【第240話】ホッケハルンの決戦② コラックの砦
「それじゃあ、フレイン、リュゼル。頼むね」
「ああ、任せておけ」
「ロアの方こそ、気をつけろよ」
第10騎士団の中から別働隊として進むことになる部隊の中で、僕が一番頼りにしている2人へ指揮を託す。
フレイン隊およびシャリス隊は、ここから真っ直ぐにホッケハルンの砦に向かう。目的はもちろん、ホッケハルンの砦の支援。
現在ホッケハルンには第六騎士団と第七騎士団の両騎士団が籠り、守りを固めている。
ただし第七騎士団は元々率いてきた兵士が、総兵力の半分だ。第六騎士団は前回の攻防戦のダメージもあり、新兵を除き兵力は4000ほど。両騎士団を合わせても6500を超えるくらいしかない。
そこで、第10騎士団から2つの中隊、合計4000の兵を送る。
守備兵が10,000を超えれば、ルシファルとてそう簡単にホッケハルンを制圧することはできないはずだ。
ちなみにシャリス隊には第一騎士団と、第九騎士団の隊旗を預けてある。砦に入ったら立てるように、と。これで少しでも敵の動揺を誘えれば良いのだけど。
そして僕ら本隊とラピリア隊が向かうのは、コラックという砦。
ホッケハルンの砦を支援するために存在している小砦だ。要衝となる大きな砦の周辺には大抵、こういった小さな砦がひとつふたつ用意されている。
同様のケースとしては、ゼッタ平原でレイズ様とゴルベルの部隊が激戦を繰り広げた小砦。あれはコラックと同じ用途で、キツァルの砦を支援するための物だった。
レイズ様が野戦に打って出たように、砦自体の守備力は主要な砦とは比ぶべくもない。基本的には主力の砦に攻め寄せる敵を牽制するための、仮の拠点のような役割である。
僕があえてコラックの砦に向かう理由は大きく2つ存在する。一つは少しでも敵の兵力を分散させるため。もしもコラックを無視するというなら、それならそれで相手の横腹をつくような策も選択できる。
そしてもう一つ。これが一番重要な狙い。さて、ルシファルは僕の読み通りに動いてくれるかな、、、、多分、大丈夫だと思うけれど、、、
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「第10騎士団が兵を分けただと?」
偵察に出していた兵からルシファルに届けられた情報は、少々腑に落ちない内容だった。
常に放っていた密偵の情報を加味すれば、ホッケハルンの砦に詰めている第六騎士団と第七騎士団の総兵力は推測済み。多少の変動あれど無理やりかき集めても多くて7000が限界。8000は無理だろうと踏んでいた。
第10騎士団に関しては、総兵力で1万以上の兵士がいると踏んだ。すると、ホッケハルンに籠るのは2万弱、いや、2万を超えるとみて良い。
こちらの総兵力は3万5千近い。この程度の兵数差であれば、地理的優位を持っている分、守る方が若干優位だ。
しかし、これはよく知らぬ敵の砦を攻める場合の話。ホッケハルンに関しては事情が異なる。
王都の守護者であった第一騎士団にとって、王都から最も近い要衝であるホッケハルンの砦は自分達の縄張りのようなものだ。
ゆえに内応者も数多く送り込むことができた。残念ながら、内応による内部崩壊はすんでのところで第10騎士団に阻止されたものの、ルシファルの仕込みはこれだけではない。
王都に攻め上るにあたって、必ず障壁になるであろうということは分かっていた砦だ。時間をかけて様々な工夫を施しておいた。
例えば、内側からかんぬきを掛けても、表から門を開けることが出来るような仕掛けを全ての城門に仕掛けてある。
或いは、いくつかの場所で地下を掘って砦内に侵入できる経路を隠してあった。
他にも砦内には砦を陥落させるための準備が多数眠っていた。ルデクの兵たちが何人いようと、砦に籠るようなら一気にこちらの有利に進めることができる。
また、仮に打って出てきた場合も問題ない。砦を頼って戦わないのであれば、数の差で押し切ることもできる。
まして、率いているのがこの俺、ルシファル=ベラスである以上、野戦での負けは考えなくて良い。
だがここに来て腑に落ちぬ第10騎士団の動きだ。わざわざ守備兵を減らす意味はなんだ?
まず考えられるのは、こちらの兵力を過小評価して、攻め寄せるのは守備側と同程度と考えたケース。
ホッケハルンは抜けないとみて、状況によっては、直接北の占領地を窺う構えという可能性はあるか?
いや、レイズがいないとはいえ、流石にそこまで間抜けではなかろう。みすみすホッケハルンを見捨てるようなものだ。ルシファルはすぐにその可能性を否定する。
ならば次に考えられるのは、別動隊による奇襲によって、厳しい戦況に光明を見出そうとするケース。
これは多少ありそうだ。ロアという指揮官はあのレイズが目をかけていた男。レイズはこういった奇手を好む。それを踏襲したか。
ルシファルは少し鼻で笑う。
だが、ロアはレイズではない。上っ面だけ真似たところで一体なんになるというのか。
あとはそうだな、、、ハエのようにまとわりつく別働隊を私が嫌がると考え、一部の部隊をコラックに割かせよう、そういった魂胆か。
情報によればホッケハルンの砦に入った第10騎士団は、5000そこら。ならば少なく見ても残りの6000以上の兵が小さな砦でこちらを窺っていることになる。
決して侮れる兵数ではない。通常であれば、動きを封じるために1万ほどの兵士を差し向けるところだろう。
こちらの兵を分ければ、ホッケハルンの兵数でも十分に守り切れると踏んだと考えればどうだ?
そして、こちらがホッケハルンを攻めあぐねて、被害が広がれば退却するのでは、そのように期待しているのではないか?
、、、ふむ。これが一番あり得そうだ。正直、策としてはなかなか悪くない。無論、ホッケハルンが実際には穴だらけの砦であることを除けば、という前提ならだが。
レイズの部下ならこの程度は考えそうだな、おそらくここが狙いか。ならば、こちらはどうするか。
確かに放置は少々煩わしい。もしも予期せぬ策を講じているようなら、野放しというのも良くはない。
だが、あまり無駄に兵を割きたくもない。
、、、、あえてコラックの砦に寡兵をぶつけて、互いに消耗させてはどうか?
コラックの砦にいる第10騎士団に何か策があったとしても、戦力を大きく削られれば、たいしたことはできぬであろう。
、、、、、なら、適任がいるな。
ルシファルは自分の考えに穴がないか改めて確認すると、伝令にある将を呼ぶように命じるのだった。