入して、その後の状況判断を誰がするのだ。
ぎゅっと拳を握って、僕らは固唾を飲んで戦況を見つめる時間が続く。
そんな本隊の方にも一部の部隊が攻め寄せてきたけれど、ウィックハルトが指揮官と思しき騎兵を一撃の元に射抜くと、早々に退いていった。
「おお! 抜けたぞ!」
興奮しながら叫んだのは、僕の隣で戦況を見守っていたリヴォーテ。
僕らが注視しているのは、双子の部隊とは別の隊旗。
僕は心のなかでレイズ様に語りかける。
ーレイズ様。僕たちの剣が、ルシファルに届きますー
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第一騎士団と第10騎士団が一進一退で激闘を繰り広げる中で、するするとルシファルへ近づいてくる部隊があった。
それを見たルシファルはギリと歯軋りする。
ルシファルも良く知る旗印だ。
その部隊は戦場の中をまるで舞うように、ルシファルの目前に迫って来ていた。"あれ"はここまで辿り着くだろう。
ルシファルは自らの剣を抜く。
そしてついに、ルシファルの前に、一人の騎士が躍り出た。
「会いたかったわ! ルシファル!」
「貴様らはどこまで私の邪魔をすれば気が済むのだ!!!!!」
これ以上の会話は無用。両者が馬の腹を軽く蹴り、一気に距離を詰める!
「ここで決着をつける!!! ルシファル! 覚悟しろ!!!!」
「黙れえええええええええ!!! ラピリアああああああああああああ!!!!」
小柄なラピリアよりも先に、ルシファルの剣の鋒がその顔に突き出された。
「もらった! 死ねぇ!! ラピリア!!」
ルシファルの渾身の突きはラピリアの兜を弾き飛ばし、髪の毛を散らす。
そして、
紙一重でルシファルの突きを避け、ラピリアの放った剣は正確にその喉を貫いていた。
「な、、、ぜ、、、、」
口から血を滴らせながら、ルシファルは心底分からないという顔で、ラピリアを見る。
ラピリアは目を細め、静かに、諭すように言った。
「そうね、、、もしかしたら貴方は、未来から嫌われたのかもしれないわね」
その言葉がルシファルに届いたかは、ラピリアには知る由もない。そして、どうでも良いことだ。
ルシファルは馬上からゆっくりと崩れ落ち、音を立てて地面に突っ伏した。
かつて、ルデクに滅亡を招き入れた梟雄、ルシファル=ベラス。何も得ることなく、何も残すことなく、ただ、戦場に散る。
ルシファルが完全に動きを止めたのを確認したラピリアは、すっと剣を天に掲げたのであった。
明日は250話到達記念で、お昼にSSも更新いたします。